2006年3月12日(日)「しんぶん赤旗」

主張

牛肉報告書

食の安全投げ捨てる日米政府


 米国産輸入牛肉に、BSE(牛海綿状脳症)病原体がたまりやすい特定危険部位の脊柱(せきちゅう)が混入していた問題で、日本政府は米国の報告書を日本語に翻訳・公開して国民から意見を募集しています。

 昨年十二月に(1)二十カ月齢以下の牛(2)特定危険部位の除去という条件で、米国産牛肉の輸入を再開してからわずか一カ月――今年一月に脊柱混入で輸入再停止となりました。

違反記録も審議せず

 米政府は、報告書で、脊柱混入が、特定の業者と検査官による「特異な例」であり、米国全体の「不備ではない」とのべています。

 八日の参院予算委員会では、「特異な例」どころか、米国で特定危険部位の除去違反が常習化していることが明らかになりました。日本共産党の紙智子議員の質問です。米政府が認定した日本向け牛肉処理施設で、違反行為が繰り返されていました。

 紙議員は、この事実を示す米国農務省の食品安全検査局のBSE違反記録(個別の違反ごとに記録。約千枚)を、二月中旬の訪米調査で入手して、質問しました。

 厚生労働省は、すでに昨年八月二十三日に米政府から、この詳細な違反記録の提供を受けていました。ところが、九月十二日の食品安全委員会プリオン専門調査会には、わずか二枚の「概要」(米政府提供)と、詳細な記録を日本政府が二枚にまとめた説明資料しか提出されていませんでした。これでは個別施設での除去違反常習化の実態はわかりません。

 詳細な違反記録を政府関係者は検討した上で輸入再開を決定したのか―。中川農水相は「いま初めて拝見した」とのべ、川崎厚労相は「概要は見ている」と答えました。

 食品安全委員会の寺田委員長は、詳細な違反記録の「原本は読んでいない」といい、専門調査会でも「審議はしていない」と答えました。

 政府は、脊柱混入が発覚した後も、「食品安全委員会において科学的な議論を尽くした」上での輸入再開と説明してきました。しかし危険な事実が隠されたままの輸入再開であったことが明確になりました。

 脊柱混入を契機に、改めて、日本政府は、国民の食の安全より米国からの早期輸入再開の要求を優先させたのではないかとの批判が起こっています。

 その点で米国の報告書が日本の全頭検査緩和の経緯を詳述していることは注目されます。早くも〇四年五月―七月の日米協議で二十カ月齢以下の牛の検査停止が「可能であるとの認識」を日本側から得ていたと明記しています。

 日本政府は、その年の九月の食品安全委員会の「中間とりまとめ」を受けて、十月に全頭検査緩和の諮問を行ったと説明してきました。国内の全頭検査緩和の諮問は、食品安全委員会の自主的な判断を受けたものであり、米国の圧力ではないとみせるためです。

 しかし、米国の報告書は、全頭検査緩和の議論と米国産牛肉の輸入再開の検討は密接に関連していることを裏付けました。米国の圧力で食の安全基準を改悪したとすれば、内政干渉にあたる重大事態です。

なぜ全頭検査は消えたか

 二年前の輸入停止直後は、小泉首相も国会で、輸入再開にあたって国内と同等の「BSE全頭検査及び特定危険部位の除去」が必要と答えています。しかし、日米協議が本格化するにつれ全頭検査は消えました。

 なぜ全頭検査が消えたのか、政府は国民の疑問に進んで答える必要があります。


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