2002年2月2日(土)「しんぶん赤旗」
NGO参加拒否問題に端を発した一月二十九日深夜の外相、外務事務次官、衆院議運委員長更迭・辞任劇は、東京・永田町のみならず列島中に波紋を広げています。とりわけ田中真紀子前外相は、小泉純一郎首相の「生みの親」を自任、同内閣の高支持率を支えてきた「看板大臣」だっただけに、更迭劇が今後に与える影響はきわめて深刻です。(梁取洋夫・政治部企画委員)
|
「政治改革をしっかりやらないと、それ以外の事は前に出ない。それが国民のニーズであると…」(三十日夜)。更迭から一夜明けた田中外相は、無念さをにじませながら、こうのべました。
一方、自民党各派閥の総会(三十一日)では、橋本派が気勢を上げ、江藤・亀井派会長の江藤隆美氏が「外相交代なら内閣改造をやるべきだ」と勢いづいたのと対照的に、首相の出身母体・森派は複雑な表情でした。
「不十分だが、機密費や公費横領などで外務省に捜査のメスが入った。真紀子が外相でなかったら、あそこまでもいかなかったろう」(著名な政治ジャーナリスト)
さまざまなトラブルを引き起こしながらも外務省を「伏魔殿」と呼び、「改革」を唱え続けた初の女性外相。ところが――。
自民党“族議員”の「圧力」で外務官僚が、一部のNGO(非政府組織)を国際会議から不当に排除する――「政・官・財癒着」の自民党政治の最悪の一端が表面化したとき、首相が取ったのは、関係者更迭による真相究明の幕引きでした。
小泉首相は「自民党を変える」「政治を変える」といいながら、その絶好のチャンスを自ら閉ざし、代わりに旧来の自民党的手法で、自らの“保身”のための「大ナタ」を振るったのです。
「これでいい。(鈴木宗男衆院議運委員長の)後任は平成研(橋本派)からは出しませんから」。更迭直後の三十日未明、青木幹雄参院自民党幹事長は、森喜朗前首相に電話でこう伝えました。
問題が国会の場で、激しい与野党対決に転化した直後、二十八日の自民党役員会。「こうなったら三人とも辞めるのが一番いい。三方一両損だ」と言い出したのは青木氏でした。
小泉「改革」――。米国言いなりで憲法を踏みにじり自衛隊を戦時に海外派兵させる、深刻な経済不況を放置し、「弱肉強食」で米国を含む大企業や大銀行の食い荒らしに道を開く一方、大失業と福祉切り捨てで国民に耐え難い「痛み」を強要する…。
これに対するいわゆる「抵抗勢力」――。小泉「改革」の基本は容認しながら、公共事業に群がり、予算の配分と引き換えに「票と金」の見返りを受ける従来の自民党型利権構造を「死守」しようとする集団。いずれにせよ国民不在の抗争にすぎません。
不毛の攻防の中で、竹下登元首相の秘書を務め「公共事業王国・島根」選出の青木氏は、当然、「抵抗勢力」側の最大派閥・橋本派に属する最高実力者です。が、同時に、小渕恵三内閣誕生時のいきさつなどから小泉氏と親しく、首相の「後見人」といわれてきました。
そんな立場の青木氏が、昨年秋ごろから首相批判を強化。とくに高速道路建設と道路四公団整理問題が起こると、密室での小泉、森、青木三者会談で「自民党をないがしろにしてはいけません」と首相を叱責(しっせき)。翌日の道路問題実質「先送り」、妥協を引き出しました。
青木氏は、首相と幹事長経験者による暮れの忘年会では、「抵抗勢力が本気を出したらどうなるか…。こっちが腹を決めて命がけで抵抗すれば勝負にならないわね」(十二月二十一日夜)とまで言い切ったのです。
首相もさる者。これには自民党大会後の日本記者クラブでの講演(一月十八日)で「(抵抗勢力が本気になったら)こちらも本気を出す。だから抵抗勢力も本気を出せない」と精いっぱいの強がりを見せました。
ところが、大手建設、流通の倒産から都市銀行の危機まで予想されるいわゆる「三月危機」に乗じて、あわよくば政権交代をともくろむ「抵抗勢力」側は副大臣、政務官の入れ替えを要求。橋本派から九人の新人を登用。加えて“花形”とされる衆院予算委員長には津島雄二氏、国会運営の“要”・議運委員長には野中広務元幹事長の「腹心」鈴木宗男氏(ともに橋本派)を送り込みました。「外堀を埋める作戦」(橋本派議員)でした。
今回は、それが“裏目”に出ました。「与野党対立を打開しようにも、議運委員長が肝心の“被疑者”。これでは野党がのめる解決案など出せるわけがない」(同前)。
結局、第二次補正予算案は予算委も衆院本会議も、与党単独による採決強行しかなく、それとセットの「打開策」として外相ら三者の更迭・辞任案が浮上したのです。
「“真紀子的なもの”を失った小泉総理は、いわゆる“在来の自民党的なもの”にすり寄って行くしかないだろう」(政治評論家・早坂茂三氏のテレビでの発言)
大手新聞の調査では、「田中外相を解任すれば、内閣支持率が一五パーセント程度下がる」との予測があります。小泉首相はそれを承知で、あえて外相を“切った”のです。
今回の問題も「田中角栄元首相の娘対旧経世会」の“怨念(おんねん)”も含めて、元をたどれば震源地は政府・自民党内。矛盾の一つが噴出したにすぎません。
「自民党最後の内閣か」といわれる小泉内閣。しかし、その「終わりを告げる鐘」を鳴らすには、主権者・国民のより結束した包囲網が必要です。
機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。
著作権:日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp