JCP
TEIAN
SYAKAIHOSYO

小泉内閣による介護保険の大改悪をゆるさず、より良い介護制度にするために――介護保険5年目の制度見直しにあたっての日本共産党の提案


 日本共産党の小池晃政策委員長、穀田恵二国対委員長が十八日に発表した「小泉内閣による介護保険の大改悪をゆるさず、より良い介護制度にするために――介護保険5年目の制度見直しにあたっての日本共産党の提案」は次の通りです。


1、介護サービス切り捨て、負担増の大改悪をゆるさない

 介護保険は、来年四月に五年目の見直しの時期を迎えます。政府は来年の通常国会に法案を提出する予定ですが、そこで検討されている内容は、もっぱら介護への国の財政支出を抑制するために、高齢者のサービス利用を制限し、国民負担をいっそう増やすという、大改悪となっています。

 第一に、在宅介護サービスの利用を制限し、多くの高齢者から、生活の支えとなっているホームヘルパーなどの介護サービスをとりあげようとしています。政府は、まともな根拠も示さずに、サービス利用が「かえって本人の能力実現を妨げている」などと言って、要支援、要介護度1の人への介護サービスを切り捨てようとしています。実際には、きちんと介護を受けている人の方が状態が悪化しないというのが、現場の共通した声です。必要な介護サービスをとりあげることは、高齢者の生活と人権を踏みにじるものです。

 第二に、介護サービス利用料の大幅値上げです。現行の一割負担を二、三割負担に引き上げることさえ検討しています。また、「ホテルコスト(居住費等)の徴収」という名目で特別養護老人ホームなどの利用料の大幅値上げも検討されています。特養ホームでは、月額で三〜八万円程度値上げし、相部屋でも八万七千円、個室で十三万四千円にするという試算も出しています。これでは、月六万六千円の国民年金の満額受給者でも、特養ホーム入所は困難になってしまいます。

 第三に、二十歳から介護保険料を徴収し、それにともなって、介護保険と障害者の支援費制度を統合することも検討しています。安易な国民負担増は、いまの経済情勢からも、二十〜三十九歳という負担増の対象となる若い世代の雇用と収入が不安定になっていることからも、滞納や制度の空洞化すらまねきかねず、やるべきではありません。そして、障害者にも、サービス水準の低下や負担増を押しつけることになります。政府が「統合」を言い出したのは、障害者のためでなく、二十歳から介護保険料を徴収する「大義名分」にしようということでしかありません。

 第四に、介護保険導入いらい「特別対策」として行ってきた、施設と在宅サービスの低所得者対策を来年四月に廃止する方針です。とりわけ、特養ホームの利用料値上げや、介護保険発足前から入所している「自立」「要支援」の人の継続入所の廃止は、行くあてもないままに、特養ホームを追い出される人をうみだしかねません。こんなことは絶対に許されないことです。

 政府は、こんな改悪を「合理化」するために、多くの高齢者がたいして必要でもないサービスを介護保険で利用しているかのようなことまで言っています。しかし、介護保険の現状は、在宅サービスでは、利用限度額にたいする平均利用率が、わずか四割程度にとどまり、要介護認定をうけながらサービスをいっさい利用していない人も八十六万人をこえています。今でさえ、低所得者を中心に、利用料負担が重いために、必要と認定された介護サービスを、がまんせざるをえない状況が広く存在しているのです。少ない年金からも保険料が「天引き」されていながら、必要と認定されたサービスを受けられないということは、社会保険制度の根本にかかわる問題です。介護保険をなるべく利用させないようにするという、政府がねらう改悪は、この矛盾をいっそう激化させ、介護にたいする国民の願いにまっこうから反するものです。

 日本共産党は、政府がねらう大改悪をやめさせるため全力をあげます。そして、介護制度の充実と改善を願う利用者とその家族のみなさん、自治体や介護現場で働く関係者のみなさんをはじめ、多くの国民のみなさんとともに、サービス切り捨てでなく、安心できる介護のための改善を求める共同をよびかけます。

2、安心できる介護制度へ、政府は、ただちに改善にとりくむべきです

 今回の見直しは、国レベルで行われる初めての制度見直しです。介護保険実施後の四年半をふまえて、より安心できる介護制度にするために問題点の改善にとりくむことこそ、いま政府のやるべきことです。

