2006年9月17日(日)「しんぶん赤旗」

主張

再チャレンジ

格差社会に”免罪符”はない


 自民党総裁選で安倍官房長官は「再チャレンジできる社会の実現」を経済政策の柱に掲げ、「努力した者が報われ、勝ち組、負け組が固定しない社会」をとのべています。

 あえて「再」チャレンジと、挑戦の繰り返しをテーマとし、勝ち組・負け組の固定化を取り上げざるを得ないことそのものが、格差社会の深刻な実態を示しています。

構造改革の道具立て

 総裁選投票を前に竹中総務相・参院議員が辞職を表明しました。格差を是正する所得再分配を「集団的なたかり」と切り捨てる竹中氏は、小泉「改革」の象徴であり、格差社会のゆがみを押し広げた張本人です。

 次の政権にとっては、格差問題への国民の厳しい視線をかわすために、竹中氏が姿を隠す方が好都合なのかもしれません。それでも安倍氏が、格差問題の根源にメスを入れるどころか、財界の要求に合わせて弱肉強食の構造改革をいっそう進めようとしていることは隠せません。

 「再チャレンジできる社会」というのは、もともと竹中氏と小泉「改革」、何より財界の主張です。

 消費税を増税し福祉を削減、非正規雇用を拡大する一方で、大企業は減税する身勝手な構造改革を求めた「奥田ビジョン」(二〇〇三年)で、日本経団連の奥田碩会長(当時)がのべています。「結果は、選択した本人がきちんと受け止める。たとえ失敗したとしても、再挑戦を可能にする社会としていく」。経団連現会長の御手洗冨士夫キヤノン会長も語っています。「格差は問題というよりも経済活力の源」「必要な手当ては、残念ながら競争に敗れた者に対して、再挑戦の機会が与えられるということ」(八月の講演)

 財界の方針によって格差と貧困が拡大しているのに、「『負け組』は本人の責任だ」「何度でも挑戦すればいいではないか」と責任を犠牲者になすりつける卑劣な論法です。財界仕込みの「再チャレンジできる社会」とは、悪政の結果を個人の自己責任に押し付けて国民の批判を封じ、構造改革を推進するための道具立てにほかなりません。

 「再チャレンジ」は「セーフティーネット(安全網)ではない」と安倍氏は言い切っています。その具体的な内容も看板倒れです。

 安倍氏が六月に取りまとめた「再チャレンジ推進会議」の中間報告は、採用年齢の引き上げや公務員の中途採用の拡大、再就職支援などを掲げています。

 派遣や契約など非正規雇用を急増させた規制緩和を是正せず、正社員を非正規雇用に置き換えてきた大企業の行動に切り込む姿勢もなければ「絵に描いたもち」です。公務員の中途採用と言いますが、政府は公務員を大幅に減らす計画です。

 安倍氏は当初、「再チャレンジ」の目玉に正規・非正規雇用の「均衡処遇」を掲げていました。ところが七月末の懇談で経団連側から、政府は労使問題に介入するなと注文が付きました。総裁選政策では「均衡処遇」の言葉すら消え去っています。

弱肉強食の路線が

 安倍氏は低所得者ほど負担が重い消費税の増税に言及しています。十五日の記者会見で、医療を中心に社会保障費をもっと削減するとのべました。同日の討論会では、財界利権を増殖させてきた宮内(オリックス会長)委員会(規制改革会議)の継承を表明しています。

 弱肉強食の路線を強行するやり方がはっきりと浮かび上がっています。「再チャレンジ」は決して格差社会の“免罪符”にはなりません。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp