2006年8月5日(土)「しんぶん赤旗」

41人全員原爆症と認定

国の審査に「弱点」

広島地裁 脳腫瘍・骨折も救済


 広島への原爆投下から六十一年目の六日を前にした四日、広島地方裁判所前は、「勝った」「快挙だ」との喜びの声にわきたちました。被爆者四十一人が国にたいし、「自分たちの病気は原爆のせいだと認めてほしい」と訴えていた裁判で、坂本倫城裁判長は、原告全員の勝訴を言い渡しました。五月十二日の大阪地裁での全員勝訴に続くものです。「私たちのたたかいは、二度と被爆者をうまないためのもの」との被爆者の願いが届きました。


写真

(写真)原爆症認定集団訴訟の全員勝訴判決を喜ぶ人たち=4日、広島地裁前

 開会総会中の原水爆禁止二〇〇六年世界大会広島会場に「全員勝訴」が知らされると、参加者七千三百人が総立ちで拍手をおくりました。

 提訴後、十人が亡くなりました。法廷には遺影を胸に抱き喪服を着た遺族の姿もありました。

 原告は六十二歳から九十四歳。三十九人は爆心地から〇・五キロ―四・一キロの距離で被爆し、二人は原爆投下後に広島市に入り被爆。がんや白内障などを発症しました。しかし、原爆症の認定を却下されたため、処分の取り消しと一人あたり三百万円の損害賠償を求めて提訴していました。

 「いずれの原告も原子爆弾の放射線の影響を認める」とした判決は、厚労省が審査に使っている「原因確率」(病気と放射線量との因果関係を表したもの)を、「様々な限界や弱点がある」と指摘。残留放射線による外部・内部被ばくの影響は別途慎重に検討しなければならないとして、認定されてこなかった脳腫瘍(しゅよう)や骨折、膵(すい)炎なども原爆症と認定すべきだとしました。損害賠償については却下しました。

 原告数が最多の被爆地広島での勝訴は、被爆者援護行政の見直しを迫るものです。佐々木猛也弁護団長は「原爆が投下された八月六日を直前に言い渡された判決は、世界中に核兵器の非人間性を訴え、その廃絶を求めるメッセージだ」とのべました。


解説

全面解決に踏み出せ

破たんした国の認定基準

 原爆症認定を求める集団訴訟で広島地裁は、爆心地から四・一キロで被爆した遠距離被爆者や、原爆爆発後に広島に入った入市被爆者も含めて原告全員を原爆症と認めました。

 認定にあたって、被爆者一人ひとりの被爆状況やその後の生活状況などを全体的、総合的に考慮する必要があると指摘。五月の大阪地裁(近畿訴訟)判決に次いで厚労省の認定審査方法を正面から批判しました。

 集団訴訟に先立って出されている七つの判決でも国の認定のあり方が否定されています。今回の判決で、申請者を広く原爆症と認定すべきだという司法の判断は完全に定着したといえます。被爆地広島で出された判決を国は真摯(しんし)に受けとめ、全面解決に踏み出すべきです。

「内部被ばく」焦点に

 裁判で焦点となったのは、呼吸や飲食を通じて放射性物質を体内にとりこむ「内部被ばく」の問題です。

 厚労省は、原爆が爆発した瞬間の放射線量を爆心地からの距離に応じて推定し、認定の“決め手”にしてきました。二キロ以上の遠距離や入市被爆者には、放射線の影響はほとんどないという理屈です。

 しかし、これでは遠距離・入市被爆者の病状を説明できません。実際は「きのこ雲」が最大幅十八キロにも広がり、その下に放射線を大量に含んだ「黒い雨」や黒いすす、放射性降下物を充満させました。降りそそいだ放射性降下物の被爆線量は遠距離ほど増加することがわかってきています。

 救援や捜索のため爆心地に入った被爆者は、原爆爆発後にできた放射能で被ばくしました。

 裁判では年間数百人の被爆者を診察している福島生協病院の斎藤紀病院長が、入市被爆者でも直爆と同じ病理を示すことを証言しました。気象学者の増田善信氏は、国が「黒い雨」の降雨範囲をいかに狭くとらえているかを告発しました。

 判決は、「直爆以外の方法による被爆、すなわち残留放射線による外部被ばく及び内部被ばくの影響については別途慎重に検討しなければならない」と指摘。審査では、発熱や下痢などの急性症状を「判断要素」とすべきだとし、これまで認定されることのなかった脳腫瘍(しゅよう)や骨折などについても被爆との因果関係を認めました。

「がまん」を強いる

 国は、“原爆の被害は大したものではない”として、原爆被害を小さく狭くとらえ、被爆者に「がまん」を強いてきました。それはアメリカの核先制使用戦略に付き従う国の姿勢の反映です。

 被爆者を援護することは、「ふたたび被爆者をつくらない」という決意の証しとなります。すでに広島地裁の原告だけでも十人が判決を目にすることなく亡くなっています。これ以上、被爆者を放置することは許されません。いまこそ、認定のあり方を抜本的に変えるべきときです。(内野健太郎)


 原爆症認定制度 国が被爆者援護法に基づき、原爆による病気やけがを「原爆症」と認定する制度。医療を要する状態にあることや、傷病が放射線に起因したり治癒能力が放射線の影響を受けたりしていることが要件。二○○一年五月以降の審査方針は、爆心地からの距離に応じて放射線の被ばく線量を推計。その上で性別や当時の年齢、被ばく線量を検討し、各疾病が放射線によって引き起こされた確率を導き出し、50%以上ならほぼ認定し、10%未満は却下。「被爆の実態を狭く、軽く見ている」として見直しを迫られています。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp