2007年1月11日(木)「しんぶん赤旗」

主張

旧日本軍遺棄毒ガス

政府は誠実に補償に応じよ


 六十年以上も前に旧日本軍が遺棄した毒ガスで被害を受けた中国の人たちが、日本政府に謝罪と補償を求め裁判を起こしています。

 今回新たに東京地裁に提訴するのは、黒竜江省チチハル市で二〇〇三年八月に被毒事故にあった負傷者四十三人と死亡した一人の遺族です。

「処理済み」というが

 中国への侵略戦争で、日本軍は当時の国際法でも使用が禁止されていた毒ガス兵器を大量に持ち込み、実戦に使って、多くの人を殺しました。一九四五年八月の終戦時、日本軍は事実を隠すために、組織的に毒ガスを河川や沼に流したり、地中に埋めるなどして日本に帰りました。

 遺棄されたのはびらん性のイペリット・ルイサイトなどの猛毒です。中国政府は遺棄された毒ガス等の化学兵器は二百万発にのぼると推計し、日本政府も九六年の調査から七十万発と推定しています。

 このおびただしい量の毒ガスが、いまも中国の人たちの命を奪い、被害を生んでいます。チチハルの事故の後も、〇四年に吉林省で、〇五年には広州で新たな事故が起きています。この問題は、過去のことでも、解決済みの問題でもありません。

 日本政府は、九五年に批准した化学兵器禁止条約にもとづき、〇七年までにこのガス弾を無毒化して廃棄する義務を負っています。しかし、いま起きている被毒事故の被害者にたいして、日本政府は謝罪も補償もおこなっていません。

 一九七二年の日中共同声明によって、第二次世界大戦にかかわる日中間の請求権の問題は「処理済み」だというのがその最大の論拠です。

 国と国との関係で、相手国の政府が補償を請求する権利が存在しなくなったからといって、被害を受けた中国の国民がほったらかしにされていいはずはありません。

 日本共産党は国会で、遺棄化学兵器による被害は、日本が条約上の責任を負っている廃棄処理が遅れたなかで起きた事故であり、日本政府に救済責任がないという立場に立つことはできないと主張。過去の誤りを清算するためにも、政府が自発的に賠償に応じるよう求めてきました。

 遺棄毒ガス兵器の被害者が日本政府に賠償を求める裁判は、すでにハルビン・牡丹江地区とチチハル地区の二件が東京高裁で係争中です。一審の東京地裁では、いずれも原告の被害事実を認めたものの、国の責任について司法の判断は分かれました。

 提訴した中国の人たちの願いは、新たな被害を生まないために遺棄毒ガス兵器の一刻も早い廃棄の実現と、被害者たちが安心した毎日をおくれるよう医療・生活支援など人道的支援を行うことです。

 旧日本軍の毒ガスで人生を破壊された人たちの当然の願いに、日本政府はまっすぐ向き合うべきです。

歴史認識の共有を

 遺棄毒ガス問題は、日本の中国侵略の傷跡がいまも大きく残されているという問題です。

 ある自民党衆院議員は右翼論壇に「“媚中(びちゅう)”外交の毒が回った毒ガス訴訟判決の不正義」という論文を発表し、民主党衆院議員も外務委員会で「あの遺棄兵器はでっち上げ」「対中関係に関しては、単に自虐的でない外交を」と主張して、問題の解決に立ちはだかっています。

 安倍首相は昨年の訪中で、日中関係の改善を合意しました。歴史認識の基本を共有し、戦後補償に誠実に取り組むことなしに、中国やアジアの諸国と前向きな関係を築くことはできません。


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