この4年半で明らかになった介護保険の見直すべき課題はどこにあるのか

 第一に、利用料負担が重いために必要な介護サービスを受けられないという状況が広く存在していることです。多くの高齢者が、介護の必要に応じてではなく、いくら払えるのかによって受けるサービスの内容を決めざるをえない状態です。内閣府経済社会総合研究所の研究者すら、「一割の自己負担が外部の介護サービスへの需要を減少させ、結果として家族に介護を強いている」と指摘しているほどです。

 第二に、保険料の値上げが繰り返され、重い負担になることも深刻です。昨年の見直しでは、全国の自治体の介護保険料は、平均して13・1%の値上げとなりました。そのうえ、厚労省は、二〇一二年度には月額五千〜六千円にもなると試算しています。介護サービスの量を拡充したり、サービスの質の確保のために介護報酬を充実すると、高齢者の保険料・利用料も引き上がるという深刻な問題があるからです。そのために、ただでさえ遅れている基盤整備をためらう自治体も少なくありません。

 第三に、こうした中で施設不足も深刻になっています。この四年半で、特養ホームへの入所待機者が各地で倍増しており、全国で三十二万人をこえ、現在の特養ホームの総定員数に匹敵する規模になっています(日本共産党国会議員団調査〇四年十月)。

 こうした介護保険の構造的欠陥とも言える問題をただし、高齢者が必要な介護サービスを受けられるようにしていくことこそ、今回の見直しに求められていることです。小泉内閣のように介護保険の利用を制限し、年金生活ではとても負担できないような利用料を押しつけようとすることは、こうした問題をさらに深刻にするだけです。

 日本共産党は、この間、介護の現場で働く労働者や事業者、自治体関係者をはじめ、多くの方々から実情やご意見を聞いてきました。それらもふまえて、高齢者が安心して利用できる制度にしていくために、政府がただちにとりくむべきことは何か、という立場から以下のとおり提案します。

(1)国庫負担をただちに25%から30%に引き上げ、利用料、保険料の減免制度をつくる

 介護保険導入後、全国で四分の一をこえる自治体に、保険料や利用料の減免制度がうまれました。これは、住民運動と日本共産党が力をあわせた成果であるとともに、国の制度として低所得者への減免制度がないことが大きな欠陥になっていることの表れです。

 そもそも保険料や利用料が高い最大の原因は、介護保険が導入されたときに、政府が、介護施策にたいする国庫負担の割合を、それまでの50%から25%へと大幅に引き下げたからです。国の責任は重大です。

 日本共産党は、国庫負担をただちに30%に引き上げることを求めます。現行では、国庫負担25%の内に「調整交付金」5%分が含まれていますが、これを別枠化し、国庫負担全体を30%に引き上げることは、全国市長会や全国町村会もくりかえし要望していることであり、財源も約三千億円程度です。この程度の国庫負担引き上げでも、国の制度として、住民税非課税世帯(現在の第一、二段階にあたる人)を対象に、在宅サービスの利用料を3%に軽減し、保険料を減免することが可能になります。

 さらに、保険料の(1)全額免除、(2)資産審査なしの減免、(3)一般財源の投入の三つを不適当とする、いわゆる「三原則」による国の自治体にたいするしめつけをやめさせます。せっかく自治体が低所得者への減免制度をつくっても、国の方針だからといって、わずかな預貯金を理由に減免が打ち切られています。国の責任と、自治体の努力とをあわせて、実効ある減免制度をつくる必要があります。

 将来にむけては、歳出や歳入の改革で財源を確保し、国庫負担の割合を計画的に介護保険導入前の50%まで引き上げ、減免制度の拡充や、保険料の抑制、介護報酬の引き上げなどにつとめます。

(2)保険料・利用料のあり方を、支払い能力に応じた負担にあらためていく

 保険料や利用料のあり方も、応能負担(所得や資産など支払い能力に応じた負担)の方向で見直すことが必要です。

〈保険料は所得比例に〉

 現在の六十五歳以上の介護保険料は、五段階(または六段階)の定額制と定められており、所得の少ない人ほど負担割合が重くなるという逆進性が、所得税・住民税や国民健康保険料などと比べても著しくなっています。

