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日本共産党

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赤旗

2016参議院議員選挙/各分野の政策

60、ODA

――人道援助への転換、生活分野支援、後発開発途上国支援

2016年6月


貧困の解消と、経済・社会・環境保全の調和をめざす経済協力へ転換する

 2015年末までに極貧や飢餓の半減をめざした2000年の「ミレニアム開発目標(MDGs)」の取り組みで、極貧下で暮らす人は1990年の19億人から半減しました。しかし、中国や中南米で状況が改善されたとされる一方で、サハラ以南のアフリカや南アジアなどでは、依然として8億を超える人々が極貧と飢餓にあえいでいます。現在73億人の世界人口が、2050年には97億人となると予想されるなか、途上国を中心とした人口増に世界の食料生産が追い付かなければ、さらに多くの人が飢餓にさらされる可能性があります。

 昨年9月の国連首脳会合は、2030年までに極貧や飢餓を根絶する国際社会の新たな共通の行動計画となる最終文書「持続可能な開発目標(SDGs)」を全会一致で採択しました。そのなかで、今日の世界の切迫した状況を次のように述べています。

 「依然として数十億人の人々が貧困のうちに生活し、尊厳ある生活を送れずにいる。国内的、国際的な不平等は増加している。機会、富及び権力の不均衡ははなはだしい。ジェンダー平等は依然として鍵となる課題である。失業、とりわけ若年層の失業は主たる懸念である。地球規模の健康の驚異、より頻繁かつ甚大な自然災害、悪化する紛争、暴力的過激主義、テロリズムと関連する人道危機及び人々の強制的移動は、過去数十年の開発の進展の多くを後戻りさせる恐れがある」

 加えて、資源の減少と気候変動(地球温暖化)による環境の悪化は、人類が直面する課題をさらに悪化させていると指摘しています。

 こうした切迫した状況で、日本政府の取り組み、ODAが果たすべき役割はいっそう大きくなっています。

政府の開発協力大綱の撤回とODA政策の転換を求める

 安倍政権は従来の政府開発援助(ODA)大綱を見直し、昨年2月、「開発協力大綱」を閣議決定しました。この開発協力大綱は、2013年12月に安倍政権が閣議決定した「国家安全保障戦略」を踏まえたものです。「国家安全保障戦略」は「米国と肩を並べて外国で戦争できる国づくり」をめざすもので、防衛大綱、中期防衛力整備計画など軍事分野とならんで、政府開発援助(ODA)も「国家安全保障に関連する分野」と位置づけて、「指針を与える」としていました。

 この大綱は、開発協力を「外交政策の最も重要な手段の一つ」として、「国際状況及び支援対象となる国や課題の我が国にとっての戦略的重要性を十分踏まえ、必要な重点化を図りつつ、我が国の外交政策に基づいた戦略的かつ効果的な開発協力方針の策定・目標設定を行う」としています。本来、ODAの第一の目的は、援助対象国の自立的発展の実現と貧困・格差の解消です。そこからはずれて、日本の「戦略的重要性」などを目標にするのは、本末転倒です。現在、国際的にもODAの本来の目的から外れて、自国(援助国)の利益を優先しようという潮流があるなかで、日本が率先してODAの本来の姿を追求する努力が求められています。

 大綱は、従前のODA大綱の「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」という文言を残しつつも、新たに「開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」と書き込んでいます。「実質的意義」というあいまいな基準で、従前のODA大綱が認めていない他国の軍や軍籍保持者への支援に道を開こうとしているのです。

  また大綱は、「海上保安能力を含む法執行機関の能力強化、テロ対策や麻薬取引、人身取引対策等の国際組織犯罪対策を含む治安能力維持強化」などへ「必要な支援を行う」としています。こうした「支援」が、地域の緊張を高めたり、軍や警察への支援、軍事転用につながる恐れがあります。

