日本共産党

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律案の修正案について

2004年3月29日            
日本共産党国会議員団 環境部会


修正案の発表にあたって

1. 生物多様性の確保は人類生存の基盤をなすものといわれ、外来生物問題は、生物多様性確保の主要な障害の一つとなっています。このため、生物多様性条約は締約国に対して「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」を求めています。日本は、世界最大の野生動物輸入国であり、生物多様性の確保を図ることは国際的な責務です。

2. すでに国内には多数の外来生物が導入され、マングースによるアマミノクロウサギの捕食、ブラックバスによる淡水魚の捕食、タイワンザルとニホンザルとの交雑など、在来生物の生態系への被害が起こっています。しかも、日本には年間5億匹を超える生きた動物(家畜等を除く)が輸入されており、そのほとんどは、種類や用途も明らかになっていません。国内には、外来生物による生態系の被害を未然に防止する制度はなく、このままでは、被害の拡大、深刻化が予想されます。

3. 政府案は、生態系等に被害を及ぼすおそれがある生物を特定外来生物に指定し、輸入や飼育などを原則として禁止するものです。また、被害のおそれが疑われる生物を未判定外来生物に指定し、輸入届けの際に、有害性を確認することにしています。

しかし、政府案には外来生物による被害を確実に防止する上で、いくつか問題点があります。

@ 環境大臣の責任があいまいで、外来生物による被害防止対策の基本原則が定められていないため、生態系の被害防止という本来の目的が不明確になっています。

 修正案は、生態系への被害防止の目的を明確にして、主務大臣は環境大臣とします。また、予防原則の適用などの基本原則を定めます。

A 外来生物による被害を科学的に検討する仕組みがないため、外来生物の指定がなかなか進まず、多くの外来生物が野放しになるおそれがあります。

 修正案は、外来生物審査委員会を設置し、特定外来生物の指定などが科学的な調査検討に基づいて行われるようにします。

B 未判定外来生物の審査期間が6ヶ月しかないため、疑わしいものでも輸入・販売・飼育等が自由となってしまうことが懸念されます。

 修正案は、未判定外来生物の輸入届けに生態系への影響の資料を添付させるとともに、無害性が確認されないものは、不特定多数への販売禁止など、厳格な管理を行うこととします。

C 導入された外来生物の状況把握や、外来生物を取扱う者の責任が不明確で、被害の早期発見や早期対策に遅れを招くことが心配されます。

 修正案は、管理や販売などの状況をきちんと報告させるとともに、万一外部に漏れた場合の被害防止措置などを義務付けます。また、将来の被害対策にあてるため、外来生物の輸入・販売業者等に一定の拠出金を求めます。

D 特定外来生物の防除について、きちんとした計画がなく、鳥獣保護法の適用除外によって、無秩序な捕獲が拡大するおそれが指摘されています。

 修正案は、防除計画を定めるとともに、民間などの防除について鳥獣保護法なみの措置がとれるようにします。また、地域に特有の問題に対処するため、都道府県による被害防止の仕組みを設けます。

E その他、輸入貨物への付着などによる侵入対策、在来生物による被害防止措置の検討の規定を設けます。


修正案の概要

1. 外来生物による最大の問題は生物多様性への被害です。そこに焦点を定めた法律とするべきです。

@ 生態系被害の防止の目的を明確にし、主務大臣は環境大臣とします。

A 有害性の完全な確証がなくても疑わしいものには対策を講ずるという「予防原則」を適用するなど、外来生物対策を実施する際の基本原則を定めます。

2. 外来生物の被害防止は、まず導入させないことが第一です。そのため、外来生物による影響を科学的に調査して規制の対象生物をきちんと指定し、輸入などを規制することが根本です。

@科学的な評価に基づいた対策を実施するため、「外来生物審査委員会」を設置し、その意見に基づいて、外来生物対策を進める仕組みをつくります。審査委員会は、外来生物による被害について調査するとともに、基本方針や、規制対象となる生物の指定、有害性の判定、防除計画などについて調査・審議し、環境大臣に意見を述べます。

A未判定外来生物は、疑いが不明確な生物も指定対象にします。また、被害のおそれがないことが確認されない限り、無害通知をしてはならないこととします。

3. 第二に重要なことは、導入された外来生物を環境に出さないこと、万一被害のおそれが生ずるような場合には、早期に発見し、早期に被害防止の対策を講ずることです。そのため、外来生物を取り扱う者の責任を明確にし、飼育等の状況を把握し、トレーサビリティを確立することが必要です。

B無害であることが確認されなかった未判定外来生物については、不特定多数者への販売を禁止します。また、環境に放出しないこと、特定地域に持ち込まないこと、販売等を届け出ることなどを義務付けます。将来、有害性が判明したときは、管理者に処分等を義務付けます。

C外来生物を取り扱う者の責任を明確にするため、未判定外来生物の輸入届けには、生態系に及ぼす影響についての資料をつけさせます。

 また、外来生物(無害と確認されたものを除く)を業として取り扱う者には、管理状況等を定期的に報告させ、万一環境に出た場合の届出や、回収等の被害防止措置を義務付けます。

