2006年6月23日(金)「しんぶん赤旗」

諫早干拓 赤字6400億円

市民団体報告書 費用対効果わずか0.19


 国営諫早湾干拓事業の経済効果を示す「費用対効果」は、〇・一九で、採算基準の一・〇を大幅に下回り、赤字額は、六千四百億円の巨額に達することがわかりました。市民団体が専門家と協力してまとめた報告書で明らかになったもの。現地・長崎市内で二十五日、シンポジウムを開き、その内容を報告します。

 報告書をまとめたのは「有明海漁民・市民ネットワーク」と「諫早干潟緊急救済東京事務所」。国営公共事業の政策効果を五年ごとに再評価する制度(時のアセスメント)に基づき、諫早湾干拓事業の再評価が行われるのに合わせて発表しました。

 報告書は、干拓事業による水質悪化の改善を下水処理費用に換算すると千三百八十四億円と算定。さらに工事前と後を比較算定した漁業被害相当額は三千九百五十億円。農水省算定の総事業費二千五百五十七億円を加えると総額は七千八百九十一億円に達しました。

 一方、投資効果の方は、災害防止や国土造成の効果が、農水省算定の過大算出部分を差し引くと、千四百九十六億円。「効果」から「費用」を差し引くと六千三百九十五億円の赤字になりました。

 この結果、費用対効果は、五年前の農水省算定の〇・八三を大幅に下回る〇・一九に。投資効果を分析した宮入興一・愛知大学教授は「干拓事業の費用対効果は、最低合格点一〇〇点の試験で、今や二十点にも達しない点数」と説明、干拓事業を一大欠陥事業と指摘しています。

 水門を開放する環境再生の複数案(潮受け堤防撤去、第三水門設置、現水門常時開放)を実施すれば、費用対効果は〇・六四―〇・八八にあがるといいます。


解説

諫早干拓事業の再評価

水門開放は不可欠

写真

(写真)刊行された『市民による諫早干拓「時のアセス」2006−水門開放を求めて』(A4判202ページ、1000円・送料別)

 始まったら止まらない公共事業に対する批判が強まり、一九九八年から五年ごとに第三者が事業を検証する再評価制度(時のアセスメント)ができました。諫早湾干拓事業も今年度が二回目の再評価の年に当たっています。

 農水省は八日、六人の第三者委員(委員長・加藤治佐賀大教授)を選定。現地視察もおこなわれました。

 市民団体の報告書(市民版「時のアセス」)は、この再評価第三者委員会の発足に合わせて作成されたのが特徴です。

 市民団体が市民版「時のアセス」をまとめるのは二回目。前回の再評価第三者委員会では、市民版「時のアセス」をもとにした真剣な議論も展開されました。委員の中から事業の中止を求める意見も出されました。委員会の答申では「環境への一層の配慮を条件に事業を見直されたい」との表現で事業の継続に注文をつけました。追いこまれた農水省は、「干拓事業の縮小」を表明。農地造成地を半減しました。

 しかし、諫早湾を閉め切ったことによる有明海への悪影響については何の見直しもされずに、被害が拡大しました。今回、市民版「時のアセス」が算定したとおり巨額のマイナスをもたらすにいたっています。

 その改善案として、今回の市民版「時のアセス」では、諫早湾を閉め切った堤防の水門を開放する複数の案を検討し、効果を試算しているのが大事な特徴です。これは海水導入によって自然の浄化力の回復、干潟の再生や潮流速の回復が期待でき、海洋・漁業環境の改善につながるからです。

 現行の干拓工事をつづけて完成したとしても、諫早湾・有明海への悪影響、漁業不振を将来にわたって引きずることになります。

 今回の「時のアセス」は、その社会的損失を考えれば、現行計画の見直しや改善案を採用した方が社会的には得策と主張。その検討には、中・長期開門調査によるデータの蓄積が不可欠と訴えています。

 第三者委員会には、学者の良心をかけた答申が期待されています。

(松橋隆司)


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