 こうしたことが、現地でのNGOの活動に対して、住民の不信や拒否的な態度を招き、せっかくのODAの効果を弱体化させることにつながると懸念されていいます。

 さらに相手国の経済発展に関して、「民間部門主導の成長を促進することで開発途上国の経済発展を一層力強くかつ効果的に推進し、またそのことが日本経済の力強い成長につながるよう」推進するとしています。途上国で、民間主導で経済成長を図れば、富の分配の不公正や、格差の拡大が起きやすいのが実態です。貧困層を対象とした直接的な支援や、富の公正な再分配を促進する支援そのものを重視する対応が不可欠です。しかも、日本経済の成長を目標にした「開発協力」にするというのでは、途上国の自立的発展を損なう可能性が高くなります。こういう方向は、やめるべきです。

 ODAは、軍事的利益や短期的な外交上の利益に従属するものであってはなりません。前述のとおり、日本のODAのあり方をいっそう歪める内容となっており、撤回を求めます。

 日本共産党は、「アメリカいいなり」という外交から、憲法9条にもとづく自主・自立の平和外交に転換することで、国連憲章の「平和のルール」を本格的に実践し、「人間の安全保障」の実現に向けて飢餓、貧困、人権侵害を克服し、基礎的社会サービス、環境保全、防災などの課題を達成する平和で公正な国際社会の実現に力を尽くします。こうした転換を図ることで、日本のODA(政府開発援助)を、これまでのアメリカの戦略に奉仕し、大企業の海外進出の条件を整備するものから、発展途上国の自主的・自立的発展と世界の平和に寄与するものに変えるようにします。

 ――途上国の市民組織と連携し、基本的人権の保障、貧困の解消、格差の是正、男女平等、社会的に立場の弱い人々の保護、環境の保全といった課題に優先的に取り組みます。

 ――憲法9条を持つ国として、従前のODA大綱で原則の一つであった「非軍事主義の原則」を堅持し、最上位の規範として、軍事転用につながるあいまいさを排除すべきです。

 ――日本のODAは、経済インフラ分野が半分(2014年)を占め、基礎的な保健には3%、基礎教育にはわずか5%しかあてられていません。経済インフラ偏重をあらため、食糧、保健、教育など基礎的生活分野(BHN、29%)や、社会セクターへの支援(17%)をODAの中心にします。

 ――後発開発途上国(LDCs)への援助の比重を高めます。

 ――日本のODAの規模は、一般会計ベースでは5519億円(2016年度予算)で1997年度をピーク(1兆1687億円)に減少を続け、2016年度にようやく前年度より1.8%増加に転じましたが、最高時より半減したままです。日本は、国連が2000年代にミレニアム開発目標(MDGs)の達成に取り組んでいる時期に、主要な先進国のなかで唯一、ODAを減らし続けた国です。ODA支出額については、GNI(国民総所得)比では0.22%(2015年)で、先進国の目標として国際的に合意されているGNI比0.7%の実現に向けて努力します。

 ――ODAを増額するため、「為替投機課税」をはじめ、国際連帯税、タックスヘイブン課税の強化も含め、財源を広く検討します。

 ――世界銀行など支援にかかわる国際機関において、途上国の発言権拡大を求める取り組みを支持します。

 ――日本の都合を優先したODAでは、相手国で期待された目的を十分に達成することができないケースが多くみられました。日本と支援先国の双方の専門家チームによって、相手国の主体性を尊重し、住民のニーズに第一義的に応えているか、ODAで使用する資器材どうかなどの観点から、客観的な評価を実施します。その結果を両国で公表し、透明性を確保して、説明責任を十分に果たすようにします。

 ――ODAの基本理念や、ODAに関する国会の責任と権限を明確にし、NGOの関与の仕方とそれへの支援などを盛り込んで、ODA基本法を制定します。多数の省庁にまたがったODAの内容や予算は統合・整理しつつ、発展途上国のニーズや国際的課題を一元的に受け止め、責任の所在を明らかにして透明性や一貫性を確保する見地から、ODAの実施体制を抜本的に見直すべきです。

 ――日本の経済協力における官民協力では、民=企業という場合が多く、ODA予算のごくわずかしか、NGOが参加できる案件がありません。NGOの持つきめ細かい対応や、情報、政策提言などを生かせるよう、ODAの計画から実施までのあらゆるレベルで、NGOの自立性を尊重しつつ、パートナーとして参加を位置づける体制(予算、協議や情報発信の場の提供など)を整えます。

