保育をもうけの場に―規制改革「中間答申」

1 営利企業参入促す

 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が、保育を民間企業のもうけの場にする方針を打ち出しました。七月三十一日に決定した「重点検討事項に関する中間答申」です。放送・通信、教育、保育など六つの重点検討分野を列挙。なかでも保育分野では、これまでの保育行政を根本から変え、民間企業が参入しやすくするための条件づくりを求めています。

 中間答申が強調しているのは、保育が必要な子どもを優先して受け入れる今の「社会福祉としての保育」を、利用者の支払い能力と施設側のもうけを優先する「子育て支援サービス」に転換することです。

 保育園の需要が高まり、全国で少なくとも二万三千人(二〇〇五年四月時点)が入園待ちの状態にあるもとで、認可保育園の拡充は待ったなしの課題です。

 これに対して中間答申は、「保育サービスの質に比べて高コストの公立保育所を増設するのは現実的ではなく」「私立、特に民間企業の参入を促すことが急務」と強調しています。

 保育への企業参入が始まったのは、二〇〇〇年からです。厚生労働省は、財界の要望を受け、企業が認可保育園を運営することを認めました。〇三年には、地方自治体が株式会社にも保育園の運営を委託できるようにする「指定管理者制度」を導入しました。

 しかし、株式会社が運営する保育園は〇四年十月現在「2%足らずに止まる」(中間答申)状態で、財界が望むような新規参入や事業拡大は進んでいないのが現状です。

 中間答申では「行政の役割は、自らあるいは委託の形で保育サービスを提供するのではなく、……公的扶助色の薄い普遍的な仕組みへと、抜本的に転換することが求められている」と指摘。国や自治体が保育から手を引き、営利企業の参入を促進することをめざしています。(つづく)

2006年8月12日(土)「しんぶん赤旗」


2 入園の決定は企業

 規制改革・民間開放推進会議の中間答申は、企業が十分な収益をあげられるように、認可保育園のしくみを変えることを求めています。

 現行の認可保育園への入園手続きは、保護者が希望の保育園を選んで市区町村の窓口に申し込みます。市区町村は、保護者の状況をみて、優先度の高い順に入園を決めていきます。保育料は、所得に応じて市区町村が設定します。自治体の責任で、必要な保育を保障するためです。

 しかし中間答申は、これを「施設側のサービス向上へのインセンティブ(動機付け)が希薄」と軽視。利用者が希望する施設に直接申し込んで契約(直接契約)するしくみに変えることを迫っています。

 保育料も、現行制度は「応能負担」であるため「利用者の負担が更に抑えられている」ことを問題視。施設ごとに自由に設定できるようにするとともに、保育時間や保育内容に応じて料金を支払う「応益負担」にすることを打ち出しています。

 中間答申は、「利用者が保育所を選択できる」とうたいます。しかし実際は、入園の申し込みへの行政の関与をなくし、だれを受け入れるかは施設を運営する企業が決めたいという思惑があります。

 また、保育料を企業側の自由な設定にまかせれば、現状よりも高くなっていくことが予想されます。園によって差が生まれ、保護者の収入で保育内容の格差を生むことにもつながります。

 すでに東京都は、直接契約を先取りした認証保育所制度を導入しています。保育料は都の決める上限の範囲内で、各施設が自由に決められます。東京都のアンケート(二〇〇四年)によると、一世帯あたりの平均保育料は月五万円以上が半数を超え、約八割の保護者が「保育料を値下げしてほしい」と答えています。中間答申の方針は、こうした事態を認可保育園全体に広げるものです。(つづく)

2006年8月13日(日)「しんぶん赤旗」


3 利用券制度の考え方は

 規制改革・民間開放推進会議の「中間答申」は、就学前の子どもを持つすべての家庭に、直接、公的補助をする方式の導入を求めています。自治体が利用者にバウチャー(利用券)を配布し、利用者はそれを保育園に渡す。保育園の経営者がそれを自治体に提出して補助金を得る―というしくみが想定されています。

 ここにも、現在の認可保育園を民間参入の障害≠ニみなす考えがあります。

 認可保育園とそれ以外のサービスでは公的補助に大きな格差がある。そのため、多額の補助を受ける認可保育園に利用者が集中する。認可外の事業者はサービス水準を維持するため、高額な保育料になり、利用者を遠ざけている―というわけです。

