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平井哲史さん(弁護士)

「派遣先に経歴書コピーをわたされたら――」「告発は、情報漏えいにあたるのか」

 

「ワーキングプア」や「格差社会」の是正を求める世論が強まり、厚労省が日雇い派遣を規制する方針を打ち出すようになり、野党がそろって派遣法の抜本改正の方向を出しています。法制度自体を改める、法律を執行する行政の姿勢も立て直す、そのために、この欄に声を寄せていただくとともに、周りに働きかけ、政治を変える努力を続けることが大事だと思います。

派遣先に履歴書のコピーが渡っていたという声がありました。よくあることですが、履歴書には、氏名、住所、年齢、生年月日等個人を特定しうる情報や経歴等プライバシー情報が多分に含まれています。このような情報を会社が本人の承諾なく第三者に開示することは個人情報保護法違反となります。「当然のことだ」と言われたそうですが、会社の認識が間違っています。私が扱った同種事件では、会社側は素直に非を認めて解決金を支払うことで和解となりました。だいたい、派遣先の社員ではないのですから、その労働者の経歴など知る必要はありません。これは偽装請負の場合も同じです。正社員として雇用すべきところを派遣ないし請負という形式をとるためこのようなトラブルが起こるのであり、個々のケースできちんと是正を求めるとともに、やはり派遣ではなく、正社員としての雇用の枠を広げていくことが必要だと思います。

上記のケースとは逆に、労働者が弁護士や行政機関に相談することは情報漏えいとなるのかとの質問もありました。一般に、会社の内部でしか知りえないことであり、外部に公表されると会社の信用を落としたり、あるいは会社の営業利益を損なうような情報の場合は、「情報漏えい」にあたらないか検討する必要があります。しかし、ご質問の方は、会社で労災が起きていて裁判にもなっていることから社内の安全衛生について相談をしたということですから、情報漏えいにはあたりません。情報漏えいにあたりうる場合として、会社ぐるみで食品衛生法違反等の犯罪行為をしていて、そのことを告発するために外部機関に情報を提供した場合が考えられますが、このような場合は内部告発として保護されることになりますから、やはり何ら責められるいわれはありません。また、仮に不利益処分を受けても、それは違法です。自信を持って内部告発をしてもらってかまいません。ただし、念のために行動を起こす前に会社側に立たない弁護士に具体的な相談をしてからのほうがいいでしょう


プロフィール

ひらい・てつふみ

1969年生。1994年早稲田大学法学部卒。2001年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる分野として取り組む。個人加盟組織の出版情報関連ユニオン顧問。日本弁護士連合会憲法委員会幹事、第二東京弁護士会人権擁護委員会委員、自由法曹団事務局次長。一児の父。

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