原発や温暖化対策に反する石炭火力の「輸出」を中止する

 安倍政権は日本再興戦略のなかで「インフラシステムの輸出」を掲げ、内閣官房長官を議長にインフラ輸出と経済協力を「統合的に議論する」閣僚会議(「経協インフラ戦略会議」)を設置し、「インフラシステム輸出戦略」を策定しています。2010年には約10兆円(事業投資による収益も含んでいる)だった海外のインフラシステムの受注を、2020年には約30兆円まで拡大することを目標に掲げて、原発や石炭火力の輸出に力を入れています。

 福島事故を起こし、依然として多数の避難者がおり、事故そのものの収束もおぼつかない日本が、途上国に対して原発の輸出を進めること自体、重大な問題であり、やめるべきです。また火力発電についても、温暖化対策から、石炭火力への新たな投資は減少しつつあり、機関投資家の間でも石炭火力事業から資金を引き揚げる「ダイベストメント」とよばれる事態が起きています。世銀なども石炭火力事業への融資を扱わない方針に変わってきましたが、日本は「最新鋭型は例外だ」という立場をとって、輸出を進めようとしています。実際には、日本が関わる案件での人権侵害や環境破壊が、現地で深刻な問題となっており、官民一体となってこうした事業を強引に進める「輸出」はやめるべきです。

 たとえば東南アジア最大の電力卸売事業となるインドネシアのジャワ島中部のバタン石炭火力発電事業では、深刻な人権侵害が起きています。日本の電源開発(Jパワー)と伊藤忠商事が現地の大手石炭採掘会社と共同出資で設立した会社が事業主体となり、出力200万キロワット、総事業費45億ドル(約5000億円)とされ、三井住友信託銀行、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行など日本の大手銀行が融資にかかわっています。さらに日本政府が100%出資する国際協力銀行(JBIC)が最近、融資を決定しました。 

 しかしこの事業は、広大な農地をつぶして巨大な石炭火発を建設するものであり、事業発表以来、農地売却を拒んだ住民に対する推進派の暴力など人権侵害が常態化しています。インドネシアの国家人権委員会は、同事業では住民に対する物理的・精神的脅威を含むさまざまな人権侵害が見られるとし「人権を重視し、慎重な融資検討を求める」とする書簡を日本政府と国会に送っています。世界の先進基準を参照すると定めたJBICの環境社会配慮ガイドラインに照らしても、同事業の問題は明らかであり、融資などすべきではありません。

 問題になっているのはバタン石炭火力発電事業だけではありません。おなじジャワ島で操業中のチレボン石炭火力発電所や、ベトナムのハイフォン石炭火力発電事業、インド東部のダリパリ(オリッサ州)の火力発電事業などでも、小作人が農地を失ったり農作物の収穫や漁獲高を激減させ、原住民が生計手段としている森林の伐採など住民の生活手段を奪い、炭塵・飛灰や有害な排水による環境破壊や健康被害、石炭の粉塵や煙害、騒音と振動、脅迫や地域社会の分裂など、深刻な影響を周辺地域にもたらしています。

アフリカの「開発」に、現地のステークホルダーの意見を意思決定に十分反映させる

 アフリカのモザンビークでは、日本、ブラジルの協力でモザンビークが主体となって「プロサバンナ事業」という大規模な農業開発計画が進められています。日本のODAの対象であるこの事業で、2014年にモザンビーク当局が農民連合に、従わないと牢獄に入れると脅迫したことが指摘をされました。昨年4月~6月にかけてのマスタープラン公聴会でも、主催者から、〃反対意見は述べるな〃などの威嚇発言や、プロサバンナ事業への賛同を強要した事例が報告されています。モザンビーク政府やJICA(国際協力機構)が契約している現地コンサルタント企業(MAJOL社)が、個別交渉をしたうえで、本事業のマスタープラン公聴会に前向きな回答をした者だけを限定して、事業に参加させ、反対派を締め出すといった問題が起きていると現地NGO(非政府組織)などから指摘されています。

 このUNACを始めとする九つの市民社会組織は今年2月、プロサバンナ事業における対話の在り方、進め方に不正があったと指摘をし、声明を発表しました。そのなかで、プロサバンナ事業に好意的な姿勢を見せた市民社会組織だけが参加を可能とされ、その他の組織は準備段階から早くも排除されたこと、排除された組織がこの会合を知ったのは開催直前の新聞紙上での告知記事であったこと、準備、実施、事後における意思決定が、各種レベルのプラットフォームの全体を代表しておらず、少数の幹部のみで意思決定を行ったと非難しています。また、対話のプロセスを問題視する声明が多くの団体の連名で幾度も出されています。

