2006年9月4日(月)「しんぶん赤旗」

主張

五輪招致

理念も合意もない「東京」選定


 二〇一六年夏季五輪の国内立候補都市に東京都が選ばれました。しかし、この決定にはあまりにも問題が多すぎます。

 一番の問題は、東京都の招致目的がゆがんでいることです。石原知事は、「五輪を梃子(てこ)に都市と社会を変革する」として、東京湾の大開発、大型幹線道路整備など数兆円もかけた「首都大改造」を一気にすすめるねらいです。これでは都民の生活と福祉は置きざりにされ、都市環境も破壊されることになります。こんな巨大開発のための「五輪招致」が歓迎されるはずがありません。

国民世論の流れに背く

 財政危機にある福岡市の立候補は、「取り返しのつかない財政破たんをまねく安易な立候補だ」と、招致反対の市民運動が急速に盛り上がり、きびしく指弾されました。

 今回の決定は、国民世論の流れに背を向けています。

 東京都が提出した「開催概要計画」も問題です。「世界一コンパクトな大会」を目玉にしていますが、その中身といえば、「計画」を審査した日本オリンピック委員会(JOC)の評価委員もあきれるほど、ずさんなものでした。競技会場の設定、選手村や交通・輸送の整備など多くの点で、「国際基準にない」「予算がはっきりしない」と注文がつきました。

 このあいまいな「計画」で、招致経費だけで五十五億円も注ぎこむというのです。金にものをいわせるやり方は、国際オリンピック委員会(IOC)の「倫理規定」で戒められています。

 にもかかわらず、東京都が選ばれたのは、「知名度の高い大都市でなければ、世界では勝てない」との思惑からです。この「大都市」主義は、二〇〇三年に確認されたIOC基準「巨大化傾向を抑え、様々な国や都市のオリンピック開催への意欲を挫(くじ)かないようにする」に照らすなら、ごう慢な態度だといわなければなりません。

 オリンピックが他のアジアの都市や南米、アフリカなど“五大陸”にわたって開催できるようになることは、二十一世紀の発展方向です。国内でも「東京や日本にこだわらない」と考える人びとも少なくありません。それを無視して「大東京」を“売り”にする発想では、世界の支持を得られるとは思えません。

 本来、開催都市に立候補することは、スポーツを通じて「諸国民の相互理解を増進し世界平和と国際親善に貢献する」というオリンピックの目的を実現する意思を、住民と自治体とが一体となって表明することにあるはずです。その理念も合意も欠いているのが、東京都の立候補であり、今回の都市選定の経過でした。

 都民の総意もなく、大開発推進の上からの五輪招致は、本末が転倒しています。それを「政府も最大限協力する」(安倍晋三官房長官)というのですから、これからの招致運動の展開に非常な危うさを感じます。

石原都政の暴走許さず

 あらためて問われているのが、「五輪招致はこれでよいのか」という問題です。巨大開発にほんろうされるなら、オリンピックそのものも真価を発揮することはできません。この根本問題を多くの人びとが危ぐしているのです。

 石原都政による都民不在の五輪招致の暴走を許すわけにいきません。これにストップをかけるためにも、都民の多数の意思で「東京招致」に是非を下すことが重要になっています。招致問題は決着がついたのではなく、これからが本番です。


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