2002年1月31日(木)「しんぶん赤旗」
【ワシントン29日坂口明】二十九日夜に行われたブッシュ米大統領の初の一般教書演説は、四十五分強の演説のうち三十分を対テロ戦争、本土防衛、軍事・安全保障問題に費やした異様なものでした。
エネルギー卸売り最大手エンロンの倒産に象徴される規制緩和経済政策の破たんや高失業による国民の生活不安の高まりにもかかわらず、内政問題は各課題が一言ずつ述べられるだけ。「企業には最高の行動規範を」などと言うものの、「エンロン」への言及はありませんでした。
軍事・安全保障政策では、対テロ戦争は「始まりに過ぎない」として、フィリピン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ソマリアに拡大され、今後も継続、拡大する意図が表明されました。同時に、「テロ脅威」論と「ならず者国家脅威」論の結合が打ち出されたことが注目されます。
ブッシュ大統領は、テロ組織の脅威と、北朝鮮、イラン、イラクの「ならず者国家」の脅威を同列で論じました。イラクの脅威を詳述する一方で、警戒すべきテロ組織としてハマスやヒズボラを名指しし、イラン敵視姿勢も鮮明にしました。
同大統領は、二つの「脅威」論の結合を打ち出した直後に、「効果的なミサイル防衛の開発、配備」を強調しました。ここには、昨年の米同時テロでもテロ対策には役立たないことが判明したミサイル防衛計画を、二つの「脅威」論を結合することによって売り込もうとの意図が露骨に示されています。
こうした「脅威」論の強調は、「過去二十年間で最高の軍事予算増額」を正当化するためのものです。これにより米国の軍事予算は前年比15%増の三千八百億ドル(約五十一兆円)台に乗り、ソ連のアフガニスタン侵攻を口実にレーガン政権が急増させて以来の急上昇に転じることになります。
米国を直接攻撃する対等の力をもった敵国が存在しないと米国自身が認める状況下で、米ソ冷戦対決時代を上回る異常な軍拡が展開されようとしています。
【ワシントン29日西村央】ブッシュ大統領にとって初めての一般教書演説がおこなわれた二十九日夜の米下院本会議場。上下両院議員に加え、閣僚、軍首脳、最高裁の裁判官らが会場を埋めましたが、大統領の演説に拍手を送らない議員も目につきました。減税、通商など国内問題では民主、共和の対立もくっきり示される場となりました。
本会議場をコの字型に取り囲むように設けられている傍聴席には、ブッシュ大統領と軍事支援問題で合意したばかりのアフガニスタン暫定統治機構のカルザイ議長や、ニューヨークでの同時テロの際に救助にあたった警察官や消防士なども招かれました。ブッシュ大統領が演説のなかで、これらのゲストにふれるたびに会場は大きく沸き、ほとんど全員が立ちあがって拍手を送っていました。
しかし、「アフガニスタンでの(女性の権利の復活などの)前進は米軍の力に帰するもの」と強調した際には、すわったままで拍手もしない議員も目立ちました。
通商交渉で大統領の権限を強化する法案で議会承認を求めた部分や、将来に向けた長期的成長をかちとるために減税の実施をと訴えた時には、立ちあがって拍手したのは共和党席のみ。民主党側はほとんど全員がすわったままで拍手もせず、秋の中間選挙を前にした対立が早くも露骨に出ていました。
約四十五分の演説の終了間際になると議場には空席が目立ち始め、その数は民主党が約三十、共和党が数席でした。
この演説でブッシュ大統領は、政権を巻き込んでいるエンロン疑惑についてはふれませんでしたが、ラジオで演説を聞いていたタクシー運転手は「なぜこれほど大事な問題を一言もいわないんだ。納得できない」と不満を語っていました。
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