「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(交通バリアフリー法)に対する日本共産党の修正案要綱

2000年4月12日 日本共産党

 高齢者、障害者等が「社会参加」をしていくうえで、移動の自由と安全を確保することは不可欠であり、基本的権利です。ところが、長年の自民党政府による大企業本位の街づくりの歪みがふきでている状況のもとで、交通バリアフリ−化の整備は極めて不十分なものです。

 こうしたなか、今国会に、ようやく「交通バリアフリー法」が提出されました。これは障害者団体や高齢者団体などの粘り強い運動の成果です。わが党も六年前から法制定を図るべきと政府に提案をしてきた経緯もあり、法案が策定されたことは、前進と評価できます。

 しかし、政府案には、多くの改善すべき点があります。

 一つは、「移動の自由と安全確保」が基本的権利であり、社会参加の絶対条件であるにもかかわらず、目的・理念のなかに、このことが明記されていません。また、対象範囲も「身体障害者等」と限定しており、すべての障害者が法案の対象になっていないことも大きな問題です。

 二つは、バリアフリー化の適合基準が新設の施設等に限定されており、既存施設等は事業者まかせの単なる努力義務となっています。バリアフリー化の成否は既存施設の整備にかかっており、これでは実効性を担保することにはなりません。また、整備の実施計画目標も「乗降客五千人以上の施設」だけを対象にしており、五千人以下の施設は計画さえ持たないことになっています。しかも、整備内容もエレベーター、エスカレーターの設置を中心とするもので、極めて限られたものとなっています。

 三つは、公共交通事業者の果たすべき責務が極めて不十分です。また、国、地方公共団体の役割も曖昧です。特に、住み慣れた地域で障害者等が参加したまちづくりを進めていくうえで、地方自治体の計画作成が極めて重要です。しかし、政府案では、この視点が抜けています。

 四つは、この法律の重大な弱点として、国の基本方針、各種計画、整備基準等の決定に当たって、障害者等利用者の意見が十分反映できる制度が、まったく位置づけられてません。

 こうした主要な問題点の解決の為、日本共産党は以下の柱とした修正案を提出します。(1)目的・理念を「移動の自由と安全は基本的権利」と明記します。(2)国の「基本方針」で、すべての施設等を対象に整備計画と目標を明確にします。(3)地方公共団体もバリアフリー化対策の計画を策定することにします。(4)交通事業者が講ずべき責務を明確にします。(5)利用者、障害者等の積極的参加を保障するための制度化を図ります。(6)バリアフリー化されても移動困難な人のため代替輸送の確保を図ります。


<修正案要綱>

一、目的・理念を明確にする──「移動の自由と安全は基本的権利」である。

 政府案の目的、定義は「高齢者、身体障害者等の移動に係る身体の負担を軽減することにより、移動の利便性及び安全性を向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資する」と、目的、理念の位置づけが希薄である。

  1. 「移動の自由と安全確保は基本的権利」との理念を明記する。
  2. 対象範囲は「身体障害者等」と規定され、知的障害者、精神障害者が含まれていない。「身体障害等」を「障害者等」と改める。

二、国の基本方針について。

 政府案の基本方針は、バリアフリー化の整備計画、整備対象が限定的であり、目標も曖昧である。

  1. バリアフリー化を「重点整備地区」に限定せず、すべての施設、設備、車両等を対象にする。「基本方針」にもとづき「実施計画」をつくり、目標と期限を明確にする。
  2. 施設、設備、車両等の「整備基準」は、完全バリアフリ−化を、原則として策定する。
  3. 公共交通事業者に対し、国の「基本方針」「整備計画」をふまえた「年次実施計画」等を策定し、その実施状況を国や自治体、利用者等に報告することを、義務づける。
  4. 国が公共交通事業者に対し、「改善命令」を行う対象を拡大する。

三、地方公共団体もバリアフリ−化対策の計画を策定する。

 政府案は「市町村は重点整備地区について、基本構想を作成することができる」としているだけである。

  1. 「重点整備地区」に対象を限定せず、自治体としても計画をもち、「福祉まちづくり」条例に、積極的に 位置づけさせるようにする。また、地下鉄、バス等公共交通機関を直接運営しており、その立場からも積極的に対策を講じる責務があることを明確にする。
  2. 国は自治体への財政的援助を強化する。

四、公共交通事業者が講ずべき責務を明確にする。

 鉄道における旅客利用の九八%をJR、大手私鉄、地下鉄が担っている。この法律が実効性をもつかは、すべてこれら大手事業者にかかっている。

  1. 公共交通事業者の責務を明確にするとともに、公共交通事業者の定義にタクシーも含める。
  2. 公共交通事業者に対して、すべての施設、設備等を対象に整備することを義務化する。ただし、障害者等利用者の参加した「協議会」(仮称)の意見等を尊重したうえで、除外規定を設けることとする。
  3. バリアフリー化対策費用は事業者負担が原則である。しかし、必要と認められる場合には国、自治体も補助できる。
  4. 情報の提供は事業者の義務とする。「バリアフリ−化のマップ」(仮称)等を基に交通施設、設備の事前情報を作成、提供する。また、公共交通機関を利用するための「手引き」等の策定をする。

五、利用者−障害者等−の積極的参加。

 政府案では、障害者等利用者の意見を反映させる規定がない。「基本方針」「整備基準」や各種の「計画策定」「計画変更」「情報の提供」等にあたっては、障害者等利用者の意見が十分反映できるようにする。障害者等利用者が参加した「協議会」(仮称)を設置する。

六、バリアフリ−化されても移動困難な人のため代替輸送の確保。

 −STS(スペシャル・トランスポ−ト・サ−ビス)−

 バリアフリ−化が進められても、それでも移動困難な人がいる。欧米では、そのための代替輸送が制度として実施されているが、政府案では位置づけられてない。

 日本でも国に先駆けて、自治体や事業者、ボランテイア団体等で一部実施されており、国としても、その制度化を図る。

七、その他

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