2002年1月7日(月)「しんぶん赤旗」
日本の狂牛病問題は「みんなの責任」という武部勤農水相。しかし日本での狂牛病発症牛が九六年春以降に生まれたことを考えると、同年のWHO(世界保健機関)の勧告を日本政府が実施していれば、発症は防げたはずです。この政府の責任は、専門家検討会(BSEに関する検討会)と農業資材審議会飼料検討委員会の二つの議事録が証明しています。(宇野龍彦記者)
「海綿状脳症の兆候を示すいかなる動物のいかなる部分も製品も、人または動物の食物連鎖に入れてはならない」。九六年四月、WHOはこう勧告しました。
農水省は同月八日、この勧告を受け、熊澤英明畜産局長(当時、現事務次官)も参加して「海綿状脳症に関する検討会」を開催しました。議事録によると、複数の専門家の委員から「日本でも英国と同様、動物性飼料の禁止令を出し、脳、リンパ節の流通を禁止したほうがよい」「法的措置が必要」という意見が続出しました。
輸入飼料について「未確認情報であるが英国は禁止(一九八八年)後他国へ輸出していたとの情報も伝えられている」との指摘もありました。
この意見にこたえないまま同二十四日に開かれた農業資材審議会飼料検討委員会。ここでも二人の委員から「禁止すべきだ」と、肉骨粉使用の法的禁止を求める意見がだされました。
昨年十二月に公表された議事録によると、横山光弘流通飼料課長(当時)は重ねて法的禁止を迫る委員に「五月にでもお集まりいただいて結論をだしたい」として、会議を終わらせました。
しかし約束した会議は開かず、肉骨粉の法的禁止を昨年九月まで五年間も遅らせました。
昨年十月十八日に急きょスタートした狂牛病全頭検査では、多くの擬陽性がでるなど大混乱しました。
九六年四月八日の検討会では検査体制の不備も問題になっていました。
委員からは「疑わしきは禁止し、診断及びその感度の問題等、今までの診断の整理、よりよい診断法の開発が必要」「診断指導は最新の技術に基づいたものであるべきだ」「日本でもトレーニングコースをつくったらどうか」など、検査体制の強化を求める意見がだされていました。
しかし農水省は、これらの意見も黙殺。昨年十月まで五年間も放置してきました。専門家の提起を農水省、厚生労働省が生かさなかった結果、全頭検査で「擬陽性」の診断が下った食肉の価格低下など酪農家に大きな被害を与えています。
1986年 英国で感染牛が大量発生 88年 7月 英国反すう動物への肉骨粉禁止 94年 7月 EUが肉骨粉飼料・肥料禁止 96年 3月 のちに国内初と3頭目の狂牛病発症牛となる牛が生まれる 4月 2頭目の感染牛生まれる WHOが狂牛病対策勧告 農水省専門家検討会開く 農水省飼料検討委員会開く 農水省が反すう動物の肉骨粉を混ぜないよう行政指導 97年 7月 BSEを家畜の法定伝染病指定 2000年12月 EUから肉骨粉の輸入停止を行政指導 2001年 4月 農水省がEUの狂牛病評価を拒否 9月 国内初の狂牛病確認。農水省、牛への肉骨粉使用禁止 10月 農水省、肉骨粉の輸入流通一時停止 11月 2、3頭目の狂牛病発見
一面所報、山内一也東大名誉教授へのインタビュー内容は次のとおりです。
――反すう動物の飼料に反すう動物の肉骨粉を使ってはならないという九六年四月のWHO勧告どおり法的に使用を禁止していれば、日本での狂牛病発生は防ぐことはできたのでしょうか。
山内 九六年以前に、BSEで汚染された肉骨粉が輸入され、国内に入っていました。EU(欧州連合)諸国と同じように、国内にBSEが侵入することは食い止めることはできなかったのです。しかし、勧告どおり使用禁止にしていれば、日本でのBSE拡大の可能性は、防ぐことができました。
九六年以降のBSEに汚染された肉骨粉を食べた牛が、肉骨粉になって、また牛の飼料にされました。
WHO勧告どおり、ほかの国は九六年から九七年にかけて反すう動物の肉骨粉の使用を禁止しました。しかし、日本はそれをやらなかったんです。
EUは、九八年からおこなった日本のステータス評価(危険度評価)=農水省が昨年拒否=で、日本が汚染された肉骨粉を輸入し、さらに使用を法律で禁止しなかったことを指摘しました。日本が国内でBSEを拡大させた問題があると、EUの報告書が指摘している通りです。
――政府の行政対応について、率直に感じていることは…。
山内 九六年の勧告を受けた検討会では、専門家から肉骨粉の法的規制を求める意見が出されました。しかし、行政指導にしてしまったことが、大きな問題でした。BSEへの問題意識、認識が甘かったといわざるをえません。
私は、ウイルスの専門家で、行政の問題には詳しくありません。ただ、農水省は、もっと国民の健康を守るという視点を持つべきです。家畜の健康を守る、つまり家畜生産者の保護には力をいれていることはわかりますが家畜の産物は人の口に入るものです。国民の健康を守るという認識を深めることが大事です。人の健康は厚生労働省任せという考え方はやめてほしいというのが希望です。
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