2002年1月8日(火)「しんぶん赤旗」
関口 ここで話をすすめましょう。二十一世紀の世界はどうなるのか、どういう方向に努力をすべきなのか、そこがいまいちばん関心の深いところだと思います。
不破 アメリカの覇権主義がむきだしになってくるという問題については、覇権主義の横暴や無法を打ち破るたたかいに、自覚ある勢力が全世界で立ちあがるということが、非常に大事ですよ。そのことは、一昨年の党大会でも、大いに強調しました。
さらに、どういう世界を建設してゆくかという点では、二十一世紀にふさわしい平和の国際秩序をつくるたたかいと努力ですね。
不破 この問題で、私は、昨年十月、「テロは世界を変えたか」という朝日新聞のインタビューの機会に、二つの提唱をおこないました(朝日新聞十月二十六日付、「しんぶん赤旗」十月二十九日・三十日付に全文)。
一つは、国連憲章にもとづく国際的な平和の秩序を、本気でつくってゆく努力です。
国連憲章は、第二次世界大戦の教訓から、二度とこのような戦争を起こさせないという立場でつくられたものですが、残念ながら、大戦後の“米ソ対決”といわれた時代には、それぞれの大国の思惑が世界政治で幅をきかせて、国連憲章が世界秩序に現実に生かされることとは、ほど遠い状態が続いてきました。ソ連の解体後は、今度は、アメリカの覇権主義が、国連憲章を世界秩序に生かすうえでの、重大な障害物となっています。
しかし、この憲章は、二十一世紀が二十世紀からひきついだ価値ある遺産のうち、最良のものの一つですから、その力を本気で発揮させる努力、国連憲章に定められた方向での世界の秩序づくりが、二十一世紀の大きな課題となると思います。
これは、いまの国連が、そのままで、憲章どおりの役割をただちに引き受けられる、というわけではありません。テロと報復戦争の問題でも、国連側の言動には、理性と法にもとづく対応の追求という点で評価できるものもあれば、報復戦争の動きに流されただけの無力なものもありました。
国連とは、百八十をこえる国ぐにが平和を追求する真剣な討論の舞台であり、また、道理ある一致点にもとづいて平和のために共同する舞台です。二十一世紀は、国連が憲章に定められた平和の力量を的確に発揮することをめざし、国連中心の国際秩序をつくりあげることをめざす国際的な大運動――初心にかえった国際的努力がいよいよ重要になる時代となるでしょう。
庄子 あのインタビューで不破さんが提唱したもう一つの点は、「異なる文明のあいだの平和共存」でしたね。新鮮な衝撃をあたえられた提唱でした。
不破 いまの世界は、文明的にも、経済的にも、さまざまな価値観をもった国ぐにから成り立っています。どの国、どの民族も、その歴史に根ざした社会生活と文化的伝統、経済や政治のシステムをもっていますし、社会進歩の道も、その国の人びとが、歴史の成果をふまえながら、探究し、実現してゆくものです。そのなかで、人類全体に共通する価値観もおのずから発展してきますが、それは、これが“普遍的価値”だと言って、外から押しつけられるものではありません。
ところが、これまで、いわゆる西側世界が、経済的に見て、世界のいちばん発達した部分を代表しているということから、自分たちの社会で通用している「価値観」を無条件で他の世界に押しつけるということが、しばしばありました。この状況の背景には、独占資本主義の国ぐにが、アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカの多くの地域で、植民地支配者として君臨したという歴史も、強く働いていました。
二十一世紀は、諸民族が、対等・平等の立場で、地球上の一つの国際社会を形づくってゆく世紀です。その意味でも、異なる価値観をもつ文明の平和共存の道を探究することを、この世紀の大きなテーマにすべきではないでしょうか。
私は、これまでアジアの国ぐにを訪問するごとに、そのことを痛感していましたが、テロと報復戦争という問題が起き、一部で「文明の衝突」といった不吉な声が聞こえてきたのを見て、このことをあらためて提唱したのです。
世界のどの国、どの民族も、自分たちの住んでいる社会の文明的内容、経済や政治のシステムを絶対至上のものとして、他国に押しつけるといったやり方はやめて、互いの価値観を尊重しあう態度で世界にのぞむ、こういう態度が、これからいよいよ必要になってくると思います。いま、イスラム世界との共存という問題が、大きく浮かびあがっていますが、イスラム諸国との関係にかぎらず、これからの世界では、このことが非常に大事だと思います。
関口 イスラム世界は人口の合計約十二億人、イスラム諸国会議機構の加盟国は五十七カ国、今日の世界の非常に大きな部分ですからね。
不破 このあいだ、私たちの調査団がパキスタンの現地を訪問して、難民問題など広範な調査活動をやってきました。現地では、パキスタン政府にも、いろいろお世話になったので、帰国してから、団長の緒方さんをはじめ調査団の人たちがパキスタン大使館をお礼に訪問したのです。大使との懇談の時、緒方さんたちのところにだけコーヒーが出て、大使の席には何も出ない。「どうして」と聞いたら、大使が「いまはラマダン(イスラムの断食月)ですから」と答えた、というのです。日本に来て、外交活動にあたっているその最中でも、ラマダンの決まりはきちんとまもる、これがイスラム社会なんですね。
関口 なるほど。
不破 「文明の共存」という問題では、資本主義世界は、二十世紀のはじめに、重大な体験をしているのです。一九一七年、ロシアに社会主義政権が生まれた時、資本主義世界の最初の反応は、いわば“この地球上に、資本主義とは別個の体制の存在を許せるか”というものでした。それが、イギリスのチャーチルを先頭に、十四カ国がのりこんで社会主義政権をつぶそうとしたあの干渉戦争でした。
ロシアの側では、資本主義諸国との「平和共存」という考えは早くから生まれていて、レーニンがその提唱をおこなったりしていたのですが、資本主義世界の側で、そこに到達したのは、その干渉戦争に失敗したあとのことでした。一九二二年に、ヨーロッパの戦後復興のための国際会議(ジェノバ会議)を開催する時、異なる経済体制の共存という態度がはじめてうたわれ、ロシアの社会主義政権も招待することになったのです。ここには、二十世紀の歴史の貴重な教訓の一つがあったと思います。
この教訓に学んで、二十一世紀は、異なる価値観をもった文明の「平和共存」で、実りある成果をあげられる世紀にしたいですね。(つづく)
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