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日本共産党

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10 ヘイトスピーチ

ヘイトスピーチを許さない社会に

2019年6月

 在日韓国・朝鮮人などを排除・攻撃することを目的としたデモや集会が各地で開かれ、聞くに堪えない差別表現と扇動活動がくりかえされてきました。韓国・朝鮮出身者やその家族が多く居住する地域や、繁華街などで、罵詈雑言(ばりぞうごん)を叫び、関係者と周辺住民の不安と恐怖心をあおってきました。インターネットなど一部のメディアにも、そうした言葉が横行しています。

 特定の人種や民族にたいする常軌を逸した攻撃は「ヘイトスピーチ」と呼ばれます。差別をあおるこうした言葉の暴力は、「ヘイトクライム」(人種的憎悪にもとづく犯罪)そのものであり、人間であることすら否定するなど、人権を著しく侵害するものです。憲法が保障する「集会・結社の自由」や「表現の自由」とも、相いれません。

 法務省が2016年3月に結果を公表した実態調査によると、2012年4月から15年9月までに、ヘイトスピーチを伴うデモは1,152件、確認されました。年間の発生件数は、12年が4月以降で237件、13年は347件、14年は378件で、15年が1~9月で190件でした。また、動画投稿サイトに掲載されたデモの様子を撮影した72件、約98時間分の映像を分析したところ、ヘイトスピーチに該当する「日本から出て行け」など特定の民族を一律に排斥する発言が最も多く、1,355回ありました。生命に危害を加える発言は216回、蔑称などで誹謗(ひぼう)中傷する発言も232回ありました。

日本でもヘイトスピーチ解消法が成立

 当事者の切実な訴えと関係者の努力が実を結び、2016年5月、与党が提出したヘイトスピーチ解消法案が、自民、公明、民進、おおさか維新、生活、日本共産党などの賛成多数で可決・成立しました。同法は、ヘイトスピーチは許されないと宣言し、ヘイトスピーチ防止に向けた啓発・教育活動や、被害者向けの相談体制の拡充などを柱としています。罰則は設けていません。日本共産党は、▽与党案の「適法に居住する本邦外出身者」を対象とするという骨格が、人種や民族を理由とする差別は許されないという憲法と人種差別撤廃条約の趣旨を曖昧にするのではないか▽「不当な差別的言動」という用語が明確性を欠くのではないか▽ヘイトスピーチの違法性を明確にしていない―などの問題点を指摘し、修正を求めつつ、ヘイトスピーチの根絶に向けた立法府の意思を明確にする理念法としての意義を評価し、賛成しました。質疑の過程で、▽「不当な」や「差別的」という曖昧な用語がそれだけで要件とはならない▽政府や在日米軍を批判する言動は対象たり得ない▽アイヌ民族や難民認定申請者など在留資格の有無、争いにかかわらずヘイトスピーチは許されない▽道路使用許可など行政処分あるいは司法判断において理念法が根拠規範となり得る―などをただし、答弁で確認されたことも前向きに評価しました。

 同法の付帯決議では、①「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外であれば、いかなる差別的言動も許されるとする解釈は誤りである②ヘイトスピーチが地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方自治体は、国と同様、その解消に向けた施策を着実に実施する③インターネット上でのヘイトスピーチの解消に向けた施策を実施する(以上、衆院・参院共通)④ヘイトスピーチのほか、不当な差別的取扱いの実態把握と、その解消に必要な施策を検討する(衆院のみ)―ことが確認されました。

法成立後の日本での動き

 同法の成立によって世論が喚起され、ヘイトスピーチ規制のための行政当局の動きが強まるなど、一定の効力が出ています。

 在日韓国・朝鮮人が多く暮らす神奈川県川崎市では、ヘイトスピーチを繰り返してきた人物が「日本浄化デモ」と題するヘイトデモのために公園使用許可を申請したのに対し、市長が「(ヘイトスピーチ解消法が定める)不当な差別的言動から市民の安全と尊厳を守るという観点」から不許可処分を出しました(2016年5月30日)。さらに同6月2日には、横浜地裁川崎支部が、川崎市桜本地区にあり、在日コリアンの男性が理事長を務める社会福祉法人の申し立てを受け、同法人から半径500メートル以内でのヘイトデモを禁止する仮処分決定を出しました。各地の自治体で、ヘイトスピーチを効果的に規制するための議論や検討が始まっています。ヘイトスピーチの解消をうたった法律が成立したことにより、自治体や司法がヘイトデモの試みに対し毅然と対処しやすくなったことを示しています。