 では、財源はどうするのか。中間答申は「社会福祉制度としての保育の性格を変え、子育てを広く社会全体で支援するという共助の考え方に立って」、国民の保険料と公費を財源とする「育児保険(仮称)」の創設を検討すべきだと提起しています。社会全体で負担を分かち合う≠ニいう名目で、国民全体に新たな保険料負担を求める方向です。

 さらに、子どもの年齢を基本に各家庭の「要保育度」を設定し、その度合いごとに、公的補助の対象となる保育サービスの利用上限を決めるやり方を打ち出しています。介護保険と同様のしくみです。

 介護保険は、国の財政負担を抑える一方、高齢者の保険料は今年四月から平均で月四千円を超える水準にまで上昇。高い利用料(一割負担)のためにサービスを受けられない人も少なくありません。一方、企業にとってはビジネスチャンスとなり、介護事業への参入が広がりました。中間答申の方向は、そのしくみを保育の分野にも導入しようとするものです。(つづく)

2006年8月16日(水)「しんぶん赤旗」


4 認可基準を引き下げ

 規制改革・民間開放推進会議の「中間答申」は、保育園の認可基準を見直して、民間企業が保育分野に参入しやすくなるよう、ハードルを低くすることも求めています。

 民間の保育園が都道府県などの認可を受けるには、保育士の配置基準や施設の面積など、国の「最低基準」を満たす必要があります。子どもの健全な成長を保障するために、最低限必要な基準を全国的に定めたものです。

 中間答申は、この基準の引き下げをストレートに求めています。

 例に挙げているのは、零、一歳児の部屋について。いまは一人あたり三・三平方bの面積が必要とされています。これを「根拠は必ずしも明確でなく、半世紀にわたり見直しがなされていない」と指摘。都市部では東京都の認証保育所の基準並み(二・五平方b程度)に引き下げることを求め、「現行の画一的な仕様基準を見直すべき」だと迫っています。

 しかし、現在の保育園の「最低基準」ですら、国際的にみても不十分だと指摘されているものです。その水準さえも引き下げようとすることは、保育の質をいっそう低下させる重大な問題です。

 また、絵画教室や音楽教室、園児の送り迎えなどの独自サービスを実施した場合、利用者から追加料金を徴収できることを、周知徹底するよう求めています。保護者が追加料金を支払える子だけが選択肢が広がるというもので、家庭が払えるお金によって、子どもが受ける保育に格差を生むことになります。 (つづく)

2006年8月17日(木)「しんぶん赤旗」


5 企業参入、各地で弊害

 規制改革・民間開放推進会議の中間答申は「認定こども園」について、「より多くの施設が認定を受け、利用者、事業者の双方が活用しやすい制度となるよう必要に応じて国の指針を見直すべき」だとしています。

 「認定こども園」は、「教育・保育を一体的に提供する」「子育て支援をおこなう」という二つの条件を満たした施設が、都道府県知事の認定を受けます。「認定こども園」制度をつくる法律は六月に国会で成立(日本共産党は反対)し、十月から施行されます。

 認定の条件は、国の基準を参考にして都道府県が定めます。既存施設からの移行を容易にするため調理室や園庭はなくてもよいなど、認可保育園の水準が引き下げられることが予想されます。また、希望する施設に直接入園を申し込む形になるとともに、保育料は施設が自由に設定できます。

 まさに、財界が求める規制緩和を先取りしたものです。「認定こども園」を企業参入の突破口とし、認可保育園の制度を崩すことが狙いです。

 中間答申は、民間企業の参入促進の目的に「保育園の待機児童の解消」を掲げています。

 しかし、企業が保育園を運営する弊害は、すでに各地で表れています。兵庫県神戸市では、株式会社経営の認可保育園「すくすく保育園」が、約五十人の園児を抱えたまま今年三月に廃園しました。経営難が理由でした。二〇〇一年に東京・池袋では、企業が経営する無認可の「ちびっこ園」で、園児の詰め込みが原因で四カ月の子がベッドで窒息死する事件も起こりました。

 経営がうまく行かなくなれば撤退する。コストを削って、安全や保育の質を低下させる――。保育をもうけの場にすることを狙う中間答申の方向は、よりよい保育を求める父母や関係者の願いにこたえるものではありません。 (おわり)

 (この連載は秋野幸子が担当しました)

2006年8月19日(土)「しんぶん赤旗」

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