課税最低限引き下げ

日本共産党は反対です

不破委員長の記者会見(6月7日)から


「甘いことばかり言わない」というのは、一般的には当然のこと

 昨日(六日)のテレビ討論会(日本テレビ)で簡単に言いましたが、政党が選挙のとき、有権者に甘いことばかり言っていてはいけない、必要な場合には苦いことも言わなければならない、というのは、一般論として当然のことです。

私たちも現実政治に責任を負う立場で政策問題を考えている──消費税減税と財政再建の関係など

 私たちも、政権についてはいないが、自民党政治のもと、ここまで財政が破たんすると、いろいろな経済政策を出すときに、いまこういう提案をして現実性があるか、実行可能性があるかということを、これまで以上に慎重に吟味しなければなりません。私たちの場合、財政再建と景気回復に同時に並行的に取り組むということを言っています。ゼネコン型公共事業の圧縮などで逆立ち財政をただし、財政再建にメドをつけながら、暮らし向けに新しく十兆円の財源をうみだすという計画を発表しました。その十兆円にゆくにも、切り替えは一気にできるわけでないから、一定の段階がいります。消費税減税をやろうとすると五兆円弱の財源がいるわけで、そうしてつくりだす十兆円のうち、五兆円弱をそこにまわしてしまってよいか。そうすると、五兆円あまりの財源しか残らなくなりますが、介護など社会保障の充実、中小企業や農業への対策、教育など、国民の生活要求が多面的ななかで、それに的確にこたえられるか。こういうことを考えざるをえなくなります。だから、こんどの選挙政策では、消費税減税は、いますぐの課題にせず、財政再建がすすむなかで、それへの「道を開く」ということにしました。

 このように、私たちも、なんでも甘いことを並べればよい、という態度ではなく、全体を考えて財政再建などの政策と展望を示しているのです。

 だから、私は、民主党が、「これがいま大事だ」と考えて、有権者には苦い提案をすることを、一般的に否定するものではありません。

課税最低限の問題──一つのモデルだけでなく全体を研究することがまず必要

 ただ、国民に負担増をもたらすような、この種の提案をやるときには、それだけのきちんとした根拠をもってやらないとまずい結果になる、ということを言いたいのです。

 私は、課税最低限の引き下げを問題にするとき、吟味すべきことが、二つあると思います。

 一つは、課税最低限という場合、どんなモデルをとるか、という問題です。よく議論の対象になるのは、政府税調があげているモデルの一つ、夫婦・子ども二人の給与所得者で、所得三百六十八万円、子どもの一人が大学あるいは高校に行っているというモデルで、これが、日本の課税最低限は国際的にも高いという話のもとになっています。

 しかし、政府税調が出しているモデルは四つあって、その一つのモデルは、独身の給与所得者の場合です。この場合は、課税最低限は百十万円、つまり月給十万円以下でも税金を払っているのです。

 またもう一つのモデル、子どものいない夫婦の給与所得者の場合は、課税最低限は二百九万円、ボーナスを引けば、月給十数万円で税金を払っている、ということです。

 こういう点で、現行の課税最低限というものも、ただ三百六十八万円の場合だけを見るのでなく、もう少し本格的、全面的に見ないと、答えは出ないはずです。

 あるジャーナリストが、民主党の提案について、この計算の前提になっている「二人の子供のうち一人は高校か大学に通い、主婦は働いていない」、それで月収三十万円程度(ボーナスなしで)、「こんな家庭が一般的だろうか」と書いていましたが(「日経」五日付)、全体的に見る角度が非常に大事だと思います。

国際比較──日本の課税最低限はけっして高水準ではない

 もう一つは、日本が国際的に見て高い、という議論についてです。税金というのは、「生計費非課税」ということが、国際的にも原則としてあります。生計費が問題なのだから、税金の高い低いを国際比較で見るときには、「購買力平価」での比較が重要になります。