 しかし、法成立を受け、排外主義団体は活動を「巧妙化」させ、統一地方選に各地で候補者を擁立し、「選挙運動」に名を借りたヘイトスピーチを繰り返すという動きに出ました。統一地方選直前の2019年3月12日、法務省は選挙立候補者が「選挙運動」と称して差別街宣をすることについて「適切に対応する」ことを求める通知を全国の法務局に出しています。

世界の動き

 欧州では2016年5月31日、欧州連合(EU)の欧州委員会とフェイスブック、ツイッター、ユーチューブを運営するグーグル、マイクロソフトの4社が、インターネット上でのヘイトスピーチの拡散を防ぐための行動指針に合意しました。各社は体制を強化し、ヘイトスピーチ削除を求める通報について、その内容を24時間以内に確認し、必要なら削除または閲覧不可とすることとしています。また、市民団体などと協力し、ヘイトスピーチに対する「対抗言論」の育成にも努めるなど、啓発活動も強めていくとしています。

 2019年6月18日、国連のグテレス事務総長は、世界中でまん延するヘイトスピーチに立ち向かうための国連としての「戦略と行動計画」を発表しました。「行動計画」としてグテレス氏は、ヘイトスピーチを特定し、予防し、対抗することを優先的に位置づけていくと表明。「戦略」として、考えの違う個人やグループを一堂に集めるなどの取り組みを進める意向を示しました。グテレス氏は「一部の政治指導者は憎悪に満ちた考えや、ヘイトグループの言葉を政治の主流に持ち込み、日常化し、演説を下品にし、社会構造を弱体化させている」と批判。「ヘイトスピーチへの対処は、表現の自由の抑圧と混同してはならない」と、ヘイトスピーチの根絶を訴えました。

法成立も力に社会からヘイトスピーチの一掃を

 日本共産党は今回の参議院選挙の重点政策として「個人の尊厳とジェンダー平等の実現」を打ち出し、「ヘイトスピーチの根絶は、日本国憲法の精神が求めるところであり、日本も批准している人種差別撤廃条約の要請です。ヘイトスピーチ解消法(2016年成立)も力に、ヘイトスピーチを社会から根絶していくために、政府、自治体、国民が、あげてとりくみます」と掲げました。

 とりわけ日本政府の責任は重大です。ヘイトスピーチをくり返してきた団体や「ネオナチ」など極右勢力の幹部と政権与党幹部との〝癒着〟が過去に何度も指摘されてきましたが、安倍政権はすべてうやむやにしてきました。法成立後も、安倍晋三首相をはじめ安倍政権の閣僚からは、「ヘイトスピーチを許さない」との強いメッセージがほとんど聞かれません。

 政権がヘイトスピーチを許さない毅然とした態度をとることが最重要課題となっています。自治体の条例制定などの動きを国としても参照しながら、ネット上のヘイトスピーチ規制のあり方、包括的な人種差別禁止法制定などを視野に、法改正について国会で議論すべきです。

 国連の人種差別撤廃委員会が2014年8月に出した総括所見では、日本政府に対して「(d)ヘイトスピーチの発信及び憎悪への煽動を行う公人及び政治家について、適切な制裁措置を実行する」と勧告されています。国際社会からの厳しい指摘を受け止め、政権が率先して反ヘイトスピーチの取り組みを推し進める立場に立つべきです。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ヘイトスピーチや外国人に対する差別を防止する取り組みが、日本政府には強く要請されています。改定出入国管理法の施行により、外国人労働者がますます増加することも予想されます。ヘイトスピーチ解消法の実効性を高めるための法改正の必要性の有無、包括的な人種差別禁止法の制定などについて、国会で大いに議論を深めるべきです。

  

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