 「負担は能力に応じて、給付は平等に」ということは、社会保障制度の原則です。日本と同じ介護保険を実施しているドイツでも、保険料は定率制(所得比例)になっています。各自治体が、介護保険料を、定率制や多段階制など所得に応じてきめこまかく設定するように介護保険法と関係政省令を改正することを提案します。また、国庫負担割合を引き上げるさいには、保険料の自治体間格差を調整する機能も拡充させます。

〈施設利用料は所得に応じた額に〉

 介護保険以外の福祉施設では、保育所でも、障害者施設でも、利用者は所得に応じて負担しています。生活の場である特養ホームの利用料が、所得にかかわらず一律というのでは、高齢者は、安心して暮らせません。日本共産党は、「ホテルコスト」の名目ですべての人の利用料を値上げするのではなく、利用料を所得に応じた額にあらためることを提案します。

〈在宅サービスの利用限度額を見直す〉

 在宅のサービス料では、低所得者への利用料減免が不可欠ですが、同時に、利用限度額を見直すことも必要です。最高でも三十五万円、それを超えた分は全額自己負担という現行の利用限度額では、要介護度の重い人が在宅で暮らすには、あまりにも負担が重くなってしまいます。そのため、介護を苦にした悲惨な事件も後をたちません。高齢者が人間らしく生活できるサービス水準をまもるためにも、要介護度の重い人などは、利用限度額を撤廃し、必要なサービスを介護保険で受けることができるようにあらためます。

(3)在宅でも施設でも、安心して暮らせる基盤整備を

 介護保険実施から四年半がたった現在でも、十分なサービス基盤がない地域が多く残されています。自治体の努力や、民間事業者まかせにするのではなく、国の責任で、在宅サービス、施設サービスの基盤整備をすすめる必要があります。

〈在宅で安心して暮らせる社会的条件の整備を〉

 多くの高齢者が、介護が必要になっても、できることなら住みなれた自宅で過ごしたいと思っています。高齢者の願いにこたえて、在宅で安心して暮らせる社会的条件を整備することが、どうしても必要です。そのことは、施設不足の解消にも役立ち、介護費用の節減にもつながります。

 それだけに、在宅での介護生活をささえる体制づくりは急務です。とりわけ、ショートステイは、どこも半年前から予約でいっぱいという状況です。高齢者・家族の緊急事態に対応できるように、ショートステイのベッドを一定数確保する自治体も広がっています。その費用にたいして、国が支援することを求めます。

〈特養ホームなどの計画的整備を〉

 特養ホームへの入所待機者は全国で三十二万人をこえています。ところが政府は、基盤整備をすすめると保険料が高騰するというジレンマを自治体におしつけた上に、今年度は、特養ホーム建設費への補助金を昨年の三分の二まで削減しました。そのため、自治体の整備計画の目途がたたなくなる事態が相次いでいます。

 特養ホームは、在宅で生活する高齢者にとっても、介護をささえる家族にとっても、いざというときの支えです。高齢者人口の1・5%という低い目標(参酌標準)の自治体への押しつけをやめさせ、特養ホームを地域に計画的に整備するため、国が財政的に支援すべきです。

 特養ホームを中核的な施設として整備するとともに、グループホームや生活支援ハウス、託老所など多様な施設を、地域のなかに整備し、高齢者が住みなれた地域で生活できるようにしていくことも必要です。地域の実情におうじて、安価で質の良いサービスを提供できるように、事業者に対する自治体の権限などを拡充するとともに、グループホームの土地確保などに、国が財政支援することを求めます。

(4)介護・医療・福祉の連携で、健康づくりをすすめる

 今回の見直しにあたって、政府は「介護予防の重視」を掲げています。介護を必要とする状態になることを、できるだけ予防することは当然です。

 ところが政府は、最初に述べたとおり、軽度の要介護者のサービス利用を制限したり、全額公費の「介護予防・地域支え合い事業」などの福祉事業を介護保険(国庫負担割合は25%)に移すことなどを検討しています。このように、国の負担と公的責任をさらに後退させることは、「介護予防」に逆行することです。

