介護サービス基盤の整備低所得者対策で緊急の改善を

保険料徴収の凍結中におこなうべき最小限の課題についての提案

1999年11月30日 日本共産党


 日本共産党の志位和夫書記局長が三十日の記者会見で発表した、「介護サービス基盤の整備、低所得者対策で緊急の改善を――保険料徴収の凍結中におこなうべき最小限の課題についての提案」はつぎのとおりです。

 日本共産党は、ことしの七月五日に介護保険についての「緊急提案」を発表し、新しい制度を発足させる以上は、介護サービスの確保や低所得者対策など、最小限の条件整備が必要であること、それが実現できないなら保険料徴収を延期するよう提案しました。来年四月の実施が目前にせまったいまも、これらの条件整備はいぜんとして未解決のままであり、とりわけ介護サービス基盤の不足は深刻です。このままでは、制度を発足させる条件がないことは明白です。

 政府もようやく事態の深刻さを認識し、十一月初旬に「特別対策」を決定しました。それは、六十五歳以上の保険料を半年間徴収せず、その後一年間は半額にすることを中心にしたものです。しかし、一番肝心の介護サービス基盤の整備をどうすすめるのか、低所得者が制度から排除されない制度上の措置をどうとるのか、認定制度の改善はどうするのかなどの問題については、なんらの具体的、積極的な改善策がないものです。しかも、この見直しに必要な財源は、すべて赤字国債でまかなう計画であり、いずれその負担が国民に大きくのしかかることは必至です。これでは矛盾の爆発を先送りするだけであり、国民の不安はかえって増大せざるをえません。凍結・見直しをいうなら、介護サービス基盤の整備や低所得者対策などの具体的な改善策を国民にしめすべきです。

 日本共産党は、現状を打開するために、あらためて次の提案をおこないます。

 それは次の五点です。

 第一は、制度を発足させるうえで、最小限必要な介護サービスの目標をたて、その整備を集中的にすすめること。

 第二は、国の負担を介護給付費の二分の一に引き上げ、住民税非課税の高齢者・低所得者の保険料を免除し、利用料負担を軽減する恒久対策をおこなうこと。

 第三は、介護が必要かどうかを判定する介護認定は高齢者の生活実態が反映できるように改善すること。

 第四は、介護サービス基盤を集中的に整備するために、当面一年間は保険料の徴収を凍結し、その間の介護サービス基盤整備の達成状況を見定めて、制度の本格的な発足に踏みだすかどうかの判断をおこなうこと。

 第五は、保険料徴収を凍結し、サービスを整備することに伴う財源は、いまの予算の枠内で財政支出のきりかえによってまかなうこと。

1、最小限必要な介護サービスの整備を集中的にすすめる

 保険料をとられても、サービスは受けられないのでは、まさに”国家的契約違反”であり、保険の体をなさないものです。サービス不足を解消する道すじをつけるため、次の最小限必要な施設、在宅サービスの整備に集中的にとりくむよう提案します。

(1)施設サービス――特養ホームを増設し、待機者を解消するめどをつける

 日本共産党国会議員団の調査(九九年十一月)によると、入所資格があると判定されて、特養ホームに入れないお年よりが十万人あまりもいます。いまの政府計画では、介護保険が実施される二〇〇〇年四月の時点でも、なお九万人あまりが入所できません。

 厚生省の全国集計(九九年十一月)では、特養ホームの待機者のうち、在宅で入所を待っているお年よりは約四万七千人もいることが明らかになりました。あとは老人保健施設などに入所して、特養ホームが空くのを待っているお年よりです。このままでは制度が発足してもなお、多くのお年よりが特養ホームに入所できないことになります。

 保険という以上は、ほんらいすべての待機者が解消できるだけの施設を用意するのは当然です。政府も、介護保険はサービスが選択できる制度であると宣伝してきました。それがまったくできないのに、制度を発足させることは、まさに政治への国民の信頼を大もとからほりくずすものです。 

 緊急に特養ホームを増設し、在宅の待機者を解消することは、政府の最小限の責任です。同時に、この間に在宅以外の待機者も解消するめどをたてることが必要です。

 特養ホームは在宅サービスの拠点ともなる施設です。ところが、設置がゼロの市町村は全国の市町村の約三割、九百五十八自治体(九八年十月一日現在)もあります。最小限の目標を実現するうえでも、少なくとも希望する自治体に特養ホームの設置を認めるとともに、国庫補助の引き上げ、小規模施設(三十人)の設置基準緩和と運営費増額、土地取得費への補助新設など、国が特別の財政援助をおこなうことが必要です。政府は、特養ホーム設置の目安として、高齢者人口の一・三六%程度という枠を自治体にはめていますが、こうした規制は地域の実情に即して改善することをもとめます。 

