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笹山 尚人さん(弁護士)

1度や2度のミスでは「解雇の合理的な理由あり」とは認められない場合が多い。仕事上のミスや会社の求める能力に追いついていけないことはよくあること、いちいちクビに出来たら、労働者の身が持たない。

 写真今回は、寄せられたコメントの中から、解雇・雇い止めの問題についてのコメントに対して寄稿したいと思います。
1,誰もが認める合理的理由がなければ解雇できない
(1)労働契約の解消には、いくつかのパターンがありますが、契約の一方当事者から相手方に「やめたい」と通告して、その結果として終了になる場合があります。解雇は、使用者が言い出す場合です。
(2)労働者から行う労働契約解消を通常「辞職」と呼んでおりますが、期間の定めのない労働契約において辞職をしたい場合は、その申し出があってから2週間経過することによって労働契約は終了します。今回のコメントの中にもあり、実際によく相談も受けるのですが、会社が辞めさせてくれない、という事態は、法律的にはあり得ない事態です。使用者には、労働契約を解消したいという労働者を拘束する法律上の手段はないのです。期間が定まっている契約で、期間内は働け、というのであれば別ですが。
(3)解雇とは、これとは逆に、使用者が行う労働契約解消の意思表示を言います。解雇は、労働者が雇用の継続を期待し、かつ、多くの場合それによって生活をまかなっているのに、突然雇用を奪い生活の糧を失わせることになることから、「解雇権濫用法理」という判例上のルールで厳しく規制されてきました。2003年には、このルールを法制化するところまで来ています。
 解雇権濫用法理とは、労働者をクビにするには、誰が見てもそういうことなら仕方がないと納得できるそれなりに合理的な理由が必要である、という考え方です。仕事上のミスが重なっているとか、会社の業務命令に違反を繰り返すとか、会社の求める業務能力がどうしても発揮できないとかいった理由が必要なのです。しかも、1度や2度のミスや事由では合理的な理由ありとは認められない場合が多いのです。仕事上のミスや会社の求める能力に追いついていないといったことはよくあることで、そのようなことをいちいち取り上げてクビに出来ていたら、労働者の身が持たないからです。よほどのことがなければ、会社が行うクビは、有効にはできないのです。
 しかし不況を反映してか、このようなルールを知らないからか、世の中では不当な解雇が後を絶ちません。私たちは、解雇の法規制を、もっともっと多くの人に知ってもらいたいです。

2,「辞めたいのに、辞めさせてくれない」
 今回拝見したコメントの中に、辞めたいのに辞めさせてくれないから無断欠勤をしたいと思うが、解雇になるのでは、というものがありました。
 上記のように、期間の定めのない労働契約では、労働者の側は労働契約を解約することが可能です。無断欠勤を繰り返すことは、解雇の合理的な理由として典型的といえるでしょう。ですから、この場合、解雇されてもそれは仕方がないでしょう。無断欠勤をせず、辞めたいという意思表示をはっきり通告し、2週間は働くことです。
 その他には、解雇理由が明らかにされないままクビになったケースもありました。これは理由を明らかにしないことから見て、合理的な理由がないケースと考えられます。
 情報漏洩を疑われて、その疑いは晴れたのだが、その問題の隠蔽のために解雇される、というケースもありました。これは、労働者側に非難される事情がないことははっきりしているのですから、合理的な理由がなく、解雇は無効といえるでしょう。
 このように、解雇は、労働者側に相当な落ち度がないことには、そう簡単には有効にはなりません。争えば職場に戻れることもありますし、それが無理でも、使用者から賠償的な内容で金銭を支払わせる場合もあります。解雇されたが自分は悪くないと思うのなら、労働組合や弁護士に相談することをおすすめします。

3,雇い止め―いじめによる契約更新拒否は、無効の場合も。いじめにも法的救済措置がある。
(1)コメントの中に、期間を定めた労働契約において、更新を認めないという形の通告がなされているというものがありました。このように、期間契約で、期間通りに労働契約を終了させると使用者が労働者に通告することを、「雇い止め」と呼んでいます。
(2)期間を定めた労働契約の場合においては、期間が満了することで労働契約は終了するのが原則です。ただし、労働契約の性格、仕事の内容、質、契約更新の手続きの有無、回数、使用者の言動などの事情を考慮して、労働契約の更新を労働者が期待することがもっともであると考えられる場合は、上記の解雇権濫用法理を類推適用して、雇い止めには合理的な理由が必要が必要である、というのが判例上のルールです。
(3)コメントのケースは、上司やその取り巻きにいじめられた結果として、雇い止めの通告を受けそうであるということでした。また、9月30日に契約期限が満了するところ、1ヶ月前の8月31日までに通告すれば問題ないと言われているということでした。
 現在厚生労働省は、契約更新をしない場合、1ヶ月前までに通告することを指導しています。そして、上記のとおり、期間の定めがある場合は、契約期間の満了をもって労働契約は終了するのが原則です。ですから、上司の方が言われるとおり、1ヶ月前に通告をして、期間満了をもって契約が終了するということであれば、法律的には問題ないと考えるのが原則ではあります。
 ただし、上記のとおり、仕事の内容やこれまでの更新実績、契約締結の際のやりとりやその後の上司の言動などによっては、労働契約の更新を期待するのが合理的と判断でき、契約更新をしないのならそれなりの合理的な理由が必要と考えられる場合もあるでしょう。とりわけ、職場におけるいじめが、どのような事由を原因として、実際にはどんないじめが行われているのか、ということが重要な判断要素になってくると思います。その意味ではあきらめるのはまだ早いといえるでしょう。
(4)それから、職場におけるいじめは、それ自体、人格権に対する攻撃として不法行為であり、損害賠償の対象となると考えられています。雇用の継続の問題とはまた別の問題として、いじめにも法律的救済があることも知っておいていただきたいと思います。
4,あきらめないこと
 解雇の問題は、法律が介入して労働者側の救済をはかりやすい分野といえます。また、使用者による横暴な解雇は後を絶ちません。少しでもおかしいと思うなら、あきらめずに専門家に相談することが大切と思います。


プロフィール

ささやま・なおと

1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)。

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