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笹山 尚人さん(弁護士)

写真労働行政に携わる公務員は人数を増加させ、その権限を拡大することが必要です

1,ホームページに寄せられたコメントを拝見しました。今回は、まず、「法的に許されるか」という問題設定について考えてみたいと思います。

2,ご質問は、正社員1名の事業場で、週休2日となっているのに、休日出勤の命令が下される点、休日出勤しても何の手当も出されない現状が許されるのか、それを問題にすれば会社からリストラ対象にされるので、何か良い手はないか、労基署へ内部告発できないか、それをどのように行うか、というものです。

(1)労働基準法は、使用者に対し、労働者を週1日か、4週間で4日以上の休日を与えなければならないとしています(35条)。休日に就労させる場合には、いわゆる36条協定と就業規則等によって例外的に休日出勤があり得る旨の規定が必要になります(36条)。そして、これらの休日に出勤をさせた場合には、休日出勤について2割5分増以上5割以下の賃金を支払わなければならないとし(37条1項)、現在休日出勤については3割5分以上の賃金を支払うこととされております。

 したがって、36条協定及び就業規則などに休日出勤の定めがなければそもそも休日出勤自体が違法になります。また、これらの規定のもとで就労した場合でも、休日出勤に3割5分以上の賃金を支払わないことも、違法です。

(2)これらの労基法違反は、労働基準監督署に対する申告で是正をすることができます。

 確かに、この違法を是正せよと申告することは報復の対象になることも多いでしょう。そこで、労働基準監督署に対して申告する際、匿名扱いにするという取り扱いを要請すればよいでしょう。その場合労基署の側で申告者を明かしたり申告者が特定されるような行動をすることはありません。

3,労基署や労働局に申告する際、いつも悩ましいのは、労働行政に携わる公務員が非常に少ないことです。彼らは、多忙さと、権限の少なさゆえに、あまり行動的とはいえないのが現状です。ですから申告したからといってスムーズに、こちらの期待どおりに動いてくれないケースもあります。

 現在、国会では、公務員削減の行政改革法案が議論されていますが、公務員と言っても、その業務内容は様々で、単純に全ての人数を縮減していくということにはならないと思います。むしろ、労働行政に携わる公務員は人数を増加させ、その権限を拡大するような法改正が必要になると思います。

4,この点に関連して、東京都の場合、東京労働相談情報センターという相談機関があります。この機関は、個別労使紛争のあっせんなどで、優れた実績を出しておりますし、講演会などの啓蒙の機会も充実しております。東京都が石原都政になって以降、これらの労働行政機関を縮減傾向にあることも、憂慮すべき事態であると思います。来年の都知事選挙では、この労働行政機関の充実をどの候補者が掲げるかを見極めたいというのが都民としての私の気持ちです。


プロフィール

ささやま・なおと

1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『フリーターの法律相談室−−本人・家族・雇用者のために』(共著、平凡社新書 05年10月発行 760円)、『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)、『「働くルール」の学習』(共著、桐書房)。

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