2006年9月5日(火)「しんぶん赤旗」

公共サービスが危ない

社保庁の不正免除問題

メス入らないノルマ主義

強まる「命令と服従」の労務管理


 国民年金保険料の納付率をアップさせるために申請もないのに納付を免除・猶予していた問題で社会保険庁は八月末、千七百五十二人を処分しました。社会保険にたいする信頼を揺るがせた事件の真相や再発防止策はどうなったのでしょうか。


 社会保険庁の報告書や第三者による検証委員会報告書では、「法令順守意識の不足」などを原因にあげて「チェック機能の強化」などを求めていますが、なぜ法令が守られなかったのかについては解明されていません。

現場の責任に

 今回の処分は、もっぱら現場の実行・監督責任に重きを置いた内容になっています。本庁について両報告書とも、「組織的関与はなかった」としているからです。

 しかし、検証委員会報告書で「不正に関する情報を得ていたのに適切な対応をしなかった」と指摘するなど、本庁の重大な責任は免れません。

 損保ジャパン元副社長の村瀬清司氏が長官に就いたのは〇四年七月。

 「言い訳は無用」「ただ実行し結果を出すことのみ」といって60%台の収納率を80%に引き上げるよう指示。「事務所グランプリ」と称するノルマ主義競争を持ちこみ、職員を夜討ち朝駆け・休日返上で納付率アップに追い立てました。各地で不正処理が始まったのはまさにこのころでした。

 「必達目標」とした収納率目標について社保庁は「各事務局が確認したもので合理的かつ実現可能なもの」「各事務所は目標達成に向け、前向きに取り組んでいた」と報告書で説明しています。

 しかし、検証委員会報告書は「事務所長や事務所の国民年金担当課長が重圧を感じていた」「目標の達成を図る中で、安易な不適正処理に走る可能性があった」と指摘。ノルマ主義を持ち込んで異常な競争に駆り立てた責任は隠しようがないのが実態です。

 ところが、厚労省・社保庁はノルマ主義はそのままにしたうえ、雇用不安をあおりながら「命令と服従」の労務管理を強めようとしています。

 社会保険庁は〇八年に組織が廃止され、「ねんきん事業機構」と「全国健康保険協会」に分離されます。国民には負担増と給付削減をもたらすものですが、職員の引き継ぎ規定がありません。

 「今回の処分を重視しつつ勤務成績に基づき厳正に判断する」と選別採用をねらっています。組織再編では職員を引き継ぐのが雇用のルールですが、これを政府自らが踏みにじるものです。

5段階の評価

 「民間企業的な人事制度」も全職員に導入します。収納率などを五段階で相対評価し、昇格や昇給に反映させます。係長職は年収で百五十三万円もの格差が生じます。

 国民にたいしても、徴収強化に乗り出します。

 未納者には短期の健康保険証しか渡さない▽保険料をカード払いに切り替えさせ、借金をしてでも払わせる―などの徴収対策を導入します。

 納付率低下は、「保険料が高い」「もらえる年金が少ない」など制度への不信や、「構造改革」路線によって貧困層や不安定雇用が増加していることが大きな原因です。二十五年間保険料を払い続けないと給付がまったく受けられず、四十年間納めても生活できるだけの年金がもらえない実態こそ改善すべきです。

 全厚生労働組合は「不適正な処理は許されないことは当然」としたうえで、年金制度の改善もせず収納率向上だけをはかる政府・社保庁の姿勢を批判。公務サービスをゆがめる「ノルマ主義」を改めるとともに、国民が安心して暮らせる年金制度をつくるため、全額国庫負担(一般財源)による「最低保障年金制度」の創設を求めています。


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