2006年12月25日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

川清ければ魚も人も生き生き


 きれいな水の流れ・清流が見直されています。きれいな水は、山や森にはぐくまれ、自然や農地、市街地、海へと循環し、人々に食料とうるおいをもたらします。その清流を守る取り組みを、高知県と北海道からお伝えします。


もっとアユ保護区がカギ

四万十川

地図

 日本最後の清流、四国西南の四万十川(しまんとがわ)で、この川をアユがもっと上ってくる川にと努力している人たちがいます。

1913トンが…

 以前は「アユが石からわいてくる」といわれたこの川のアユの漁獲量は一九八一年には千九百十三トンでした。それが二〇〇三年には六十四トンまで減りました。

 なぜ、アユが減ったのか。川漁師の伊与木一男さん(60)=高知県四万十市=は、川の中の石に土がついて産卵環境が悪くなっていることをあげます。「山が間伐されずに荒れて、雨が降ったら土がそのまま川に流れ込むからだ」

 四万十市の市民グループ「杜(もり)を育てる会」は、四万十川上流の同県檮原(ゆすはら)町の中越武義町長の呼びかけに応じ、同町の山でケヤキ、コナラ、トチノキなどの植林(〇一年から)に参加したり、四万十川下流の山での間伐(〇四年から)に参加したりしています。

 「美しい、アユがたくさんいる川にしたいという思いです。植林には四万十川中央漁業協同組合の人も参加しています」と代表の川村祐子さん。

「12月生まれ」圧倒

 たかはし河川生物調査事務所(同県香南市)の高橋勇夫さんは、別の視点から、なぜ減ったのかを説明します。

 (1)九六年、四万十川で十一月に生まれ土佐湾に下った天然アユの稚魚が海の水温が上がったことが一因となってたくさん死んだ(2)このころから春に遡上(そじょう)する天然アユは十二月生まれが圧倒的になってきたが、落ちアユの禁漁期は九九年までは十月十六日から十一月十五日までだったので、アユの親と稚魚を守るための禁漁があまり意味を持たなくなっていた…。

 この変化に対応した対策が始まっています。

 「〇四年に、四万十川の産卵場のある区域を担当する四万十川中央漁業協同組合(約三百五十人。岡山静夫組合長)が呼びかけて、落ちアユ漁(十二月一日から一月三十一日まで)を自主禁漁にしました。その結果、昨年は二百トンほどの漁獲がありました」と、四万十市役所農林水産課水産振興係長の宮本昌博さん。

 同漁協理事の窪田幸さんは「組合は捕るだけでなく残すことを考えなくてはいけません。今年も落ちアユ漁の解禁から一週間、千平方メートル、二千平方メートルの保護区をつくりました」「僕は、漁師が入らない通年の保護区を何カ所かつくろうと提案している」といいます。

アユが川の掃除

 前出の高橋さんは、いいます。「アユの年間漁獲量が千トンの規模に戻ればアユが再生するいい循環になります。川の中の石についたコケをアユが食(は)むことで泥も除かれ、川はもっときれいになります。アユが川を掃除してくれるのです」(藤原義一)


 【四万十川】

 四国最長の大河。一級河川。高知県津野町の不入山(いらずやま、標高一三三六メートル)の東斜面に源を発し、主な支流三十五、支流総数三百十八、四国西南地域を大きく蛇行しながら、落差のない流れとなって、四万十市下田で太平洋に注ぎます。幹線流路延長百九十六キロメートル。


“地域の宝”100年先見すえ

後志利別川

地図

清流日本一9回

 北海道南部(道南)を流れる後志利別川(しりべしとしべつがわ)は、一九八七年(発表は八八年)に始まった全国清流ランキング(国土交通省)で、九回も日本一に輝いています。守る運動を続けている私たちにとって非常に光栄なことです。

 利別川が清流ランキングで初めて日本一になったとき、「この地域のものが日本一になるなんてめったにないぞ」と、流域の三町と地域に呼びかけ、八八年に「後志利別川清流保護の会」を結成しました。以前は「川といえばゴミ捨て場」といった習慣もあり、年に一度の河川清掃から始めました。

 利別川の水がどうなっているか見学会もやりました。子どもたちや老人クラブのお年寄りを対象に、ダムや水門、四カ所ある排水ポンプ施設などを見て回りました。

 後志利別川は、今金町、旧北檜山町(せたな町と合併)、せたな町を流れ日本海に注ぎます。

 この地域は、道内でも気候が温順で、土壌も肥沃(ひよく)で、米や男爵イモの栽培など農業も盛んです。

 この川には、サケ、サクラマス、アユ、アメマス、ヤマメ、エゾウグイなど清流にすむ魚類はたいてい生息しています。

創意工夫こらし

 保護の会の会員は、いま百二十人です。保育園児によるサケの稚魚の放流や、川を知ってもらうカヌー川下り、年に二回の子どもを対象にした体験学習(専門家を呼び水生生物の調査)、ヤマメ釣り大会など、会員の創意工夫で、いろいろな取り組みを続けています。

 流域の81%は山地、農地が14%、市街地が5%です。この川がきれいなのは、工場や流域人口が少なく汚濁源が少ない、小さな町でも下水道が普及している、川底が砂利や岩石くずで汚れにくい―などが考えられます。加えて私たちの運動も生きているのです。

 ことし九月の一級河川清流ランキングでは、九回目の日本一になりました。日本一の九回獲得はこの川だけです。

 会は、二〇〇二年にNPO法人になりました。川を守るためには山や森を守ろうと、〇二年から、自治体、地域ぐるみで植林を続け、会だけで、五年間に千九百本のブナを植えています。

 この仕事は地味で、効果があらわれるのは七十年―百年も先のことです。しかし、だれかがやらなければなりません。

 水は地域の宝です。その水が米、男爵イモなどのおいしい農産物、きれいな海をつくるのです。川や海、木や森や自然のつながりを大事にし、とくに子どもたちにきれいな水の大切さを伝え、川と自然を将来に残していきたいと思っています。(秋元壽・後志利別川清流保護の会理事長)


 【後志利別川】

 後志利別川は一級河川で、本流の延長は約八十キロ、流域人口は約一万六千人です。名前の「後志(しりべし)」は、明治初期に定めた北海道十一国の一つで、現在の後志管内と三町がある檜山管内北部を含んでいました。


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