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原 和良さん(弁護士)

有期雇用契約といっても、契約更新を使用者が自由に更新を拒否できるものではありません

写真 1 雇用契約には、(1)期限の定めのない雇用契約と(2)期限の定めのある雇用契約、があります。
  (1)はいわゆる正規従業員です。(2)が有期雇用契約ですが、もともと労働基準法上では、1年を超える有期雇用契約は締結できないとされていました。1年以上雇う必要があるのならば、正規従業員として働くものの権利を保障しなさいという趣旨です。しかし、法改正により現在では3年(専門技術者など一定の職種については5年)を超えない範囲で、有期雇用契約を締結してもよいことに改悪されています(第14条)。
 2 1年が3年(ないし5年)に延長されて、いいことではないか、と思われますがとんでもありません。本来であれば正規従業員として採用されていた人がどんどん、有期雇用にされていくということを助長しています。有期雇用は何故問題なのでしょうか。それは、不安定雇用・低賃金の雇用形態であることです。3年後、5年後に果たして自分が契約更新してもらえるのか、非常に不安定な立場に立たされます。残業代請求や職場でのセクハラ、いじめ被害など会社に対してきちんと権利を主張したい、結婚して子どもを生み育てたい、労働条件向上のために労働組合を作りたい(加入したい)などは、労働者として当然の要求ですし、権利です。しかし、いつ雇い止め(更新拒絶)に合うかもしれないとなると、主張する権利も控え、生産性の低い労働者と評価されるのを恐れて子どもも産めない、親の介護もできない、という状況になってしまいます。
 しかし有期雇用契約といっても、契約更新を使用者が自由に更新を拒否できるものではありません。最高裁判所は、更新契約が継続反復されそれが、「期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態」のときには、解雇権濫用法理が類推適用される、として、客観的で合理的な理由がない解雇は無効であると判断しています。
 3 3年後、5年後の自分の将来すら保証されていなければ、住宅ローンを組んで住宅を購入することすらできません。また、同じ仕事をしながら、正規従業員との間には格段の賃金格差があります。ボーナスなども多くの場合支給されません。今、少子化が社会問題になっていますが、最大の原因は、若い世代に安定した仕事が保証されていないことです。労働者の生活を破壊する企業の賃金コスト削減や長時間労働を応援するような政策をとる政府の対応を変えさせることが今重要です。
 


プロフィール

はら・かずよし

弁護士、東京法律事務所所属
 (略歴)1963年12月 佐賀県有田町生まれ
     1989年3月  早稲田大学法学部卒業
     1992年    司法試験合格
     1995年    東京弁護士会登録〜現在にいたる
 (主な事件)
  労働事件(労働側)、公害事件、マンション紛争、痴漢えん罪その他刑事事件、交通事故(民事、刑事)、不動産、家事(離婚・相続)、債務整理・破産事件その他民事一般

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