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平井哲史さん(弁護士)

働いていても、最低限度の暮らしを支えられるだけの収入がなければ、生活保護を支給されます。

 なかなか仕事につけなくて、自分の存在自体が否定されたような気になっている方が何人もいました。「健康体だから生活保護も無理」というあきらめの声も聞かれました。でも、ちょっと待ってください。それは大いなる誤解かもしれません。今回は、労働法を離れて生活保護法について紹介したいと思います。

 ワーキングプアが取りざたされるようになり、首都圏青年ユニオンが、労働問題だけでなく、貧困の解決の為にNPO法人などと協力しながら、生活支援ネットワークをつくろうとしている話を聞いて、私も生活保護法を少し勉強してみました。この法律の第4条1項では、「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めています。保護は、まず、申請に基づいて開始され(7条)、世帯を単位として(10条)、年齢や性別、健康状態など世帯としての必要の相違を考慮して、おこなわれます(9条)。扶助義務のある親族がいる場合には、その援助を受けても足りない部分について保護を受けることになります(4条2項)。

 ここで大事なのは、まず、生活保護の申請は、努力をしても生活が苦しい人なら誰でもできるということです。北九州市のように‘水際作戦’と称して、窓口で申請用紙を渡さずに、「まずハローワークにいきなさい。」とか、「親族の援助を受けたらどうか。」と言って追い返すことをやっているところもあるようですが、法律上は申請を拒否することはできないのです。最近では、弁護士会で、保護申請の際に弁護士が同行して手伝う活動も始めていますので、不安があれば、弁護士会に一度相談の電話をされてみたらよいですし、任意のグループでそうした相談活動をしているところもあります(私の知っているところで、昔から活動しているところとしては、「生活と健康を守る会」があります)。また、昔から、共産党の地方議員はそうした相談を数多く受けていますから、お近くの共産党議員の事務所に相談にいかれるといいでしょう。

 次に、健康体であれば保護は受けられないのかというとそうではありません。もちろん、能力を活用しないといけませんから、求職活動もしないで保護を受けることはできませんが、声を寄せているみなさんは一生懸命に就職しようとしているわけですから、保護を受けられない場合には該当しません。働いていても、最低限度の暮らしを支えられるだけの収入がなければ、やはり保護は受けられます。ですので、苦しいときは自殺を考える前に、行政の窓口や福祉事務所で何を言われようとも、「だって努力したけど仕事がないんだからしょうがないじゃないですか。行政が仕事をくれるんですか?」と開き直って保護申請をしてみてください。一人で心細かったら、応援を頼んでください。ネットで検索すればいろんなところが出てくるはずです。


プロフィール

ひらい・てつふみ

1969年生。1994年早稲田大学法学部卒。2001年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる分野として取り組む。個人加盟組織の出版情報関連ユニオン顧問。日本弁護士連合会憲法委員会幹事、第二東京弁護士会人権擁護委員会委員、自由法曹団事務局次長。一児の父。

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