2006年8月5日(土)「しんぶん赤旗」

主張

夏の甲子園

復活60年の節目の年に考える


 八十八回を数える夏の高校野球が、いよいよ六日から甲子園球場で始まります。

 総数四千百十二校が参加した今年の地方予選でしたが、昨年より一道一府十八県で減少しました。茨城・奈良では五校も減り、少子化や過疎化で野球部の合併や廃部が相次いでいます。

 予選を勝ち抜いた代表四十九校の選手たちには、ともに白球を追って競い合った仲間たちに思いを寄せ、はつらつとしたプレーで見るものを魅了してほしいと思います。

一切の暴力なくして

 予選では豪雨や長雨の影響も出ました。しかし、神奈川の決勝戦は超満員となり、宮城での延長・再試合など、各地で熱戦が繰り広げられました。日本最南端の高校、八重山商工(沖縄)は春に続いて夏の初出場をはたしました。

 昨年の大会は、強豪校で指導者や部員の暴力事件がつぎつぎと発覚し、球史に汚点を残しました。優勝校の駒大苫小牧(南北海道)もその一校でした。同校がどんな反省に立って今大会に臨むかが問われます。

 日本高等学校野球連盟(高野連)は、脇村春夫会長名で特別通達「暴力のない高校野球を目指して」を発して、“暴力根絶”を呼びかけてきました。しかし、いまなお暴力や体罰などの不祥事が絶えません。

 夏の大会の主催者でもある朝日新聞が、高校野球の指導者に実施したアンケート調査では、体罰は「やむを得ない」「必要だ」と容認する指導者が60%に達し、そのうちの81%が実際に「体罰をふるった」と回答しています。

 高校野球は「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」(教育基本法)ための活動であるはずです。

 「自分の考え・思いを相手に伝えるのに、暴力という手法が本当に有効でしょうか」。この会長通達の問いかけは、大会での部長・監督の指導やさい配に注目しながら、あらためて真剣に考えたい問題です。

 歴史に目を転じれば、今大会は戦後の復活から六十年の節目の年にあたります。戦争で中断され、五年ぶりに復活した第二十八回大会は、終戦のちょうど一年後、一九四六年八月十五日に開催されました。

 復活に際し主催者は、「野球を通じて民主主義精神の育成を助長し、併せて明朗闊達(かったつ)なる気風を醸成せしめ…」と抱負をのべました。その心意気が伝わって、ボールやグラブなど用具不足にもかかわらず、地方予選の参加校は戦前大会の最多規模を上回りました。

 当時、代表校は、米・麦・野菜を背負って、夜行列車を乗り継いでかけつけたと聞きます。球児たちも、つめかけた観衆も、戻ってきた球音に命の躍動をおぼえ、平和の大切さをかみしめたのでした。

平和の願いこめて

 戦争では、三百万人をこえる国民が犠牲となり、若くして戦没したOB球児も少なくありません。復活大会は、人の命と野球を奪った戦争の過ちを「二度と繰り返さない」と誓いあった舞台となりました。

 それから六十年、高校野球は一度も欠けることもなく続いてきました。これは、復活の誓いを肝に銘じ、「戦争をしない国」と決意した憲法の精神を、戦後の社会が堅持してきたことと深くかかわっています。

 歴史と社会にはぐくまれてきた高校野球の原点を確認しながら、青春のたぎる甲子園の夏を楽しみたいものです。


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