(2)在宅サービス――自力で目標を達成できない市町村を援助し
すべての自治体が最低水準を突破する

 政府が二〇〇〇年四月までにめざす在宅サービスの目標(新ゴールドプラン)は、もともと介護保険の導入が想定されていない段階でつくられたものです。ほんらいなら、介護保険の導入を機に当然見直されなければならないものです。しかし、その目標にてらしても、厚生省の全国集計によると、来年四月の段階で訪問介護(ホームヘルプ事業)が八四%、通所介護(デイサービス)が七二%、短期入所介護(ショートステイ)が七六%にすぎません。住民の要望がつよい訪問看護にいたっては六五%しかサービスが提供できない状況です。 

 しかも市町村間の格差が大きく、ホームヘルプサービスが七五%未満しか提供できない市町村は二八%、五〇%未満の市町村も一二%あります。とりわけ離島、山間地、過疎地は深刻です。政府が頼みとする民間企業も、採算がとれる都市部に集中し、これらの地域への参入を敬遠しています。 

 こうした現状をふまえるなら、保険料徴収を凍結するあいだに、少なくとも全国すべての市町村が当初目標を達成すべきです。民間まかせにしてはサービスが確保できない自治体は、みずからがサービスを提供する事業者となり、自治体ほんらいの役割を発揮することがいま必要です。いま介護サービスの提供を周辺の自治体と協力しておこなう広域化など、自治体側でもさまざまな努力がはじまっていますが、なによりも国がこれらの自治体に人材確保などで特別の財政支援をおこなうことが必要です。 

 もちろん、この目標は最低限のものであり、地域の実情にふさわしく引き上げたり、力のある自治体が高い水準をめざして努力することは当然です。

2、国の負担を2分の1に引き上げ
高齢者・低所得者対策に重点的に配分する

 介護の給付費にしめる国庫負担総額の割合は、介護保険の導入でこれまでの四五%から三二・六%に下がります。一方で国民の負担は二六・三%から四二・四%に上がります(十一カ月ベースの厚生省試算)。保険料や利用料の高さが問題になるのは、老人福祉にたいする国庫負担をこれまでの二分の一から四分の一に引き下げるなど、政府が大幅に国の負担を減らすしくみを導入したからです。その結果、保険料、利用料の負担は耐えがたいほど高くなり、介護サービスの基盤整備もすすまないことになりました。この構造にメスをいれないで、一時的に保険料を凍結しても、深刻な矛盾がなんら解決されないことは明白です。

 介護保険は国民的な大事業です。この大事業にふさわしく、国が責任をはたすのは当然です。

 日本共産党は、国の負担総額を給付費の五〇%まで引き上げ、国民の負担を四分の一に引き下げることを提案します。自治体の負担は四分の一のままです。これによって、高齢者・低所得者を制度から排除しない対策が可能になります。

(1)保険料は住民税非課税の高齢者・低所得者から徴収しない

 厚生省の発表によると、高齢者の七六%は住民税非課税です。年金も四割強の高齢者が平均月額で四万円台です。もともと、生計費には課税しないというルールは、憲法二五条にさだめる生活保障にかんする国の義務を税制の上で具体化したものです。それを、非課税のお年よりからも介護保険料をとりたてることは、生存権を否定するにもひとしく、許されません。政府もこうした矛盾に気がついたからこそ、手直しをせざるをえなかったはずです。それなら一時的な凍結や軽減策ではなく、恒久的なものに制度を改革すべきです。

 保険料徴収を凍結するあいだに、六十五歳以上の高齢者(第一号被保険者)は、住民税非課税世帯・本人にたいしては、国の制度として保険料を免除する制度をつくるよう提案します。この対象は全高齢者の七六%にあたります。また、四十歳から六十四歳まで(第二号)の人も、国民健康保険の加入者を中心に住民税非課税世帯の保険料を免除します。