D将来の被害防止対策にあてるため、外来生物の輸入・販売業者に一定の拠出金を求めます。

4. 被害防止の第三は、外来生物による被害の防除です。ただやみくもに捕獲するだけでは、被害を防除できません。生態系の科学的な調査に基づいた計画の策定や防除の実施が必要です。

E防除は、被害を受けた生態系や種の回復が目的であることを明確にし、防除計画を定めます。計画には、生物名、区域や期間、防除内容や方法等のほか、モニタリング調査なども盛り込みます。

F防除に伴って、在来生物が混獲等の被害を受けることがないよう、防除計画に在来生物保全対策を定めるとともに、民間などの防除について鳥獣保護法なみの措置がとられるようにします。

G被害の状況は地域により異なるため、都道府県が被害防止計画を定めて、外来生物の持込規制や防除措置を講ずることができるようにします。

5. 意図しない外来生物の侵入防止、在来生物による生態系被害の防止

H輸入貨物への付着など、人が意図しない外来生物の侵入については、体制を整備して侵入経路を調査し、判明した場合には輸入業者や運送業者に侵入防止の措置をもとめることとします。

I在来生物による生態系への被害については、実態を調査し、対策を検討します。


修正案要綱

総則について

1. 被害の防止対象を生態系に係る被害とし、主務大臣は環境大臣とする。

2. 特定外来生物は、外来生物審査委員会(後述)の意見に基づいて、環境省令で指定する。

3. 外来生物被害防止について、基本原則を定める。

@予防原則の適用、A脆弱な生態系・種の保全を基準とする、B多数・反復導入の考慮、C相乗被害の考慮

特定外来生物の取扱いについて

4. 特定外来生物の飼養等をするものは、管理の状況、譲り渡しの状況等を毎年環境大臣に報告しなければならない。

5. 特定外来生物の飼養等をするものは、特定外来生物が特定飼養等施設の外に漏れた場合には、届け出るとともに、回収などの被害防止措置を講じなければならないこととする。

環境大臣は、構ずべき措置を命ずることができる。

特定外来生物の防除

6. 審査委員会の議を経て、防除計画を定める。

7. 防除計画は、外来生物により被害を受けた生態系・種の回復を目的とする

防除計画には、生物名、地域や期間、防除の内容や方法等のほか、防除による在来生物への被害の防止、防除の効果測定・モニタリング調査についても定める。

8. 確認・認定について、鳥獣保護法に準拠した条件をつける。

9. 都道府県が、外来生物(国内在来生物を含む)による地域内の生物多様性への被害防止計画を定め、実施することができる規定を設ける。

未判定外来生物

10. 指定の対象に、被害の有無についての知見がないものを含められるようにする。

11. 未判定外来生物の届出には、当該生物が生態系に及ぼす影響についての資料を添付しなければならない。

12. 未判定外来生物について、無害性を確認できた場合でなければ、生態系等にかかる被害を及ぼすおそれがあるものではないとの通知をしてはならない。

13. 6ヶ月以内に、無害性が確認できない場合は、その旨通知し、公表する。

@ その場合、不特定多数への販売目的での輸入・飼養等は禁止する。

A 無害性を確認できない旨の通知をされた生物(繁殖個体を含む)の飼養等を行う者に、不特定多数に販売しないこと、放出しないこと、特定地域に持ち込まないこと、毎年管理状況を報告すること、譲渡しを届けることを義務付ける。

 外に漏れた場合には、届け出るとともに、回収などの被害防止措置を講じなければならない。

B 無害性を確認できない旨通知された生物について、有害性が確認された場合は速やかに特定外来生物に指定し、その旨届出者に通知する。通知を受けた場合は、特定外来生物の飼養等の許可を受けた場合を除き、当該生物につき適正な処置をしなければならない。環境大臣は、輸入業者・販売業者に回収などの被害防止措置をとるよう求めることができる。

 無害性が確認された場合は、その旨、届出者に通知し、公表する。

外来生物審査委員会

14. 生物多様性に対する被害について、科学的に審査する「外来生物審査委員会」を設置する。

委員は環境大臣が学識経験者から任命する。委員会は、特定の生物について審査するための専門委員を選任できる。委員会には事務局を設ける。

15. 審査委員会は、外来生物による生物多様性に対するの被害状況、基本方針、特定外来生物の指定、未判定外来生物の指定、届出された未判定外来生物の判定、防除計画の立案、防除計画の実施状況の評価、その他外来生物による被害防止のための施策について調査審議し、環境大臣に意見を述べる。

その他

16. 外来生物による生物多様性への被害を防止する費用の一部にあてるため、外来生物の輸入・販売業者に拠出金を求めることができる。

17. 非意図的な外来生物の侵入を防止するため、その経路や被害の状況を調査し、生物多様性の確保に被害を及ぼすおそれがある時は、運送業者、輸入業者等に対して侵入防止のための措置を求めることができる。

18. 在来生物による生物多様性への被害を防止する措置を検討する。


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