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平井哲史さん(弁護士)

雇用とくらしを守るルールづくりが不可欠。与党も野党も今国会でその立場が問われてくる。

 派遣切りにあい、もう1年も職がみつからないという方がいました。稼ぎがないため親と同居しているという方も多く、そういう方の場合、健康保険料等が免除にならないといった問題も寄せられています。民主党中心の現政権が大騒ぎしてやっている「事業仕分け」で、芸術関連予算が大幅削減をされたあおりで、音楽家などの活動の場が減り、失職の危機というだけでなく文化の衰退につながるとの指摘もありました。

 雇用不安・生活不安で押しつぶされそうな気持ちになっていることがひしひしと伝わってきます。政権は代わりましたが、こうした声に充分こたえられているでしょうか?

 いまの雇用不安は、景気の落ち込みによるのもありますが、一方で、巨大企業は内部留保を増やし続けています。キャノンやトヨタ、日産、マツダ等々と日本の代表的な企業が偽装請負などを使って人件費を不法に安く抑え込んで利益をあげていることが何度も報じられています(とくに「赤旗」紙面が詳しい)。こうした法を無視した巨大企業の横暴を是正させることが大切です。そのためには、労働者派遣法を抜本改正して、違法な派遣をおこなった場合は派遣先が直雇用をするとか、罰則を強化するなど、労働法制の強化が必要です。また、下請け企業に対する買い叩きも是正する必要があります。下請け企業では、請負代金を買い叩かれてしまえば、労働者の雇用を守ったり、賃金をあげようにも原資がなかなか出てこないことになります。生活のできる収入を確保するには雇用を守るとともに、公正な取引のためのルールをきちんとつくる必要があります。また、月単位での最低賃金を提唱する声や、最低保障年金制度を求める声もありましたが、そうした社会保障分野の手当も必要でしょう。今度の通常国会でこうした要求に政権与党も野党もどうこたえるのかが問われると思います。

 さて、より身近な、現在の法律の下でどう身を守るかということですが、出勤日数が減ったが休業手当を出してくれないという声がありました。休業手当は、労働基準法第26条で支払が義務づけられているものですから、これを払わない使用者には罰則が科されます。この方の場合、労基署に相談にいったところ、使用者が不機嫌になりこの先の雇用が心配とのことでしたが、労基法違反を申告したことを理由に不利益な取り扱いをしてはならないことになっています(労基法104条)ので、もし退職勧奨や解雇をされてもそれは違法・無効となります。なので自信を持ちましょう。

 2か月で休職しており、もらえるはずの冬のボーナスをもらえなかったという声がありましたが、一般に、ボーナスは支給日において在籍していることを要件とされることがありますが、休職の場合は在籍はしていますので、よほど特殊な事情でもなければまったく出ないというのはおかしいのではないかと思います。会社の就業規則や賃金規定などをもってお近くの弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

 『有給休暇を取る明確な理由がなければ受け付けかねる』と言われて有休をとらせてもらえないという声もありましたが、有休は労働者が希望する日にとらせるのが原則です。使用者において、事業の円滑な遂行に支障が生じる場合には時季を変更することが可能ですが、「明確な理由がないととらせない」というのは適法な時季変更権の行使とは言えません。この点、誤解をしている使用者も多いので、労働基準監督署に相談して指導をしてもらうとよいでしょう。

 最後に、「生きているのが辛い」といった声もありました。こうした方になんと声をかければよいのかわかりませんが、希望は捨てないでほしいと思います。生活保護は、まだ「恥ずかしい」という方も割と多いのですが、自分の努力ではどうにもならない今のような状態で、生活保護を受けることは国民の権利です。決して情けにすがるのではありません。生活保護法では、申請があれば、役所は原則として受理をしなければならないことになっています。「水際作戦」(受理をしないようにするため窓口で申請をさせないよう働きかけること)などの生活保護の受給を妨害する行為が話題になっていて、一人で行っても「受け付けてもらえない」という声もよく聞きます。昔から共産党は、とくに地方議員の事務所で生活相談を受け付けていましたが、いまでは、そうした生活保護の申請をサポートするNPO法人や、弁護士会でも「同行支援」というのをやっていますから、生活保護を申請したい方は一度相談されてみてください。


プロフィール

ひらい・てつふみ

1969年生。1994年早稲田大学法学部卒。2001年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる分野として取り組む。個人加盟組織の出版情報関連ユニオン顧問。日本弁護士連合会憲法委員会幹事、第二東京弁護士会人権擁護委員会委員、自由法曹団事務局次長。一児の父。

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