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原和良さん(弁護士)

写真派遣労働者――健康保険も、雇用保険も、有給休暇も、育児休業も対象になります

 85年に、労働者派遣法が国会で成立したとき、あくまでも派遣は例外的な雇用形態であり、臨時的一時的にスキル補充をするための雇用形態で、これが正規従業員の代替にならないようにする、というのが国会での付帯決議としてありました。

 ところが、その後、経済のグローバリズム化、企業の国際競争力強化の圧力のなかで、当初危惧されたとおり派遣労働者の規制は次々と緩和され、青年労働者を中心に膨大な数の無権利無法の労働市場が形成されています。派遣労働者をはじめ非正規労働者の労働条件向上をはかることが日本の雇用問題で今や中心課題の一つになっています。

 派遣労働は、雇用契約上の使用者が派遣会社でありながら、具体的な労務の指揮命令を行い労働者が労務を提供するのは派遣先企業という点で、通常の企業での正規従業員とは異なります。このことから、労働者への待遇・処遇について、派遣元と派遣先で責任の押し付け合いになりトラブル発生の原因となっています。

 法律では、派遣元の義務、派遣先の義務について規定を行っていますが、法律上の義務規定は少なく拘束力のない指針で補われている規制が多いため、派遣労働者が極めて不安定な立場に立たされ表沙汰になりにくく、違法のやり得という問題が発生しています。

 また、派遣労働は、労務の提供ではなく仕事の完成を目的とした契約である請負契約や業務委託契約とも違います。請負・業務委託契約では、労働時間や仕事のやり方について注文者の指揮命令は基本的に受けません。依頼された仕事を期限通りにやりあげれば仕事の完成に対して報酬が得られます。実際は、実態が派遣なのに労働基準法や労働者派遣法の規制を免れるために、たとえば残業代を支払わないとか、社会保険の保険料負担を免れるためとかいった効果を得るために、名目だけ請負・業務委託になっているケースが少なくありません。また、派遣労働者として派遣された労働者を、派遣先企業がさらに他の企業に派遣したり、請負・業務委託として働かせたりといった二重派遣も横行しています。これらの違法実態については、行政に厳しいチェックをさせていく必要があります。

 現在の労働者派遣法でも、保障されている権利があります。これを派遣会社にしっかりと守らせることが必要です。たとえば、就業条件明示書の交付が義務づけられている点が極めて重要です(派遣法34条)。これは、派遣労働者の労働条件を事前に書面で派遣元が派遣労働者に交付しなければならないという規定で、派遣先もこの内容を了解しておくべし、と指針で規定されています。これが、不当な労働条件の押しつけを許さないための武器として機能しています。また、雇用が2ヶ月以上であれば派遣労働者であっても健康保険、厚生年金に加入できます。1年以上継続して雇用されている(またはその見込みがある)、1週間あたりの所定労働時間が20時間以上という2つの条件を満たしていれば、雇用保険に加入することができます。雇用保険に加入していれば、失業して次の仕事を探すときに失業給付金を受けることができます。通算契約期間が1年以上の場合には派遣元に雇用保険への加入が義務づけられます。

 また、派遣労働者にも原則として労働基準法の適用がありますので、6ヶ月以上継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば、10日間の有給休暇を取得することができます。

 育児・介護休暇については、今年の4月から改正育児介護休業法が施行され、有期雇用の労働者でも、一定の要件を満たせば、育児休業や介護休業がとれるようになりました。

 育児休業がとれる有期雇用の労働者は、申出時点において、次の1、2のいずれにも該当する者です。

1 同一の事業主に引き続き雇用された期間が一年以上であること。

2 子が一歳に達する日(誕生日の前日)を超えて引き続き雇用されることが見込まれること。ただし,子が一歳に達する日から一年を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかである者は除かれます。

 派遣労働者についても、この要件を満たすことで育児介護休暇を取得することができます。


プロフィール

はら・かずよし

弁護士、東京法律事務所所属
(略歴)1963年12月 佐賀県有田町生まれ
    1989年3月  早稲田大学法学部卒業
    1992年    司法試験合格
    1995年    東京弁護士会登録〜現在にいたる
(主な事件)
 労働事件(労働側)、公害事件、マンション紛争、痴漢えん罪その他刑事事件、交通事故(民事、刑事)、不動産、家事(離婚・相続)、債務整理・破産事件その他民事一般

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