2014年総選挙政策

2014年総選挙政策各分野政策

49、ODA

国際目標をふまえ、人道援助を重視した援助政策への転換を

2014年11月


 世界では8億0500万人が飢えに苦しみ、5歳未満で亡くなる子どもの数は年間690万人など、大勢の人々が飢餓や貧困によって生存を脅かされています。とくに2008年のリーマン・ショックを契機に起こった世界的な経済危機の影響で、「極度の貧困」とされる人々が増加すると見られる一方、食料や石油の価格は、2010年から高止まりし、途上国の人々の家計を脅かしています。また日本、中国、韓国の企業や、サウジアラビアなど砂漠国で食料自給率が低い中東産油国が、先行する欧米の企業を上回る勢いで、アフリカや東南アジアの農地を確保しようとしています。こうした動きが、貧しい途上国の食糧難や人権問題、生態系の破壊を悪化させる危険が指摘されています。

 途上国が抱えるこうした問題に対処するためにも、ODA(政府開発援助)の役割が重要です。ODAは、開発途上国の貧困の解消や福祉の向上、経済・社会の発展に役立つよう、政府や政府の実施機関によって、開発途上国または国際機関へ、公的な資金を用いて資金や技術を提供する協力です。

こうしたODAの本来の役割を実現するためにも、日本の外交のあり方を転換する必要があります。「国際紛争の平和的解決」「武力の行使・威嚇の禁止」という国連憲章の「平和のルール」にのっとり、地球上の一人ひとりの人間が、安全と安心のある暮らしを送れるような国際秩序を築きあげることは、国際政治と国際世論が直面する重要課題です。

 

政府の「開発協力大綱」原案の撤回と、ODA政策の転換を求める

 外務省は今年10月末、現行の経済協力大綱(ODA大綱)の見直し案として、「開発協力大綱」原案(以下、「原案」といいます)を公表しました。この見直しは、昨年12月に安倍政権が閣議決定した「国家安全保障戦略」を踏まえたものです。「国家安全保障戦略」は「米国と肩を並べて外国で戦争できる国づくり」をめざすもので、防衛大綱、中期防衛力整備計画など軍事分野とならんで、政府開発援助(ODA)も「国家安全保障に関連する分野」と位置づけて、「指針を与える」としていました。

 原案は、開発協力を「外交政策の最も重要な手段の一つ」として、「国際状況及び支援対象となる国や課題の我が国にとっての戦略的重要性を十分踏まえ、必要な重点化を図りつつ、我が国の外交政策に基づいた戦略的かつ効果的な開発協力方針の策定・目標設定を行う」としています。本来、ODAの第一の目的は、援助対象国の自立的発展の実現と貧困・格差の解消です。そこからはずれて、日本の「戦略的重要性」などを目標にするのは、本末転倒です。

 原案は、現行ODA大綱の「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」という文言を残しつつも、新たに「開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」と書き込んでいます。「実質的意義」というあいまいな基準で、現行ODA大綱が認めていない他国の軍や軍籍保持者への支援に道を開こうとしているのです。

 また原案は、「海上保安能力を含む法執行機関の能力強化、テロ対策や麻薬取引、人身取引対策等の国際組織犯罪対策を含む治安能力維持強化」などへ「必要な支援を行う」としています。こうした「支援」が、地域の緊張を高めたり、軍や警察への支援、軍事転用につながる恐れがあります。

 こうしたことが、現地でのNGOの活動に対して、住民の不信や拒否的な態度を招き、せっかくのODAの効果を弱体化させることにつながると懸念されていいます。

 さらに相手国の経済発展に関して、原案は、「民間部門主導の成長を促進することで開発途上国の経済発展を一層力強くかつ効果的に推進し、またそのことが日本経済の力強い成長につながるよう」推進するとしています。途上国で、民間主導で経済成長を図れば、富の分配の不公正や、格差の拡大が起きやすいのが実態です。貧困層を対象とした直接的な支援や、富の公正な再分配を促進する支援そのものを重視する対応が不可欠です。しかも、日本経済の成長を目標にした「開発協力」にするというのでは、途上国の自立的発展を損なう可能性が高くなります。こういう方向は、やめるべきです。

 ODAは、軍事的利益や短期的な外交上の利益に従属するものであってはなりません。前述のとおり、原案は日本のODAのあり方をいっそう歪める内容となっており、原案の撤回を求めます。

 日本共産党は、「アメリカいいなり」という外交から、憲法9条にもとづく自主・自立の平和外交に転換することで、国連憲章の「平和のルール」を本格的に実践し、「人間の安全保障」の実現に向けて飢餓、貧困、人権侵害を克服し、基礎的社会サービス、環境保全、防災などの課題を達成する平和で公正な国際社会の実現に力を尽くします。こうした転換を図ることで、日本のODA(政府開発援助)を、これまでのアメリカの戦略に奉仕し、大企業の海外進出の条件を整備するものから、発展途上国の自主的・自立的発展と世界の平和に寄与するものに変えるようにします。

――途上国の市民組織と連携し、基本的人権の保障、貧困の解消、格差の是正、男女平等、社会的に立場の弱い人々の保護、環境の保全といった課題に優先的に取り組みます。

――憲法9条を持つ国として、現行ODA大綱で原則の一つである「非軍事主義の原則」を堅持し、最上位の規範として、軍事転用につながるあいまいさを排除すべきです。

――日本のODAは、経済インフラ分野が4割(2011年)も占め、基礎的な保健には2%、基礎教育にはわずか1%しかあてられていません。経済インフラ偏重をあらため、食糧、保健、教育など基礎的生活分野(BHN)や社会セクターへの支援をODAの中心にします。

