2003年9月4日「しんぶん赤旗」

メキシコ・チアパス州 先住民女性

二重の苦しみのなかで生きる
協力しあえる仲間作り ゆっくりと

 「写真を撮っていいからお金ちょうだい」「この人形を買って。五ペソ(約六十円)でいいから」―。

 メキシコ最南端の州、チアパス州。百年前まで州都だったサンクリストバルデラスカサス(以下サンクリストバル)では、赤い糸で刺しゅうした白いブラウスに黒い巻きスカートを身につけた先住民女性やその子どもたちが、一日中みやげ物を売っていました。

恩恵は素通り

 チアパス州にはツエタル、ツォツィル、チョル、ソケ、トラバルなどの先住民が住んでいます。その71%は土がむき出しの床の家に住み、二人に一人は公用語のスペイン語の読み書きができません。

 石油、木材、コーヒー、家畜、トウモロコシ…。チアパス州はメキシコでも特に豊かな資源をもっているにもかかわらず、その恩恵は先住民の手元を素通りしてしまいます。教育面でも、小学校が村にあっても、多くは小学校三年までしかなく、授業も週に三回程度しかありません。

虐げられる女性

 「先住民社会のなかで、さらに虐げられているのは女性です」とラテンアメリカ女性調査行動センター(CIAM)所長のグラディス・マルディアさん。CIAMは、チアパス州で、先住民女性の意識の向上をはかり、民芸品の販売などを通して地域の発展を促している市民グループです。

 先住民社会では祭礼や儀式などで必ずボシュ(サトウキビで作った自家製焼酎)を飲みますが、男性の多くはアルコール依存症に陥っており、女性は父親や夫からの暴力にさらされています。

 「女性や子どもが民芸品やコーヒーを売った日の夜は、町の酒場はいっぱいになります。政府から子どもへの奨学金を酒代にする父親もいます。活動を妨害する最大の敵はアルコールです」とマルディアさん。

 家父長制の根強い先住民社会では、女の子は幼いときから家事手伝い、子守をさせられます。十三歳から十七歳で親の決めた相手と結婚し、四十歳ぐらいまでに五人以上の子どもを産みます。

 マルディアさんは「いつ、だれと結婚するか、子どもを何人持つかを決める権利は女性にはありません。結婚したら、石けん一つ買うのも、コーヒーをいつ売るのかさえも夫に従わなければならないのです」と唇をかみます。下痢や風邪など、本来なら治せるはずの病気で死んでしまう子もいます。

社会からも排除

 サンクリストバルで先住民の織物の共同作業所の運営に携わっているルシア・メンデスさんは、「貧困のために村から町に出てきた先住民女性もいますが、最初に経験するのは差別です。コレート(サンクリストバルの非先住民住民)の店に何かを買いに行くと、いやな顔をされたり、追い出されたりするのです。彼女たちの多くは、スペイン語は理解できたとしてもうまく話せないので余計に差別されます」と話します。

 村から出てきた女性の多くは「ムチャーチャ」(女の子の意味。メキシコではお手伝いさんを指す)になります。メンデスさんは、「寝る場所と食事(粗末なもの)を与えているからといって給料を払わない家もあります。アイロンが使えない、洗濯機が使えないといってはセニョーラ(奥様)から殴られる先住民女性も多い」と語ります。

 社会からは排除され、忘れられ、先住民社会では男性に尽くすよう強いられ、一人前の人間として尊重されずに生きてきた先住民女性…。その先住民女性の意識を高め、連帯の輪を築くのは容易ではありません。「だから私たちの活動のプロセスも非常にゆっくりです」とマルディアさんは強調します。

 「まずはプログラムを通じて、女性に自分にも能力や権利があることに気づいてもらい、言いたいことを自分の口で表現できるようになってもらうことが大切です。やりたいことが見つかったら支援していきます。最近、活動のなかでようやく、村のほかの女性がどんなことを考え、何で困っているのかに関心を持つ女性が出てきました。これはすごい前進です。そうなって初めて村のなかで協力しあえる仲間を作れるのですからね」

 マルディアさんはそう言って、にっこりと微笑みました。

(メキシコ市在住 菅原久仁栄)

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