 ところが、政府税調が、国際比較として出している資料は、全部為替レートでの比較になっていて、これでは、現実的な比較になりません。

 購買力平価では一ドルは一六三円ぐらいですが、それで計算して、各国で課税最低限となっているところが、日本円にしてどれぐらいの生活水準なのかを比較しないと、課税水準の高さ低さは問題にできません。

 そういう比較を、モデルごとにしてみたのが、次にかかげた表です。

 結局、購買力平価で見ると、日本の現状はほぼアメリカなみです。日本よりぐっと低い数字を示しているのはイギリスだけ。ドイツ、フランスは、四つのモデルのすべての場合で、日本よりかなり高い水準だということが分かります。

 国際水準からみて、日本が特別に高いという議論には、根拠がないのです。

 そういう事実をきちんとおさえて、いま課税最低限の引き下げを主張することが、日本のくらしの実態からいって、また世界各国との比較からいって、妥当なことなのかどうか、このことの本格的な検討・吟味をしてほしい、と思います。

 さきほどのジャーナリストの言葉のように、夫婦と子ども二人、そのうちの一人は大学生か高校生というモデルだけを問題にし、しかも為替レートによる国際比較で高い、高いという議論ですすめると、たいへん現実性を欠いた、まずい結論になります。

政府・自民党は選挙後に消費税大増税を計画している

 そのまずさを政府・自民党の方はよく知っていますから、テレビ討論会などで、民主党からこの提案が出てくると、野中幹事長でも亀井政調会長でも、ここぞとばかり“増税反対論者”“庶民の味方”になり、「国民がこんなに苦しんでいるときに、増税をやったら個人消費もおさえられる」と言ったりします。

 だから、昨日の討論会では、私は、その主張は分かるが、それなら政府が選挙後にやろうとしている消費税増税の計画もやめてほしい、と発言しました。実際、政府税調の加藤寛会長は、選挙後に予定している「中期答申」で消費税率一〇%への引き上げを提起しようとしています。私が、国会の代表質問(四月十一日)でそのことを問題にし、「政府は消費税増税を視野にいれているのかどうか、明確な見解を聞きたい」と森首相に質問したら、森首相の答弁は「現時点では答えられる状況でない」というものでした。これは明らかに、政府税調が消費税増税を提案してきたら、それを受けて、数年がかりになるかもしれないが、一〇%引き上げに踏み出すということです。

 いま消費税は、総額十二兆円を超えるところまで来ました。法人税(九兆九千億円)を超える税目になりました。それが税率二倍になると、二十五兆円の巨額になります。税調の加藤会長は、さきざきの目標は税率一五%だと言っていますが、そうなると消費税の総額は三十七兆円にもなります。増税派は、そういう大増税の道に走りこもうとしている、今日その危険があるのですから、どんな形にせよ、庶民増税への呼び水になるような提案を、野党がおこなうことは、大いに警戒すべきだと思います。

 そういう点で、「苦い提案」という場合にも、本格的に事実の足場をちゃんと踏まえて、国民の利益になるのかならないのかをよく踏まえて、問題提起にあたってほしいということを、昨日のテレビ討論では、(民主党の)鳩山提案について申し上げました。

 なお、討論会で私たちが、所得税などの国際比較について、購買力平価を問題にすると、自民党などが笑い飛ばそうとすることがよくありますが、もともと「生計費非課税」という税の原則があるから、購買力での生計費の比較が問題になるのです。これは、為替レートの計算で、円高になったらどうなる、円安になったらどうなる、という問題ではありません。そこをきちんとおさえないと、税の議論はできないということを、指摘しておきたいと思います。


 購買力平価 各国通貨のそれぞれの国での購買力(一単位の通貨によるモノ・サービスを買う力)で測った、通貨間の交換比率のこと。例えば、一個のハンバーグが日本で百六十三円、米国で一ドルであれば、ハンバーグに限った購買力平価は、一ドル=一六三円となります。良く使われるOECD(経済協力開発機構)基準による購買力平価は、一九九八年の日米の通貨で一ドル=一六三円。最近の外国為替市場の為替相場は一ドル=一〇五円前後なので、購買力平価から、円高方向にかなり乖離(かいり)しています。

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