2006年9月29日(金)「しんぶん赤旗」

「教育改革」

安倍首相が狙うもの


 安倍晋三首相は二十六日の記者会見で「内閣に教育再生会議を発足させたい」と語りました。臨時国会で教育基本法改悪法案を成立させたうえで「教育改革」を断行しようという狙いです。安倍首相が公立小中学校への導入を唱えているのが(1)学校選択制(2)学校評価制(3)教育バウチャー制の「三点セット」。教育をどう変えようというのでしょうか。(北村隆志)


学校選択 序列化と競争まねく

 総裁選以来の安倍氏の発言について金子元久・東大教育学部長は「前は教育が大事だと言うだけだったのに、急に学校選択制を言い出した。教育基本法の改定は一つのシンボルですが、これから学校選択と教育バウチャー制が政治的争点になってくると思います」と言います。

 学校選択制について教育学者は一致して「学校の序列化を招く」と批判してきました。高校や大学の現状が何よりの証拠と警告します。

 東京都では二十三区中十九区が学校選択制を導入した結果、「進学実績のある伝統校」「施設のよい学校」が選ばれ、「荒れのうわさのある学校」「小規模校」が敬遠されています。品川区や荒川区、墨田区では入学者ゼロの小中学校が出ています。

 江東区でも入学者が七人という小学校が生まれました。「保育園のお友だちは頭のいい(隣の)学校に行った」と話す子どももいます。別の学校では「学力向上」のため小学一年生から毎日六時間授業をおこない、保護者から「やりすぎでは」の声があがっています。

 品川区や杉並区の実情を調査した嶺井正也専修大学教授は「選ばれる学校、選ばれない学校が固定化しつつある」と指摘します(共著『選ばれる学校・選ばれない学校』)。教師は学校の特色作りや保護者への宣伝活動のため多忙化しました。

 こうした弊害のため「過度の競争をまねき学校間の格差・差別化を進める可能性がある」(仙台市)として導入を見送る自治体もあります。

 東京都世田谷区も昨年決定した教育ビジョンで「すべての区立小学校・中学校の質を高め、信頼を獲得しなくてはならない」として、競争原理による学校選択制を否定しました。教育委員会の担当者は「十年は導入しない」と断言します。

学校評価 国による監視と統制

 安倍首相は政権公約にも「学校、教師の評価制度の導入」と明記しました。

 藤田英典国際基督教大学教授は、第三者機関による「客観的」評価は「学校を序列づけることになる……レッテル張りの基盤にもなり、学校間の競争を引き起こすことにもなる」と批判します(『義務教育を問いなおす』)。

 現在多くの学校で行われているのは、教職員や保護者・PTAなど当事者(「当該の学校がよくなければ困る人たち」)による評価で、これは学校改善に役立つと藤田氏は評価します。

 しかし、安倍首相の主張は学校を上から徹底的に締め上げて、国家による監視と統制をおこなうというものです。学校の当事者による自主的主体的評価とはまったく異なります。

 安倍首相がモデルとするイギリスのサッチャー改革では、一九九二年に教育水準局をつくって学校を定期的に監査し結果を公表しました。それにより以前は年間三千人程度だった退学者が、監査が始まった翌年は一万二千人に急増。評価結果を引き下げるような問題のある生徒を学校が退学にしたためでした。

 その結果、義務教育を修了できない子が8%にのぼりました。イギリスでニートが問題になったのも、学校教育から排除された青年の存在が大きいと言われます。

バウチャー 学校を予算で差別

 学校を予算で差別するのが教育バウチャー制です。

 この制度のポイントは予算を生徒数に応じて配分するところにあります。私立にも生徒一人あたり公立と同じ予算を配分します。例えば一学年五十人の学校と八十人の学校があるとすると、現在は学級数をもとに予算配分するので四十人学級ならどちらも二クラスで予算はほぼ同じです。しかし、生徒数を配分基準にすれば大きな差がつきます。

 バウチャー制では学校選択制で人気のない学校や、過疎地の学校は生徒が減った分だけ予算が減ることになります。佐貫浩法政大教授は「学校選択による生徒の増減は、いっそう急激な予算配分格差となって、学校格差をさらに拡大することになるだろう。もはやこれは懲罰的な予算配分に近づく」と告発します(『教育基本法「改正」に抗して』)。

 文部科学省の教育バウチャーに関する研究会に参加する金子元久東大教育学部長は「私立と公立で教育の質自体に差が出てきます。私立に行けるのはバウチャー分に足して授業料を払える家庭の子です。その分だけ私立はお金をかけた教育ができる。社会的格差が広がって、問題のある家庭の子と公立で一緒に勉強したくない子が、私立に逃げ出すのが簡単になります」と危ぐします。

 格差対策という安倍首相の主張は事実とまったく逆です。

 生徒一人あたりの予算が同じなら、少子化がすすめば予算総額を減らすことができます。教育予算削減が狙いだとみる研究者もいます。


学校選択制

 公教育、公立学校の再生が必要だ。学校や先生、教師を評価する仕組みを考えていかなければならない。子どもたち、父母が学校を選べる仕組みの導入も必要だ。(九日、自民党本部での総裁選立ち会い演説会で)

学校評価制

 ぜひ実施したいと思っているのは、サッチャー改革がおこなったような学校評価制度の導入である。学力ばかりでなく、学校の管理運営、生徒指導の状況などを国の監査官が評価する仕組みだ。問題校には、文科相が教職員の入れ替えや、民営への移管を命じることができるようにする。(『美しい国へ』)

バウチャー制

 格差が固定されないようにする…その対策のひとつとして期待されるのが教育バウチャー制度である。バウチャーとは、英語でクーポン券のようなもののことをいう。(『美しい国へ』)


財界提言に“うり二つ”

 安倍首相の主張とうり二つの文書があります。四月十八日に日本経団連が発表した「義務教育改革についての提言」です。(1)学校選択制の全国的導入(2)学校評価(含教員評価)(3)教育の受け手の選択を反映した学校への予算配分(教育バウチャー制)を求めています。

 政府の規制改革・民間開放推進会議(当時の議長・宮内義彦オリックス会長)も七月三十一日の中間答申でまったく同じ要求を掲げました。(図参照)

図

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