2005年10月26日(水)「しんぶん赤旗」
パキスタン大地震
被災地に新しい家族
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■名前は「ハスレーロ(清らか)」
【ムザファラバード=豊田栄光】「二人目の子どもなんだ」。ヤシン・ハーンさん(26)は大喜びです。八日、パキスタン北部を襲った地震で家は倒壊、臨月の妻タスリームさん(25)と長男ハリス君(6っ)とともに懸命に生き延びてきました。
ムザファラバードの中心地の空き地にテントを張ったハーンさん。地震前は中心部から少し離れたメルセイダーン地区に住んでいました。地区の人たち約二百五十人とともにテント生活を送っています。
「助産師さんを見つけるのに苦労したよ。息子の名前? 妻の希望通りにハスレーロにした。清らかという意味さ」
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取材した二十二日は出産から四日目。暖をとらなければ寒くて過ごせない夜が続きます。しかし、赤ちゃんの話をしはじめるとヤシンさんの顔はすぐにほころびました。
ヤシンさんは日雇いの建設労働者。月収は約四千ルピー(約八千円)。出産費用に千ルピー(約二千円)かかりました。「お金は働いて返せる。息子の誕生は何ものにもかえられないよ」
兄となったハリス君も「弟の面倒は僕もみる」と少してれながらいいました。周囲の人にとっても出産は一大事でした。水の確保が大変な中、わき水をくみ、救援物資の衣類を燃やしてお湯を沸かしました。
母親のタスリームさんの心配は母乳。救援の食料はパン類だけで、肉や野菜がほとんど口に入れられません。「栄養のあるお乳ではないと思います。これから先が心配です」
タオルにくるまれた赤ちゃんは安らかな顔をしています。「地震に負けずに健やかに育ってほしい」。両親の切なる願いです。
(ムザファラバード=豊田栄光 写真も)