2009年2月23日(月)「しんぶん赤旗」

臨床研修制度 見直し案

小池晃政策委員長に聞く

「よい医師育てる」視点欠落


 厚生労働省と文部科学省の合同専門検討会(座長・高久史麿自治医科大学長)は、「医師不足を深刻にしている医師の偏在に対応するため」として検討していた臨床研修制度の見直し案をまとめました。この見直し案をどうみるか、医師でもある日本共産党の小池晃政策委員長に聞きました。


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 見直し案は、今まで大学卒業後二年間の研修で産婦人科、小児科など七科を必修としていたものを、内科など三科に減らして残り二科を選択とし、実質一年に短縮できるようにするものです。合わせて、研修病院の絞り込みなどで、大学病院に研修医を集めようとしています。

 しかし、これは医師の基本的な診療能力を向上させようと始めた制度の趣旨をゆがめるだけでなく、医師不足の解消にもつながりません。

能力の向上へ一層の充実を

 一人前の医師になるためには、医師免許を得た後も、現場の経験を積むことが不可欠です。そのために、二〇〇四年につくられたのが臨床研修制度です。すべての医師が、将来どんな専門分野についたとしても、基本的な診療能力を身に付ける点で、国民の願いに応えるもので、日本共産党も長年、要求してきました。

 一九六八年に、医学部の卒業生を一年間無給で働かせてきた「インターン制度」が廃止されました。それ以来、日本には医師の公的な研修制度は存在せず、国は、医師の研修に対する責任を放棄していました。

 そして、低賃金、重労働で過労死事件まで起きるなど社会問題となる中で、新しい臨床研修制度がつくられたのです。

 はじまってまだ五年ですが、臨床能力が向上したという調査結果も出ており、一定の成果をあげてきたと思います。さらに充実させていくべきです。

医師不足問題研修制度と別

 一方で、今回の制度見直しのきっかけとなったのが、新しい臨床研修制度が「医師不足の原因になった」という議論です。

 なぜ、こうした議論が起こるのか―。臨床研修制度ができる前は、医学部を卒業し医師免許を取得した学生の多くは、大学の医局に所属しました。多くの研修医を抱えた大学病院から、中堅・ベテラン医師が地方の病院に派遣され、医療体制を維持してきました。

 しかし、医師としてまず身につけるべきは、「頭が痛い」「おなかが痛い」という患者さんにどんな病気が潜んでいるかを診断し、初期治療を行う能力です。それには、すでに診断のついた患者さんが多い、高度医療や専門に偏りがちな大学病院は向いているとはいえません。

 新しい研修制度で、研修医は自由に研修先を選択できるようになり、研修医の多くが、基礎能力を身に付けられる地域医療の第一線病院を選ぶようになりました。その結果、研修医が集まらなくなった大学の医局が、地域病院へ医師を派遣する余裕をなくしています。それで「これが医師不足の原因だ」といわれるようになったのです。

 けれども、これは研修制度そのものの問題というより、新制度導入時に、大学医局にかわって医師不足の病院に医師を配置する公的な仕組みを準備しなかったことによるものです。

根本的原因は絶対数の不足

 そもそも、医師不足の根本的な原因は医師の絶対数の不足にあります。これは、政府が八十年代以降、医療費抑制政策のもとで医学部の入学者数を削減してきたためです。

 さらに、「構造改革」の中で、診療報酬引き下げで病院の経営が厳しくなる、地方財政や大学予算の切り捨てが病院にしわ寄せされるなどの要因が複合的に絡まって、地方の病院の医師不足が起きているのです。

 こうした根本原因を解決せずに、臨床研修制度にすべての責任をなすりつけるのは、あまりに乱暴で安易な議論です。

公的システム整備をすべき

 多くの医学生は、患者の願いにこたえる力をもつよりよい医師になりたいという強い願いを持っています。いくら制度を変えても、よくある病気の経験を積めない大学病院を、今さら研修先に選ぶ人が増えることはないとみられています。

 そもそも二年という期間は、新しい制度をつくる時に「それだけの期間は必要だ」という議論を経て決まったものです。産科や小児科、精神科など必修とされてきた診療科を外すことも逆行だと思います。今回の議論には、患者のためによい医師を育てるという一番大切な視点が抜け落ちています。研修期間の短縮は医師の臨床能力、医療の質の低下につながるものであり、国民にとってもマイナスです。

 地域による「医師の偏在」を解決するためには、基本的な研修を終えた後の医師配置の問題として公的なシステムの整備を考えるべきです。

 同時に、医学部の定員増をさらに強めること、政府が進める公的病院の統廃合を撤回し、社会保障費の二千二百億円削減路線を見直すことが必要です。この道こそが、本当の医師不足の解決につながると思います。


 臨床研修制度の見直し案 国が定める必修の診療科(内科、外科、小児科、精神科など七つ)を内科、救急にとどめ、研修の時期を二年から原則として一年に短縮。都道府県ごとに研修医療募集の総枠を定めることなどが柱です。



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