2006年3月12日(日)「しんぶん赤旗」

えっ保険が利かない?!

所得の違い「命の格差」に

医療改悪法案


 保険証だけでは必要な治療が受けられなくなる――小泉内閣が国会に提出した医療改悪法案は、高齢者の患者負担増だけでなく、公的保険制度の土台を崩す内容が盛り込まれています。日本の医療はどうなるのか、誰の利益になるでしょうか。

混合診療を本格導入

膨らむ保険外負担

 公的保険制度を崩す“突破口”になるのが、「混合診療」の本格的な導入です。

 いまの日本の医療制度では、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し(国民皆保険)、保険がきく診療(保険診療)を原則としています。

 窓口負担はかかった医療費の一―三割です。この制度があるから、すべての国民が「保険証一枚」で必要な医療を受けられます。

 この公的医療に風穴をあけるのが、「混合診療」です。保険診療と保険がきかない診療(保険外診療)を組み合わせるものです。

 いまは、一部の例外しか認められていません。それは、「高度先進医療」や歯科医療の「金属床」の総入れ歯、「差額ベッド」などです(特定療養費制度)。例えば、歯科で金合金を使って前歯にブリッジを入れた場合、金合金の材料費は保険外、他の部分は保険適用になります。

法改悪で本格的に

 医療改悪法案では、この特定療養費制度をつくりかえて、新たに「保険外併用療養費」とします。「混合診療」の対象に「高度先進医療」だけでなく、「必ずしも高度でない先進技術」や、欧米で承認された「国内未承認薬」なども加えます。これらは、安全性、有効性が確認されれば、保険適用となります。

 また、「差額ベッド」に加え、「制限回数を超える医療行為」(リハビリなど)も新たに対象になります。これらは、患者の「選択」によるとされ、将来にわたって保険適用の対象にしません。

 厚生労働省は、この「改革」で、今後生じる「混合診療」の新たな要望に「おおむねすべてに対応」できるとしています。

 いままで「例外」とされてきた「混合診療」が、医療現場に本格的に持ち込まれることになります。

「混合」はなぜ問題

 「混合診療」が拡大していくと、保険が適用されていないものを診療行為に組み込みやすくなります。「混合診療」が比較的多く認められている歯科医療では、保険外診療の範囲が広がり、患者負担も大きくなっています。

 日本の医療制度は、保険外だった技術、薬を、安全性、有効性を検証したうえで保険適用にしてきました(別項)。以前なら、高額だった治療が保険内で可能になることで、公的医療制度が国民に定着してきたのです。

 保険外診療が広がり、公的保険の範囲が狭められれば、新しい医療技術や新薬を利用したり、手厚い治療を受けられるのはお金のある人だけとなりかねません。所得格差が「命の格差」につながり、公的医療保険制度の土台が崩れていくことになります。

 「混合診療」の拡大、公的保険の範囲縮小は、国民の要求ではありません。民間医療保険の市場拡大により巨額の利益を得ることができる日米の保険会社の要求です。


日本の医療制度 保険適用で負担軽減

 「混合診療」禁止の原則のもとでは、保険がきく診療と保険外診療を組み合わせると、保険がまったく適用されず、全額患者負担になります。

 小泉首相は、このことをもって、「混合診療を認めなければ、一部の(保険外の)医薬品を扱えば全額保険外(患者の自己負担)になる。それを改善した」と答弁しました(三日の参院決算委員会)。

 しかし、日本の医療制度の歴史では、かつて保険外診療だった人工透析、腎臓移植、肝臓がんのラジオ波治療、白内障眼内レンズなどを、医療技術の進歩、患者、国民の運動により、保険適用にしてきました。公的保険による医療を基本とし、「混合診療」を認めなかったからこそ、可能になったことです。


市場拡大のチャンス

日米業界の狙い

 「公的保険適用外への備えも必要」「民間保険を上手に使って」―テレビや新聞でアメリカ系保険会社が大々的に宣伝しています。

 アメリカの保険会社や医療業界は、医療改悪による公的保険制度の後退を“市場拡大のチャンス”と位置付けています。

 現在、公的医療保険以外の、患者自己負担は少なくみても約二兆四千億円(日本共産党の小池晃政策委員長の試算)。民間保険会社などは、さらに増加が見込まれる保険外負担に狙いを定めているのです。

 アメリカは官民あげて、日本政府に「混合診療の解禁」を求める圧力をかけています。

 小泉首相とブッシュ米大統領の合意でつくられた意見交換の会議「日米投資イニシアチブ」(二〇〇一年設置)。昨年の会議の場で米国政府の出席者は、「医療サービス市場についても米国企業が参加し貢献する余地がある」「営利企業による医療サービスの提供を認めること」を求め、「魅力的な企業投資の観点から、いわゆる『混合診療』の解禁」に関心を表明しました。(〇五年七月発表の報告書)

 混合診療導入を推進してきた「規制改革・民間開放推進会議」(首相の諮問機関、議長=宮内義彦オリックス会長)には、在日米大使館のズムワルト公使(経済担当)が出席、混合診療解禁を主張しました。(〇四年十一月二十二日、別項)

 米国企業千四百社が加わる在日米国商工会議所(ACCJ)は、日本の医療分野の市場拡大、株式会社による病院経営などを求める運動を展開しています。その活動を「『国会ドアノック』と呼ばれる議員への個別訪問を行う…提言活動の成果実例は数多く」と誇示しています。

 このACCJから、規制緩和と「構造改革」の「積極的な活動」への功績をたたえられ、〇一年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」賞を贈呈されたのが、規制改革・民間開放推進会議の宮内議長です。宮内氏は、民間保険会社を傘下に置く企業グループのトップ。自分の企業のもうけのために「混合診療」の旗を振ることは、利益誘導そのものです。

 公的保険制度の縮小・混合診療推進は、日本の大企業・財界の年来の要求でもあります。

 日本経団連は「医療や介護についても、給付費の増加を抑えるため…保険外サービスと保険サービスの併用を進めるべき」(〇四年十二月の提言)と要求。経済同友会は、医療費を「全て公的な保険料と税で賄うことは、現実的には困難」「財源を補う必要性からも混合診療の全面解禁が求められる」(〇五年四月の文書)と主張しています。企業の保険料負担を減らしたいという思惑からです。

 アメリカや日本の民間保険会社のもうけと、日本の財界の負担減のために、国民が負担を強いられ、皆保険制度が壊される――医療改悪法案の狙いが浮き彫りになっています。


医療改悪法案の主な内容

 ・70歳―74歳の患者負担2割、70歳以上の現役並み所得は3割

 ・70歳以上の長期入院患者の食費、居住費の負担増

 ・75歳以上の全高齢者から保険料徴収

 ・「混合診療」の拡大


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