 介護保険は高齢者福祉の一部でしかなく、「介護予防」をすすめ、高齢者の生活と健康をまもるには、介護、医療、福祉、公衆衛生などの各分野の連携が必要です。そして、その連携をとるためにも、自治体のとりくみが不可欠です。全国には、すでに、自治体をあげて高齢者の健康増進にとりくんだり、民生委員と協力して虐待予防にとりくむなどの例も生まれています。その一方で、自治体が高齢者のことを“介護保険まかせ、事業者まかせ”にしてしまい、自治体として高齢者の状態がつかめていないということも多く生まれています。

 日本共産党は、国の財政支援や、自治体の責任を明確にして、介護・医療・福祉・公衆衛生の連携をつよめ、高齢者の健康づくりをすすめます。高齢者の健康づくりは、高齢者がいきいきと暮らしていく力となるだけでなく、結果として、介護保険の給付費を抑えることにもなります。

 また、制度上、介護と医療の連携が不十分なために、介護施設の入居者が満足な医療を受けられないといった事態も起きています。誰でも、どこでも、必要な医療を受けられるように、介護も医療も実情にあわせて見直すことも必要です。

(5)「福祉はひと」――介護労働者の労働条件を守り、改善する

 介護保険の導入いらい、政府は、介護をIT産業などとならぶ“雇用創出の柱”ともてはやしながら、そこで働く人の労働条件の確保については、何の対策もとってきませんでした。そのため、介護労働者の労働条件は悪化し続けています。

 「福祉はひと」と言われます。しかし、そこで働く人が、最低限の労働条件も確保されず、必要な研修も受けられない状況では、介護保険の未来は展望できません。専門職にふさわしく介護労働者の身分と待遇を改善することは、安心できる介護制度への大前提です。

 厚労省は、国会での日本共産党の追及や介護労働者の切実な訴えをうけ、ようやく今年八月になって、「登録ヘルパー」などもふくめて訪問介護職員は「労働者」だと認め、それにふさわしい待遇を求める通達を全国に出しました。政府の責任で、労基法などに違反する状態を一日も早くなくし、移動・待機時間にも賃金を支払う、労災を適用する、利用者都合のキャンセル時には賃金補償をおこなうなど、労働者としてあたり前の労働条件をすみやかに確保すべきです。

 介護職員の労働条件が劣悪になっている根本的な原因は介護報酬の低さにあります。多くの事業者も、この点で苦労しており、介護労働者の劣悪な現状は、一部の営利企業による「もうけ主義」だけが原因とは言い切れません。介護報酬の適切な引き上げをふくめた抜本的な措置を国に求めます。また、ケアマネジャーが独立性、公共性をもって、もっとも適切なケアプラン作成に専念できるように、担当件数の削減、介護報酬の引き上げなど、適切な条件整備も必要です。

 日本共産党の今回の制度見直しにあたっての提案は、現在の介護保険がかかえる深刻な問題を解決するための必要最小限のものです。財源も、数千億円程度であり、予算の使い方、優先順位を見直せば実現できます。例えば、国庫負担を30%に引き上げるのに必要な財源の約三千億円は、米軍への「思いやり予算」(年間約二千八百億円)をなくすだけで、ほぼ、まかなえる規模です。また、小泉内閣が今年度削った特養ホーム建設補助金を前年度並みにするには約五百億円程度です。まさに政府の姿勢が問われています。

 同時に、今回の見直しは、二十一世紀の社会保障全体をどうするか、という点でも重要な意味をもっています。厚労省は、「介護保険制度は社会保障『改革』のフロントランナー」と位置づけています。政府は、年金改悪に続き、来年度には介護保険を改悪し、二〇〇八年度には、すべての高齢者から医療保険料を徴収するなどの「高齢者医療保険制度」をスタートさせようとしています。社会保障の連続的な切り捨て、国民への際限のない“痛み”の押しつけを許すのか、それとも、憲法二五条がかかげる生存権を保障する社会保障制度を確立していく道に踏み出すのか、介護保険の見直しのなかでも、大きく問われています。日本共産党は、介護不安を拡大する政府の大改悪をゆるさず、いまも将来も安心できる介護制度にしていくために力をつくします。


JCPトップページサイトマップ「しんぶん赤旗」著作権リンクについてメールの扱いについてアクセス地図

(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4−26−7 TEL.03-3403-6111 FAX.03-5474-8358 メール
%>