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笹山 尚人さん(弁護士)

写真病気や、妊娠・育児を理由とした解雇については法律で規制されています

1,ホームページに寄せられたコメントを拝見しました。今回は、いずれも深刻な労働実態が示される中、病気になったこと、妊娠・育児を契機として職場を去らなければならなくなったという事例がありましたので、その点に関する法規制を考えてみたいと思います。

2,出産、育児については、そもそも、

「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」

という規定が存在します(労働基準法19条)。

また、男女雇用機会均等法第8条は、女性労働者の婚姻、妊娠、出産を理由としたり、出産休暇の権利を行使したことを理由とする解雇を禁じています。また、育児介護休業法は、育児休業の申し出や育児休業をすることを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないと定めています(同法10条)。したがって、これらの規定により、出産や育児を直接の理由に解雇をすることは禁じられており、実際にそれが行われればそれは無効です。

  したがって、出産や育児を直接の理由として、退職するように迫る「退職勧奨」も違法であり、それには応じる必要がありません。

3,病気になった場合については、病気になったから、働けなくなった、だから解雇だというのでは、労働者は路頭に迷ってしまいます。したがって、上記のとおり、労働基準法第19条は、業務上の疾病で療養のため休業しなければならない場合とその後の30日について解雇を禁じています。

この点業務上の疾病といえるか否かの問題で、職場の人間関係やいじめ、セクハラ、パワハラなどを原因とする場合の取り扱いに関して、厚生労働省は、セクハラを原因としてうつ病を発症した場合は労災として取り扱うという内容の通達を出しました(平成17年12月1日付基労補発第1201001号)。

この考え方によれば、人間関係上のトラブルを原因として精神疾患を発症した場合も、労基法第19条の適用があるとすることができる場合が多くなったと考えられます。これに該当しない場合でも、病気の内容、治療に要する期間、病気になった原因、仕事の内容等の事情を考慮して、労働基準法第18条の2にある,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として認められない場合は,その権利の濫用したものとして,無効とする。」との規定に抵触するか否かを個別に判断することになるでしょう。

この点、片山組事件という判例によれば、労災によって労働能力の一部を喪失した労働者が、これまで行ってきた仕事より平易な仕事に従事できる場合、使用者は、平易な仕事につけるように配慮する義務があるとの判断がなされています(1998年4月9日最高裁判決)。この判例の考え方からすれば、病気になった労働者に一定の業務遂行能力があり、職場に現実にその労働者が従事できる業務があるような場合は、解雇が無効とされる場合が多いように思います。


プロフィール

ささやま・なおと

1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『フリーターの法律相談室−−本人・家族・雇用者のために』(共著、平凡社新書 05年10月発行 760円)、『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)、『「働くルール」の学習』(共著、桐書房)。

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