2002年1月11日(金)「しんぶん赤旗」
奄美大島沖の不審船事件をめぐって、いったいどういう事実経過があったのか、公海上である排他的経済水域でとった海上保安庁の対応は、国際法上、国内法上どのように説明されるのか…。日本共産党の大幡基夫衆院議員の質問で明らかになった問題点をみてみました。
第一に、これまでまったく明らかにされていないのは、海上保安庁が出動する前の段階です。
大幡氏は、事件前の「(十二月)十九日までに米軍から防衛庁に『複数の工作船』の情報が入った」「『象のオリ』とよばれる通信施設で北朝鮮との交信とみられる電波を傍受した」という報道を紹介。事実経過の説明を求めたのにたいし、防衛庁の首藤新悟防衛局長は「報道にコメントするのは適切でない。通常の警戒監視活動をおこなっていたP3Cが撮影した写真から不審船と判断した」とのべました。
続いて大幡氏は、海上自衛隊が不審船を発見してから、海上保安庁に第一報を伝えるまで九時間もかかっていることを取り上げました。
海上自衛隊の哨戒機P3Cが不審船を発見したのは、十二月二十一日の午後四時三十二分。ところが海上保安庁への第一報は翌日の午前一時十分でした。「不審船を発見した時点で、なぜ海上保安庁に報告しなかったのか」と大幡氏は追及しました。
首藤局長は発見から第一報までの経過を説明(別項左上参照)。「九時間も遅れたわけではない」とのべましたが、発見直後に海保へ連絡しなかった理由については答えませんでした。
さらに、この九時間に、不審船がどこから、どこまで、どのように走行したのかも明らかになっていません。防衛庁の北原巌男運用局長は大幡氏に「(不審船を)追尾しておらず、航跡図はない」と答弁しました。
不審船がどこで何をし、その犯罪容疑は何か――今回の事件に対する疑問の一つです。これについて大幡氏が「不審船」の定義をただしたところ、海上保安庁の縄野克彦長官は「海上保安庁法二〇条二項二号〜四号(別項下)の概念に相当する」とのべました。
大幡氏は不審船の目的について、十二月二十三日の記者会見で扇千景国土交通相が「多分、なにかの目的を果たして帰る途中だったろうと思う」とのべていることをあげ、その根拠をただしました。扇国交相は「可能性を想定したもの。日本から離れる方向に向かって走っていたから、目的を達成したものと考える」とのべました。
大幡氏は、不審船に対する海上保安庁の対応について、国際法、国内法の根拠をただしました。
縄野長官は海上保安庁の巡視船がおこなった(1)停船命令、(2)威嚇射撃、(3)船体射撃、(4)排他的経済水域外への追跡――のそれぞれについて根拠となる法律を示しました(別項左)。さらに「重火器をふくめ、武器をもっていることを想定して、船体射撃をおこなわせた」とのべ、あらかじめ準備していたことを認めました。
第二〇条二項二 当該航行(日本の領海内の無害通航でない航行)を放置すればこれが将来において繰り返し行われる蓋然(がいぜん)性があると認められること。
三 当該航行がわが国の領域内において…(重大凶悪犯罪)を犯すのに必要な準備のため行われているのではないかとの疑いを払拭することができないと認められること。
四 当該船舶の進行を停止させて立入検査をすることにより知り得べき情報に基づいて適確な措置を尽くすのでなければ将来における重大凶悪犯罪の発生を未然に防止することができないと認められること。
【停船命令】
海洋法条約五六条一、排他的経済水域(EEZ)法三条一項により、日本のEEZにおいて適用されるEEZ漁業法五条一項に違反する恐れがあることから、漁業法七四条三項にもとづく検査を実施しようとしたもの
【威嚇射撃】
不審船が漁業法七四条三項の検査を忌避し逃走。漁業法一四一条二項の検査忌避罪の現行犯であることから、海上保安庁法二〇条一項により、準用する警職法七条の「人に危害を与えない武器使用」として行ったもの
【船体射撃】
海上保安庁法二〇条一項が準用する警職法七条の「人に危害を与えない武器使用」として行ったもの
【日本のEEZ外での追跡】
海洋法条約一一一条二、EEZ法三条一項四にもとづく追跡権を行使したもの
海上保安庁へ通報するまでの自衛隊・防衛庁の動き(防衛庁答弁から)
| 12月21日 | |
| 16:32 | 自衛隊のP3C哨戒機が奄美大島から北北西約150キロの海域で不審な外国船舶を発見 |
| 17:00ごろ | P3Cが当該船舶を撮影 |
| 18:30 | P3Cが海上自衛隊鹿屋基地に帰着 |
| 19:00ごろ | 撮影データの解析開始 |
| 20:00ごろ | 海上幕僚監部へデータの電送を開始 |
| 22:30ごろ | P3Cが鹿屋基地を離陸 |
| 23:50 | P3Cが不審な外国船舶の位置を確認 |
| 22日 | |
| 0:30ごろ | 防衛庁が当該船舶を不審船と判断 |
| 1:10 | 防衛庁が海上保安庁に第一報 |
機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。
著作権:日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp