2006年9月21日(木)「しんぶん赤旗」

主張

自民総裁選開票

安倍氏「翼賛」が矛盾広げる


 自民党の新総裁に、事前の予想どおり、安倍晋三官房長官が二位の麻生太郎外相、三位の谷垣禎一財務相に大差をつけて、選ばれました。安倍氏の得票は目標とした七割には届かなかったものの、三分の二を占めました。半面、投票資格を持つ自民党員は約百六万人と前回二〇〇三年の総裁選より二割以上も減り、実際の投票率も61%にとどまりました。

政策より「人気」優先

 安倍氏は総裁選の公約でも、「新しい時代を切り開く日本にふさわしい憲法の制定」や「戦後レジーム(体制)」からの船出を掲げた、自民党内で屈指のタカ派です。侵略戦争や植民地支配への反省を「自虐史観」と攻撃し、憲法や教育基本法を「占領時代の残滓(ざんし)」と全面否定する、反動的な歴史観の持ち主です。

 こうした安倍氏を自民党が新しい総裁に選んだのは、自民党そのものが改憲タカ派路線に踏み込むことを示したものです。同時に、総裁選の結果は安倍氏の勝利ですが、その結果は必ずしも、安倍氏の主張が全面的に支持されたものと見ることもできません。

 もともと安倍氏は、谷垣氏が所属する谷垣派や麻生氏が所属する河野派以外の、自民党内のほとんどの派閥から支持されており、当選は約束されていたのも同然でした。安倍氏の外交路線に距離をおく派閥を含め、「翼賛」的に安倍氏を支持したのは、安倍氏の「政策」よりも国民受けが優先された結果です。

 安倍氏自身、総裁選での論戦ではあえて態度を明確にしない、「あいまい」を売り物にしました。安倍氏への支持が盛り上がりを欠いたことは、安倍陣営が「圧勝」の目標とした七割に届かなかったことが如実に物語っています。

 自民党内でさえこんな状態ですから、安倍氏の主張と、国民が求める政治との乖離(かいり)はより明白です。

 総裁選中にマスメディアが行った世論調査では、国民が次の首相に期待した政策は、「年金・福祉」(「朝日」調査では48%)や「財政再建」(同17%)「格差是正」(同10%)が上位を占めます。安倍氏が第一に掲げる「憲法」はわずか2%(同)にすぎません。改憲は国民の要求ではなく、アメリカの注文に応えたものです。

 連日のように総裁選報道に明け暮れたマスメディアの特集番組も、おしなべて視聴率は低く、街頭での総裁候補の演説にも足を止める人はそれほど多くはなかったことなど、総裁選そのものの低調さにも、国民との乖離が反映しています。

 総裁選を通じて、安倍氏をはじめどの総裁候補も、増税や負担増に対する国民の悲鳴や年金や福祉の不安にどう答えるのか、小泉政治が深刻化させた財政破たんや格差の拡大をどう解決するのか、処方せんを示せていません。安倍氏が持論を貫こうとすれば、国民はもちろん、自民党内でも矛盾を深めることになるのは、火を見るよりも明らかでしょう。

新政権に広がる懸念の声

 国内だけでなく海外でも、安倍氏への懸念が広がっています。とりわけ安倍氏の歴史認識への警戒感が、アジアや欧米の政界関係者やマスメディアに急速に広がっています。

 自民党総裁選に勝利した安倍氏を、与党の自民党や公明党は臨時国会冒頭の首相指名で首相に担ぎ出すことになります。しかし、たとえ首相に選ばれても、安倍氏はもちろん、総裁選で「翼賛」的に安倍氏を支持した自民党も、国民との矛盾、平和の国際秩序を求める世界の流れとの矛盾を、免れることはありません。


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