 JICAには「環境社会配慮ガイドライン」があり、現場に即した環境社会配慮の実施と適切な合意形成のために、ステークホルダーの意味ある参加を確保し、ステークホルダーの意見を意思決定に十分反映すると、なっています。モザンビークで起きている事態は、このガイドラインに、全く反します。現地最大の農民組織であるUNACなどを中心に、市民社会、NGOがその反民主的プロセスなどに異を唱えて、この事業の一時停止と抜本的見直しを要求するのは当然です。

 日本政府は1993年以降,自ら主導し,国連,国連開発計画(UNDP),アフリカ連合委員会(AUC)及び世界銀行と共同で、アフリカの開発をテーマとするTICAD(アフリカ開発会議)を開催してきました。政府は、「経済成長を実現し,その恩恵が貧困層も含めて広く社会に行き渡るような,バランスのとれた安定的な成長を実現する」としていますが、非民主的な排除が問題となったり、人権侵害で批判が高まっている政権を後押しする状況となっては、日本の外交・ODAの立場が問われることになります。

 現地のステークホルダーの意見を十分反映させた意思決定での事業の推進が不可欠です。

「持続可能な開発目標」に立った経済協力の推進と、市民参加の実施体制の確立を

 2030年までに極貧や飢餓を根絶する――国連総会にあわせ昨年9月末に開かれた国連の首脳会合は、国際社会の新たな共通の行動計画となる最終文書「持続可能な開発目標(SDGs)」を全会一致で採択しました。先進国と途上国の貧富の格差を是正し、豊かで公正な世界をつくることを、新たにめざす目標です。17目標169項目を掲げました。総合的・包括的な取り組みが国際社会の合意として要求されているもとで、先進国には率先して取り組む責任があります。

 持続可能な開発とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」であり(1987年の国連「環境と開発に関する世界委員会」最終報告)、そのためには環境保全を考慮した節度ある開発が可能であり重要であるという考え方です。

 「持続可能な開発目標」(SDGs)では、この持続可能な開発を実現するために、経済・社会・環境の3つの側面を調和させるべきと強調しています。

 注目すべきことに、国連の「持続可能な開発目標」は、発展途上国だけでなく、「すべての国に適用されるもの」であり、「世界全体の普遍的な目標とターゲット」とされています。これは前例のない画期的な点です。前文では「我々は、人類の貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒し安全にすることを決意している。…この共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」と述べています。

 安倍政権は志摩サミットを前に5月20日、持続可能な開発推進本部(本部長:安倍首相)の第1回会合を開き、日本政府としての実施計画を作成するよう各大臣、各省庁に指示しました。また安倍首相は、8月予定のTICADや9月の国連総会に向け、世界をリードするように取り組むと表明しました。

 しかし、すでにのべたように、原発や温暖化対策に逆行する石炭火力の輸出、SDGsがかかげる「誰一人取り残さない」という立場に反するアフリカでのステークホルダーの排除、人権侵害など、日本の途上国支援には、SDGsに照らして大きな問題があります。

 官庁だけで実施計画を作成するのではなく、〃誰がどのように取り残されているのか〃を明確にするために、途上国での人道的支援のために草の根で活動している現地や国内のNGOが確実に作成のプロセスに参加できるようにすべきです。また、省庁が自らの利益にこだわる「縦割り」の対応の寄せ集めに終わることがないよう、総合的で効果的な連携を可能にする取り組みにすべきです。

 SDGsが掲げる経済・社会・環境の3つの側面の調和を図るために、日本のODAの現状を真摯に検証する必要があります。石炭火力発電や原発の輸出を、成長戦略の名です進めることはやめるべきです。SDGsは、途上国だけでなく、先進国を含むすべての国が対象となります。アベノミクスによって、格差と貧困が拡大している日本の経済・社会、温室効果ガスの有効な削減を打ち出せない政府の取り組みなどについて、真剣な検証と転換を図ることを強く求めます。

 

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