2006年7月7日(金)「しんぶん赤旗」
主張
エレベーター事故
安全を最優先に立て直せ
東京都港区の住宅公社マンションで、エレベーターにはさまれた男子高校生が圧死した、いたましい事故から一カ月余がすぎました。
普段なにげなく利用しているエレベーターがこれほど危険な乗り物であると意識していた人は、ほとんどなかったことでしょう。事故原因の徹底究明を求め、その教訓を深く受け止めたいと思います。
人命預かる自覚は
今回の事故では、メーカーであるシンドラー社の無責任さが際立ちました。事故後、保守点検の不備に責任を押し付けようとしました。人命を預かる最低限の自覚さえ欠いているといわれても仕方ありません。
スイスに本社を置く同社は九〇年代後半から日本市場に参入しました。建築資材・部品等の輸入規制緩和を受け、中国工場から部品等を輸入し、「安さ」を売りに官公庁などにエレベーターを納入しています。
これまでも同社製エレベーターで、扉が開いたままかごが動く制御盤のプログラムミスがあり、こっそり修理して済ませようとしていたことが明らかになっています。同社の製造者責任が厳しく問われます。
この責任をあいまいにさせないため、自動車のリコール制度と同様に、不具合の届け出、公表と無料の回収・修理を義務付ける制度がどうしても必要です。
高校生が亡くなった事故の直接の原因はブレーキ異常とされ、保守点検業者のずさんな点検が指摘されています。エレベーター会社の系列に属さない「独立系」と呼ばれる業者でした。「独立系」業者は安さを売り物に十数年前から保守点検に参入してきました。メーカーが「企業秘密」として独立系に部品情報を渡さないなどの問題もあり、安全確保の基本的仕組みができていません。この点では、保守管理会社の登録制度、保守点検方法の法令化など、国の関与で確実な保守点検がおこなえる体制をつくるべきです。
住宅の管理者である港区、その指定管理者である港区住宅公社の責任も問われます。住民は度重なるエレベーターの不具合、事故の苦情を公社にも、区にも申し出ましたが、適切な対応はされませんでした。保守管理会社を次々変え、委託料を三年間で四分の一に減らすなど「安ければどこでもいい」という、安全は二の次の態度はとても通用しません。
建築基準法は、エレベーターの扉が開いたまま昇降できないよう安全装置の設置を義務付け、年に一回の法定検査と自治体への報告義務を定めています。九八年の同法改定で自己責任による多様な設計を認めた「性能規定化」が導入され、建築確認や完了検査が形骸(けいがい)化したという指摘もあります。欠陥を見抜けなかった点でも行政の責任は重いものです。
大きな背景にまで迫れ
日本は全国で五十万台もが稼働するエレベーター大国です。事故後連日のようにトラブルが報じられ、安全への信頼がゆらいでいます。国土交通省はこれまで、エレベーター事故の情報を集めていませんでした。重大な事故にはそれに先立つ兆候があるものです。事故情報を共有できる制度を本格的に作るべきです。
今回の事故の大きな背景に、九〇年代からの「規制緩和」万能の政策による、行き過ぎたコスト削減、安売り競争があります。輸入規制緩和、メーカー・保守管理会社の低入札競争、公共住宅の管理を外注化した指定管理者制度…。耐震偽装問題でも示された「安全まで規制緩和」という政治そのものの見直しが必要です。