2006年2月20日(月)「しんぶん赤旗」

9条の国に根をはって

“憲法は私自身です”

村長ら戦争の悲惨さ伝える

長野・阿智村「あちの会」


 南アルプスの白い峰々を望む長野県の南端、伊那地方。その岐阜県境にある阿智村(人口六千六百人)で、村長や元村議、老人会の役員、元校長らが代表呼びかけ人となって「憲法九条を守り広めよう」ととりくんでいます。「静かな山村で、なぜ『憲法』がそれほど大切にされているのか」―。同村を訪ねました。 (内野健太郎)


図

 「憲法を否定することは、自分自身を否定すること。自分の頭を全部、取り換えるってことですよ」

 岡庭一雄村長は、村役場の村長席で、こう語りました。三歳のときに父親がフィリピンで戦死。新憲法公布の直後に小学校に入学し、平和の大切さを最もかみしめてきた世代だと自称します。

 岡庭村長はいいます。「私たちは憲法のおかげで、自由で豊かな暮らしを享受してきたんです。その憲法が変えられようとしているいま、住民の命と暮らしを守るために、自治体の首長が自分の立場を明らかにするのは当然です」

山すそに集落

 年間六十万人が訪れる昼神温泉で有名な阿智村。清流をはさんで温泉旅館やホテルが軒を並べ、山すそに集落が点在しています。その道路沿いに「九条の会」のポスターを張ってある商店が何軒もありました。

 「子どもたちのことを考えたら戦争はいや。それだけです」。ある商店の中年の女性がはにかむような口調でいいます。「昔、勤めていたとき、社会党支持の労組に入ってました。でも、党派を超えた会というのが一番いい。ポスターを見たお客さんと話にもなるし、『よかったら(会に)入りませんか』って誘ってます」

祖母は中国に

 「うちは家族で入ってるに」と建具店の田原民子さん(64)。「戦争を防ぐ九条がせっかくあるんだで、なくしてはならん。九条の会にだけは村の全員が入ってほしい。戦争に賛成の人はおらんに」。田原さんは、通っている着付け教室でも、入会を訴えています。

 布団店の小池知加子さん(58)は「若い衆は戦争のことなんて何も知らんに。まず家族で話すのが大事だと思う」と語ります。お母さんたちでつくる「子どもの文化を考える会」の運動に長く携わってきた小池さんはいま、子どもたちに戦争の悲惨さを伝えようと、村のお年寄りから聞き取りをしています。

 村役場で偶然、一人の高校生と出会いました。祖母が「中国残留孤児」で、いまも中国に在住しています。現在の阿智村を含む阿智郷は敗戦の年、一九四五年に「満州」(中国東北部)に三百三十人の開拓団を送りました。敗戦間際になっても、国策として“満蒙開拓”がすすめられたのです。村では戦後、中国での肉親さがしがずっと続いてきました。住民にとっては悲しい記憶です。

 「戦後すぐは、あの人は『満州』で死んだ、あの人はシベリアに抑留されたという話ばかり。『親せき中を死なせてしまった』といって開拓団から帰ってきた人もいた。戦争は本当にいや」と七十七歳になる会員の遠山文さんは話します。

 「憲法九条を守り広める・あちの会」が結成されたのは昨年九月。飯田市や下伊那郡の住民でつくる「憲法九条を守り広める飯伊の会」の講演会(同年二月)に、阿智村の有志数人が参加したのがきっかけでした。「それぞれの町村で会をつくろう」との「飯伊の会」の呼びかけにこたえ、講演会の翌日、急いで会の結成を呼びかけるビラをつくりました。

一軒一軒訪ねて

 「あの人にも頼んでみよう」と、準備会で呼びかけ人になってもらう人の名前を出し合い、一軒一軒電話し、訪ねてまわったりもしました。“村の自民党幹部”として知られる人にも恐る恐る電話してみました。受話器から「家で待ってるから」の声。訪ねると「若い人がこういう会をつくってくれるのはうれしい」と、自分の「体験記」を一冊くれました。

 「体験記」には、特攻隊員だったが、墜落事故でけがをし、出撃しないまま敗戦を迎えたこと、墜落事故のときに浮かんだのは、母親の顔だったことがつづられていました。

 結成から半年、会員は二百二十人を超えました。事務局は毎月九日に会議を開き、「まず自分たちが憲法のことをよく知ろう」と学習を重ねています。「ポスターを村中に張り出そう」「『九条おしゃべり会』を開こう」「憲法ビデオを貸し出そう」。次から次へとアイデアが飛び出します。


満蒙開拓団 一九三一年の日本の中国東北部への本格的侵略後、国策として中国東北部へ日本から送り出された農業移民。かいらい政権の「満州国」を維持する軍事目的と、国内農村窮乏の緩和を目的に、総数三十万人が送り出されました。ソ連参戦により壊滅。逃避行のなか、多くの「中国残留孤児」「中国残留婦人」がでました。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp