2006年6月28日(水)「しんぶん赤旗」

小泉首相 最後の訪米(上)

「小泉後」も縛る同盟強化


 小泉純一郎首相は二十九日、ワシントンでブッシュ米大統領との首脳会談に臨みます。「世界の中の日米同盟」をうたい、日米軍事同盟を文字通り地球規模に拡大する共同文書に署名し発表する見通しです。日米の首脳が署名する共同文書は十年ぶり。日米両政府は、首脳会談で何を目指そうとしているのでしょうか。(田中一郎、竹下岳)


 ワシントンから南西に約千二百キロに位置する都市メンフィス(テネシー州)。歌手エルビス・プレスリーの邸宅グレイスランドがあります。小泉首相が愛好するプレスリーゆかりの品が存分に見学できる記念館です。

“手土産”もって

 小泉首相は、ブッシュ大統領とともに大統領専用機エアフォース・ワンでここを訪れる予定です。米大統領専用機に他国の首脳が同乗するのは極めて異例なことです。

 グレイスランド訪問は、ブッシュ大統領からの“ご褒美”です。

 それに応えるかのように、小泉首相は、今回の首脳会談に先だって、矢継ぎ早に“手土産”をそろえました。

 ▽総額三兆円もの日本側負担を強いる在日米軍再編の「迅速実施」を盛り込んだ閣議決定▽米国産牛肉の輸入再再開▽イラクでの航空自衛隊の活動の継続・拡大――。

 いずれも米国の要求に忠実に応え、日本の平和と安全、国民の命と暮らしを脅かす重大問題ばかりです。

 そして本番となる首脳会談では、「世界の中の日米同盟」路線を共同文書に盛り込み、「小泉政権の総仕上げ」(安倍晋三官房長官)にする構えです。

 こうした両首脳の関係は、最初の首脳会談(二〇〇一年六月)から始まりました。

 小泉首相はこの時、悪漢と敢然と立ち向かった保安官を描いた映画「真昼の決闘」の話に言及。この保安官のように、「抵抗勢力」とたたかい、米国が求める「構造改革」にまい進するというメッセージでした。ブッシュ大統領は同年九月の首脳会談で、原寸大にカラー・コピーした「真昼の決闘」のポスター(ブッシュ氏のサイン入り)を、小泉首相にプレゼントしました。

米側の別の意図

 一方、米側は、今回の首脳会談に別の意図も込めています。

 「六十年前だったら、こんなことがあり得ると考えただろうか」

 ブッシュ大統領は、イラクへの電撃訪問直後の演説(十六日、ニューメキシコ州)で、小泉首相とのグレイスランド訪問をあげて、聴衆にこう問いかけました。

 強調したのは、かつて太平洋戦争で戦火を交えた日本が、今では米国とともにイラクに軍隊を派兵していること。イラクもいつかは、日本のような国になる―。そんな思惑がにじんでいます。

 混迷を深めるイラク情勢のもと支持率が下がる一方のブッシュ政権にとって、日本との関係は絶好のアピール材料というわけです。

共同文書の狙い

 共同文書に「世界の中の日米同盟」路線を盛り込む狙いは何か。

 マイケル・グリーン前米国家安全保障会議上級アジア部長は、今回の首脳会談にあたって、「日米同盟は世界の課題に取り組む能力を持つべきだという見方がこの五年の間に日米で共有されるようになった。こうした同盟関係の強化は(小泉・ブッシュ)両首脳の個人的な関係のみに基づくものではないことを明確にすべきだ」と述べています(「日経」二十六日付)。

 「小泉後」の政権も、米戦略を支える「世界の中の日米同盟」路線を引き継ぐべきだ―。共同文書で、今後も日本の進路を縛りつけようとしているのです。

 外務省元幹部は「テロとのたたかいも、イラクでの自衛隊の活動も『極東』の範囲ではない。『世界の中』だ」と指摘。「小泉さんは、グローバル(地球規模)な協力というところまで日米関係の次元を変えた」と強調します。

 「日米安保共同宣言」(九六年)で、「極東」からアジア太平洋へと対象が拡大された日米軍事同盟。小泉首相は、〇三年五月の首脳会談で「世界の中の日米同盟」路線を約束し、これを前後して自衛隊のインド洋・イラク派兵という“実績”を積み重ねてきました。

 在日米軍再編の日米合意(昨年十月)では、地球規模での日米の軍事協力を「同盟の重要な要素」と位置付けました。こうした路線を共同文書でいっそう確固としたものにしようというのです。

 「対米公約としての重さは、以前より重くなる。米国は日本にいろいろと言いやすくなるだろう」

 共同文書への「世界の中の日米同盟」の明記によって、米国からの圧力が今後、いっそう強まる―。政府高官は、こう予想します。(つづく)

小泉政権下の「日米同盟」主な動き

2001年
4月26日 小泉内閣発足
6月30日 小泉首相、ブッシュ米大統領との初の首脳会談
9月11日 米同時多発テロ
  25日 小泉首相、日米首脳会談で米国の「対テロ」報復戦争に自衛隊派兵を約束
10月7日 米・英軍がアフガニスタン攻撃開始
11月29日 アフガン攻撃支援のため自衛隊を派兵するテロ特措法成立
12月2日 テロ特措法に基づき海上自衛隊がインド洋で米艦船への給油開始

2002年
4月16日 米軍の戦争に自衛隊が参戦し、国民を強制動員する有事法制関連3法案を国会提出
12月16日 日米の外交・軍事担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)。いわゆる在日米軍再編協議の開始

2003年
3月20日 米・英軍がイラク攻撃開始
5月23日 日米首脳会談で「世界の中の日米同盟」強化で一致
6月6日 有事法制関連3法成立
7月26日 米軍のイラク占領支援のため自衛隊を派兵するイラク特措法成立
12月19日 ブッシュ政権が進める「ミサイル防衛」の導入を閣議決定

2004年
1月22日 イラク特措法に基づき空自本隊がクウェートへ出発
2月3日 陸自本隊がイラクへ出発
6月14日 有事法制関連7法・3条約成立
12月10日 自衛隊海外派兵の主要任務化を打ち出した新防衛計画大綱を閣議決定

2005年
2月19日 2プラス2で在日米軍再編に関し「国際テロ」などへの対抗を掲げた「共通の戦略目標」決定
10月29日 2プラス2で在日米軍再編にかかわる合意文書「日米同盟:未来のための変革と再編」を発表。海外での日米軍事協力が「同盟の重要な要素」と規定

2006年
5月1日 2プラス2で在日米軍の「再編実施のための日米のロードマップ」決定。日米同盟が「新たな段階に入る」と宣言
  30日 在日米軍再編を「迅速に実施する」とした方針を閣議決定
6月9日 海外派兵を主要任務にする自衛隊法改悪案などを国会提出
  20日 イラクでの陸自撤退と空自の活動範囲拡大を決定


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