2002年5月6日(月)「しんぶん赤旗」

記者ノート

国の失政問う薬害C型肝炎

人命より会社の野望優先 悲痛な叫び招いた“人災”

社会部 菅野尚夫記者


 マイクを握ったその男子大学生(当時十九歳)の手は怒りで震えていました。「エイズウイルス(HIV)には感染していなかったが、僕はC型肝炎なんです」。声はおえつとなりました。薬害C型肝炎の問題を社会にクローズアップさせた瞬間でした。

 マスコミが注視する旧厚生省前。二〇〇〇年八月二十四日の薬害根絶デーのときのことです。

 この日は、ちょうど一年前、薬害エイズ事件のような薬害を再び起こさないために最善の努力をすると、厚生省が約束した「誓いの碑」が建立された日でした。

一万人以上の悲劇の広がり

 「我々の深刻な被害の現実に口をつぐんだまま目を伏せることしかできないのだったら『誓いの碑』はただの石の塊だ」。途切れ途切れに振り絞って訴え終えて、崩れるように座り込んだ彼の姿を忘れることはできません。

 彼は、血友病の治療に使う非加熱凝固因子製剤を血友病以外の治療目的に使用されて、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染させられたのです。

 生後間もないとき、先天性の腸の病気で手術を受けた際に、投与されました。

 C型肝炎はウイルスの感染によって発症。段階を追ってじわじわとむしばまれていきます。急性期から七割が慢性に、そのうち三、四割が肝硬変になり、進行すると肝がんになります。

 薬害C型肝炎には、感染原因になった二つの血液製剤があります。一つが非加熱凝固因子製剤。もう一つが、産後の大量出血などに止血剤として投与された血液製剤のフィブリノゲン。

 血友病以外の治療で非加熱凝固因子製剤が投与された人は千人以上と推定されています。旧厚生省の調査でこれまで投与が確認されたのは四百四人。その全員にC型肝炎ウイルスの検査を実施したところ、二百十人が感染していました。一方、フィブリノゲン製剤は、血液凝固因子製剤よりも広範な人に止血剤として使われていたことが判明してきました。

 同省は旧ミドリ十字にたいして同製剤による肝炎発症者数の報告を求めました。同社によるとフィブリノゲン製剤は八〇年代以降だけで約二十九万人に使用されたと推定。一万六百人が発症すると推計しています。

使わなかった産婦人科医

 被害者の多くが出産時の出血のときに止血剤に使われて感染しました。

 「なぜそれほど大量につかわれたのか?」そんな疑問をもち埼玉県の総合病院産婦人科医師(55)を訪ねました。

 「私たちの病院ではフィブリノゲン製剤は使っていません」。その医師はそう切りだし、「肝炎の危険がある止血剤を使うより、やらなければならない治療がある」と言い切りました。

 「出産に伴う大量出血のときにとるべき治療方法は、生理食塩水などの補液を補い、心不全防止を図ること、呼吸停止を防ぐため気道を確保し、高濃度の酸素を与え、輸血をすることが基本」

 フィブリノゲン製剤は必要不可欠な製剤ではなかったというのです。

 同医師は大量使用の背景について、「輸血より血液製剤のほうが薬価が高いからだ」と証言します。

 薬価が高く、製薬企業からは安く仕入れることができ、薬価と仕入れ値との差益が大きいため、「病院経営の面からも推進された」といいます。

 そして、こう付け加えました。「ミドリ十字のプロパーが大量出血の怖さを強調し、経済効果をちらつかせて売り込んだ」

 薬害エイズ事件で「厚生省薬務局分室」とまで揶揄(やゆ)された旧ミドリ十字。この製剤をめぐっても官・業の癒着関係はなかったのか―。取材していてずっと頭から離れませんでした。

 一人一人の同省での経歴と入社時期を調べて、驚きました。

 血液製剤などの承認申請の事務処理を担当する細菌製剤課(後の生物製剤課)の課長補佐が、販売部門を担当する取締役に就任、副社長にまでなっていました。フィブリノゲン製剤の販売が開始されると、時を同じくしてミドリ十字に天下っていました。こうした厚生省からの天下りはわかっただけでも十人近く。これほどストレートな形の天下りに癒着の根深さと命運をかけた同社の野望を見ました。

 フィブリノゲン製剤が製造承認されたのは六四年。当時旧ミドリ十字は、「致命的に打撃を与える」(『ミドリ十字30年史』)事態に直面しました。売血が禁止され、献血による血液行政に転換することが閣議決定されたのです。

 同社は売血血液事業から撤退を余儀なくされ、血液製剤の開発へ事業転換を迫られていました。そのために社運をかけて危険なフィブリノゲン製剤を発売していくのです。

 人命より会社の存亡を優先させた黒い意図。その根っこに官・業の抜き差しならない癒着があることを痛感しました。薬害C型肝炎は、国の血液行政と肝炎対策の失敗を問うています。

 「黙って死んでいくわけにはいかない」。悲痛な声を上げている被害者たちの思いを胸に刻み、この人災ともいえる薬害C型肝炎問題を徹底的に追及していきたい。


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