2005年11月8日(火)「しんぶん赤旗」

主張

「小さな政府」論

人間性にかけられた攻撃


 小泉内閣は「構造改革を断行して『小さな政府』の実現を」と主張しています。

 「小さな政府」は、イギリスのサッチャー政権とともに、一九八〇年代の米レーガン政権が、「レーガノミクス」と呼ばれる政策の看板に掲げたスローガンです。ブッシュ現大統領がこれを引き継いでいます。

 小泉内閣は米国型経済の仕組みを「グローバルスタンダード(地球標準)」と呼び「構造改革」のモデルとして、「小さな政府」論を打ち出しています。米国の元祖「小さな政府」論と小泉内閣の議論には共通点とともに大きな違いがあります。

■ハリケーンのつめ跡

 ベトナム戦争敗戦後の経済政策のゆきづまり、貿易と財政の「双子の赤字」のもとでレーガン政権は発足しました。「レーガノミクス」は、軍事力を増強する一方、減税、福祉削減、規制緩和で軍事以外の政府部門を縮小して大企業と富裕層にてこ入れし、「強いアメリカ」を取り戻そうとした政策の総称です。

 母子家庭への補助圧縮や貧困層への食料切符の削減。社会保障の国民負担を増やし年金支給をカット。国から地方(連邦政府から州政府)への低所得層向け医療補助の削減―。経済分野での弱肉強食の徹底は、軍事力に物を言わせる軍拡の考え方と相通じています。

 小泉「改革」は社会保障の切り下げ、「官から民へ」「国から地方へ」の掛け声で進める国民向けサービスの後退と大企業のビジネスチャンス拡大、地方への支出削減、九条改憲と軍事力強化の動きなど、レーガノミクスをほうふつとさせます。

 レーガノミクスは実行されればされるほど貧富の格差を広げました。富は一握りの「勝ち組」に集中し、八〇年代末には上位1%の大富豪の所得が、下位90%の世帯の収入合計を上回ったほどです。

 弱肉強食の政策は子どもや老人、貧困層、人種差別と相乗して黒人や中南米系住民など社会的弱者を痛めつけ、人間の尊厳と社会的なきずなを踏みにじりました。八〇年代末の幼児死亡率は先進国で最高になり、子ども連れのホームレスがあふれました。麻薬と犯罪もはびこります。

 「小さな政府」論の悲惨な結末を示したのが、ルイジアナに上陸した大型ハリケーン「カトリーナ」による被害です。経済的に貧しい地域ほど深刻な打撃を受け、被害者の圧倒的多数は黒人でした。貧富の格差が生死の格差に直結しているのです。救援体制の貧弱さも浮き彫りになりました。連邦議会では「小さな政府」によるしわ寄せだと痛烈な批判が出ています。

 「小さな政府」論がもたらしたのは国民多数の貧困化であり、人間性を守ろうとする社会の分断です。

 日米の「小さな政府」論の大きな違いは税制にあります。レーガン税制は全体としては富裕層に有利な税制「改革」でしたが、八六年の「改革」では低所得層の勤労所得税額控除を拡充し、課税最低限を引き上げました。同時に連邦レベルでの消費税導入を退けています。

■福祉削減+庶民大増税

 今月一日には現ブッシュ政権の大統領諮問委員会が、連邦レベルの消費税導入を再び見送る税制報告をまとめたところです。理由は「大きな政府につながりかねない」―。

 レーガノミクスと共通する福祉の大幅削減や民営化に、小泉内閣が計画する消費税と所得税の大増税が重なったら一体どうなるのか。小泉内閣の「小さな政府」論は人間らしい生き方に対する手荒い攻撃です。


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