2006年3月29日(水)「しんぶん赤旗」

命にまで格差

医療改悪が直撃 病院閉鎖

患者守れ署名 市民4割

北海道根室


 長期入院患者を受け入れてきた地域の病院が、政府が国会に提出した医療改悪法案を理由に閉鎖を決め、患者を追い出す事態がおきています。北海道根室市の社会福祉法人・根室隣保院(周田ヨシエ理事長)付属病院です。同院の周田泰俊常務理事は「法案に盛られた療養病床削減方針で将来の展望がなくなった」といいます。「地域医療を守れ」と市民団体が結成され、人口の四割近い署名が集まっています。(藤川 良太)


 根室隣保院付属病院は、市内で唯一、長期入院が必要な人のための療養病床を七十五床持っていました。医療保険適用のベッドが三十二床、介護保険適用のベッドが四十三床です。

 周田常務理事は閉鎖の理由に、(1)医師、看護師退職者の補充が困難(2)介護型療養病床全廃と、医療型療養病床の削減を盛り込んだ医療改悪法案(3)介護型療養病床の食費・居住費全額負担を挙げました。

 「現在も赤字だが、介護型療養病床が全廃されれば将来の経営環境はさらに厳しくなる」(周田常務理事)と説明します。

 昨年十月の介護保険法改悪で介護型療養病床の食費・居住費が全額自己負担になって以降、介護ベッドが空く状況になっていたといいます。周田常務理事は「医療型と比べると月に約三万円の負担増になる。誰も入りたがらない」。ベッドの稼働率が低下、経営環境が悪化しました。三月三十一日で閉院するとしています。

 北海道医療労働組合連合会は、患者家族などに聞き取り調査を行いました。二月末の入院患者五十七人の閉鎖後の行き先は、在宅二十三人、病院二十二人、老人保健施設一人、老人ホーム等十一人となっています。転院・入所先が見つからず、自宅に帰される患者のなかには医療的ケアが必要な患者も含まれていると言います。

 同院労組(鈴木芳子委員長)を中心に市民らは「根室の地域医療を守る連絡会」を結成。市に、(1)入院、外来患者の医療の継続(2)職員の雇用確保(3)地域医療確保に向け、経営移譲・病院の誘致―を求めた署名は一万二千人分を突破しました。根室市の人口(約三万二千人)の四割近くに達しています。守る会は、住民過半数を目標に、署名に取り組んでいます。


“寝たきりの夫どうする”

 医療改悪法案を理由の一つにした、北海道根室市の根室隣保院付属病院閉鎖問題は、患者や家族を深刻な事態に追いやっています。

 漁業の男性(53)は、同病院から打診を受け、脳こうそくで入院中の母親(83)を自宅に引き取ることにしました。「在宅でも介護保険サービスがあるというが、どこまでしてもらえるのか」と不安をもらします。

 四月からは漁が始まり、午前三時に家を出て帰宅は正午前になります。ところが同市の在宅介護サービスは「二十四時間体制になっていない」(市介護保険課)のが実情。男性は「現実に療養病床を利用している家族がどういう生活をしているのか(政府は)分かっていない。現場を見てほしい」と話しました。

 付属病院(七十五床)は根室市内で唯一、長期入院患者が入る療養病床をもつ病院です。一般病床の病院では、入院が一定期間を過ぎると保険から払われる診療報酬が下がるため、入院を短期にしようとします。そこで引き続き入院が必要な患者を受け入れてきたのが付属病院でした。

家ではみられず

 「お父さんはのどを切開しているので、とても家ではめんどうみれない」。市内で民宿を営む女性(65)も、突然の閉鎖発表に怒ります。

 女性の夫は、昨年一月、脳の疾病で意識不明になりました。根室市立病院で治療を受けた後、隣保院付属病院に転院しました。寝たきりになり、鼻に酸素を送る管が着けられ、タンの吸引のためのどを切開しています。

 閉鎖にともなって当面市立病院への転院が予定されていますが、一般病床の同病院にいつまで入院できるかわかりません。女性は「根室に安心して入院し続けられる療養病床を残してほしい」と訴えます。

医療空白作るな

 市民にも危機感が広がっています。「根室の地域医療を守る連絡会」が署名をもって訪ねると「大変なことになった」と次々に声があがります。

 心臓のバイパス手術を受けた祖父と暮らす同市内の福井きよみさん(43)は「年寄り抱えてるから、何とか病院を継続してほしい」と切実です。

 同連絡会を結成し、署名にとりくんできた北海道医療労働組合連合会の山本隆幸副委員長は「社会福祉法人の隣保院が突然の閉鎖を打ち出したことは社会的責任を問われるべきだが、地域に医療の空白をつくらないために、署名を広げ、市や道に働きかけを強めたい」と話します。

議会も働きかけ

 この事態に市議会も、「地域医療の確保に関する決議」を全会一致で採択。北海道当局にたいし、地域医療、地域の介護事業の確保・継続が図れるよう全面的な支援を行うよう求め、「市議会と行政が一体となって確保に全力をあげる」としています。

 日本医療労働組合連合会の桂木誠志書記次長は「この事態は療養病床削減問題のさきがけです。政府は療養病床削減を盛った医療制度改悪法案を撤回すべきだ」と指摘しました。


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