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平井哲史さん(弁護士)

格差解消に向け、これまで以上に世間の目が国会にむけられている

 今回も、「派遣」という働き方に対する批判がたくさん寄せられていました。

 派遣労働の最大の問題は、派遣先と派遣労働者とは契約関係にないため、派遣先による理不尽な契約打ち切りがほとんどなんの制約も受けずにまかりとおってしまうところにあります。派遣契約の打ち切りにも合理的な理由が必要という規制がされていれば、契約打ち切りに必要以上におびえることなく待遇改善要求を出すことが出来るようになろうかと思います。

 また、派遣だからといって、身分差別を受ける謂れはないのであって,福利厚生や就業条件などは正社員と同等に扱われるようにすべきです。賃金は派遣元との契約で決まりますので、単純に正社員と同等にとは言えませんが、それでも、派遣料金の5割も派遣会社がとるのは規制してほしいと言う声に見られるように、派遣会社による搾取率を規制する方法はあろうかと思います。

 いずれにしても、派遣労働については、廃止も含めた抜本的な改正が必要ですが,政府は、重点政策として派遣法のさらなる規制緩和をやろうとしています。こうした人の痛みを理解できない政権を打ち倒すために解散・総選挙まで世論で追い込んでいくことが大事ですね。

 さて、派遣労働者については交通費が支給されないとの声がありました。交通費は、その労働者を使用するのに必要な経費ですから,通常は、使用者において負担をすることが契約書や就業規則等に書かれています。ところが、派遣労働者の場合、派遣先は派遣元と契約をしていますので、たとえ派遣先の就業規則で交通費支給となっていてもそれが適用されません。「不公平じゃないか」と思いますが,労働基準法では、雇用形態の違いによる差別は禁止をしていません。ですから、労働基準法で、雇用形態のいかんにかかわらず不合理な差別を禁止することを定める必要があります。また、これは、経費を労働契約当事者のどちらが負担するかという問題ですので、法律が変わる前でも、派遣元ときちんと話し合い、交通費は実費支給という文言を契約書に入れさせる取り組みが必要です。もっとも、交通費込みの給与でそれなりの金額が払われているのであれば,それほど不満も出ないのかもしれません。つまるところ、派遣の給与が安すぎるところに問題があるように思われます。最低賃金法のように、派遣法でも、派遣料金の最低限を画するような立法が必要ではないでしょうか。

 与野党が逆転し、格差社会解消に向けた立法府の活動にこれまで以上に世間の目が向けられています。参議院で第1党となった民主党は、99年の派遣法改悪には賛成していましたので,今度は真価が問われることになるだろうと思います。日々のつらさに心が折れそうになっている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、政治を変えていくきざしも見えています。あきらめずに声をあげつづけましょう。


プロフィール

ひらい・てつふみ

1969年生。1994年早稲田大学法学部卒。2001年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる分野として取り組む。個人加盟組織の出版情報関連ユニオン顧問。日本弁護士連合会憲法委員会幹事、第二東京弁護士会人権擁護委員会委員、自由法曹団事務局次長。一児の父。

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