――後発開発途上国(LDCs)への援助の比重を高めます。

――日本のODAの規模は、5502億円(2014年度予算)で、GNP(国民総生産)比0.18%です。1997年度をピーク(1兆1687億円)に減少を続け、半減しました。日本は、国連が2000年代にミレニアム開発目標(MDGs)の達成に取り組んでいる時期に、主要な先進国のなかで唯一、ODAを減らし続けた国です。ODA支出額については、先進国の目標として国際的に合意されているGNP比0.7%の実現に向けて努力します。

――ODAを増額するため、2012年2月に発表した経済提言(「消費税大増税ストップ!社会保障充実、財政危機打開の提言」)や、今回の総選挙で発表した「『消費税にたよらない別の道』――日本共産党の財源提案」で提案した「為替投機課税」をはじめ、国際連帯税、タックスヘイブン課税の強化も含め、財源を広く検討します。

――世界銀行など支援にかかわる国際機関において、途上国の発言権拡大を求める取り組みを支持します。

――日本の都合を優先したODAでは、相手国で期待された目的を十分に達成することができないケースが多くみられました。日本と支援先国の双方の専門家チームによって、相手国の主体性を尊重し、住民のニーズに第一義的に応えているか、ODAで使用する資器材どうかなどの観点から、客観的な評価を実施します。その結果を両国で公表し、透明性を確保して、説明責任を十分に果たすようにします。

――ODAの基本理念や、ODAに関する国会の責任と権限を明確にし、NGOの関与の仕方とそれへの支援などを盛り込んで、ODA基本法を制定します。多数の省庁にまたがったODAの内容や予算は統合・整理しつつ、発展途上国のニーズや国際的課題を一元的に受け止め、責任の所在を明らかにして透明性や一貫性を確保する見地から、ODAの実施体制を抜本的に見直すべきです。

――日本の経済協力における官民協力では、民=企業という場合が多く、ODA予算のごくわずかしか、NGOが参加できる案件がありません。NGOの持つきめ細かい対応や、情報、政策提言などを生かせるよう、ODAの計画から実施までのあらゆるレベルで、NGOの自立性を尊重しつつ、パートナーとして参加を位置づける体制(予算、協議や情報発信の場の提供など)を整えます。

 

ポスト2015年開発目標で、人権の確立、貧困の解消、持続的な経済・社会の実現をめざす

  2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択されたミレニアム開発目標(MDGs)は、来年2015年が達成の期限です。これまでの取り組みによって極度の貧困(1日1.25ドル未満での生活)で生活する人々の割合の半減、安全な水の確保を利用できない人々の割合の半減などの目標は、達成が見通されています。しかし、すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了することや、あらゆる教育分野での男女格差を解消すること、乳児死亡率を3分の1へ引き下げことについては、前進はしつつも期限までに達成できる状況ではありません。全体としては目標達成が見込まれる貧困の問題でも、サハラ以南のアフリカは、人口の47%が極度の貧困にあるなど、依然として深刻な状況が存在します。

 期限までに達成できない目標については、引き続き着実な取り組みを図るとともに、2016年以降の「ポストMDGs」の枠組みづくりについても、国際的な議論が進んでいます。国連では昨年5月に、ポスト2015年開発アジェンダへの提言を行うハイレベル・パネルが報告書「新たな国際的パートナーシップ:持続可能な発展を通じて貧困を根絶し、経済を改革する」を発表しました。これをふまえて国連は、議論を積み重ね、来年9月に首脳級サミットを開催し、ポスト2015年開発目標を採択する予定となっています。各国は協議の中で、11の主要な課題―格差、保健、教育、成長と雇用、環境の持続可能性、ガバナンス、紛争と脆弱性、人口動態、飢餓・食糧安全保障と栄養、エネルギー、水―について、「ポスト2015年開発アジェンダ」をとりまとめます。政策内容をはじめ、NGOや諸機関など取り組みの主体の拡大と協力、資金の確保の方策などに関しても、合意を練り上げようとしています。そのさい、基礎となるのは、人権と「人間の安全保障」の視点の重視、格差と不平等の是正を含む社会への包摂的な接近、将来にわたって持続可能な経済・社会の追求です。

 たとえば次のような点を踏まえた目標・指標をアジェンダに盛り込むことが大切です。

――国連人権諸規約を踏まえ、個人の福利を重視し、その実現のための国家の責任を明らかにします。

――極度の不平等と格差によって資金の流れが停滞する状況を解消し、国民経済全体に還流することで、経済・社会基盤の強化を図ります。

――男女平等を推進し、女性が政治・経済・社会での変革の主体として力をつけることを、目標として明確にします。

――大規模開発や資源開発によって、環境破壊と住民の貧困化や水・食料を奪われるような悪循環に陥ることがないように、生物多様性の維持や環境保全を前提とした成長政策に転換します。

――化石燃料の大量消費や、化石燃料や大型水力・原子力による発電などの大規模・集中型のエネルギー供給は、公害問題や温暖化などの原因となったり、放射能汚染の危険性を高めるものであり、持続可能な経済とはなりません。省エネルギーの向上、再生可能エネルギーの利用拡大による小規模・分散型のエネルギー供給を広げます。

――防災・災害対策では、東日本大震災における教訓や取り組み、地域コミュニティーの役割の重要性を伝えるとともに、福島原発事故にかかわる教訓と深刻な現状を発信します。

――世界的な軍事費の削減、国際連帯税の導入や、タックスヘイブンの縮小・廃止などによる投機的マネーへの課税強化で、必要な予算や資金の確保をはかります。

 

 

 (c)日本共産党中央委員会