 国庫負担を二分の一に引き上げることで増える財源は、このような高齢者・低所得者の保険料減免対策に重点的にあてるようにします。

(2)利用料の高齢者・低所得者対策をおこなう

 保険料徴収を凍結しても、サービスの提供は待ったなしです。サービスを過渡的な措置で提供するにあたって、来年四月までに次のような利用料制度の改善を提案します。

 在宅サービスの利用料……政府は、低所得者を対象に、在宅サービスの利用料を三年間にかぎって、ほんらいの一〇%ではなく、三%にする方針をうちだしました。しかし、これでは不十分です。保険料の措置と同様、国の制度として住民税非課税の世帯、本人とも利用料を免除することを提案します。この措置によって、現に無料で訪問介護を受けている利用者の八三%の人たちは、基本的にひきつづき無料でサービスが受けられるようになります。

 施設サービスの利用料……政府は、介護保険の実施前に特養ホームに入所しているお年よりにかぎって、利用料負担を入所者の所得に応じて、〇%、三%、五%、一〇%にする経過措置を決定しています。しかし、これは来年四月以降の入所者には適用されず、原則として一〇%の利用料をとられることになります。これでは低所得者で利用できない人が多数でます。政府の経過措置を恒久措置にし、新規の低所得の入所者にたいしても、同様の軽減対策を講じるべきです。 

3、介護認定を高齢者の生活実態が反映できるように改善する 

 介護認定のあり方を改善することも緊急の課題です。政府は批判に押されて、介護が必要かどうかの一次判定をおこなうコンピューターソフトを若干改善しました。しかし、高齢者の生活実態を反映するにはきわめて不十分です。判定のデータを、現行のような施設介護のデータだけでなく、在宅介護のデータもいれたものにするなど、介護を必要とする人がその生活実態にみあうサービスが受けられるよう、改善をおこなうことは急務です。 

 市町村の認定審査会を充実、強化することも必要です。過疎地ほど医師の確保が困難であり、良心的な審査をおこなえば、一人二十分も三十分もかかるという声も聞かれます。審査会の体制を充実するために、国・都道府県の支援をあらためてもとめます。

4、保険料徴収を1年間凍結し、介護サービスの整備状況を見定める

 制度をスタートさせる前提条件を欠いたまま、保険料だけをとりたてることができないことはすでに明白です。保険料の徴収を当面一年間凍結し、そのあいだに在宅、施設とも最小限必要な介護サービスが提供できる基盤づくりを促進させることが必要です。また、低所得者が制度から排除されない恒久的な制度を確立することも、この間の最小限の仕事となります。一年たった時点で、達成状況を見定め、制度を本格的に発足させるかどうかを判断するよう提案します。

5、財源は赤字国債・増税ではなく、いまの予算の枠内で財政支出をきりかえる 

 保険料徴収を凍結することで年間約二兆円、介護サービスの基盤を集中的に整備することで数千億円、さしあたって二兆数千億円の財政支出が必要となります。また、凍結を解除した場合は、国の負担増額は年間八千億円程度になります。この財源については、いまの予算の枠組みのなかで、財政支出のあり方を見直すことでまかなうべきです。 

 そもそも介護体制の確立という、国民的な大事業をやろうというときに、いまの財政構造にいっさい手をつけず、今回の「特別対策」の財源も、将来の増税や負担増につながる赤字国債の発行でまかなおうというのは、あまりにも無責任です。 

 財政支出のあり方をあらためれば、赤字国債の増発や国民負担増は必要ありません。まずなによりもメスをいれるべきは、ゼネコン奉仕の公共事業費です。国と地方で毎年五十兆円もの金を公共事業につぎこむ一方で、社会保障にはわずか二十兆円しか支出しないという、欧米諸国とはまったく逆立ちした財政運営の転換にまっさきにとりくむべきです。公共事業費は建設国債(借金)でまかなうので財源にならないという議論がありますが、五十兆円の公共事業費のうち、国の支出分は、その年の税財源をふくめ約十七兆円にのぼっています。最初の年は二兆数千億円の財源が必要としても、この十七兆円の十数%です。凍結解除後に必要な八千億円ということでいえば、わずか五%程度にすぎません。国民的な大事業をスタートさせようというときに、ばく大な公共事業費から、この程度を介護にふりむけるのはあたりまえではないでしょうか。 

 介護体制の整備は、国民の生活保障の基本にかかわる緊急の国民的な課題です。介護保険の導入を機に、いまの逆立ちした異常な公共事業中心の財政運営にメスをいれ、その根本的な是正に踏みだすことを、あらためて提唱するものです。


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