2005年10月12日(水)「しんぶん赤旗」
1億円授受「あったかも」
橋本元首相が証言
日歯連ヤミ献金
裁判長「政治不信招いた」
自民党旧橋本派(平成研究会)の一億円ヤミ献金事件で、政治資金規正法違反(不記載)罪に問われた元官房長官村岡兼造被告(74)の公判が十一日、東京地裁(川口政明裁判長)で開かれ、橋本龍太郎元首相(68)の証人尋問が行われました。首相経験者の尋問は極めて異例。元首相は、一億円小切手の授受について「記憶にないが、ほかの方がそうおっしゃるなら、あったかもしれない」などとあいまいな証言に終始しました。
元首相は弁護側証人として、午後一時十五分ごろ、同地裁一○四号法廷に濃紺スーツ、ネクタイ姿で出廷。弁護側などが日本歯科医師連盟(日歯連)側から一億円の小切手を受けた経緯などを尋問しました。
元首相は、日歯連から小切手を受け取ったとされる二○○一年七月二日の会合に関し、「その日の記憶が欠落しているが、記録を調べたところ、出席は間違いない」とのべました。
平成研の滝川俊行元会計責任者(56)=有罪確定=に小切手を渡したことについても「事実はある」と認めたものの、「小切手を換金すれば痕跡が残り、領収書をなぜ出さなかったのか信じられない」との弁明を繰り返しました。
元首相の弁明について裁判長は、国民政治協会(自民党の政治資金団体)から領収証を出させる迂回(うかい)献金を使おうとした可能性もあり「反ばく材料にならない」と指摘。「証人が本当のことをいってくれているのかという疑問は払しょくできない」とのべました。
裁判長が元首相に「国民の政治不信を招いたことに深く反省しているのか」と確認する場面もありました。
また平成研が政治資金収支報告書に実際とは大きく食い違う繰越金を記載していた問題について元首相は、滝川元会計責任者の前の会計責任者から報告を受けていたことを認めました。
検察側立証によると、元首相は日歯連側との会合に、自民党の青木幹雄参院議員会長(71)、野中広務元幹事長(79)と出席。日歯連の臼田貞夫前会長(74)=有罪確定=らから、平成研への献金として一億円の小切手を受領しました。
■橋本元首相の一問一答
橋本龍太郎元首相の証人尋問での主な発言・やりとりは次のとおりです。(敬称略)
【一億円ヤミ献金】
――赤坂の料亭「口悦」で日歯連の臼田らと会食した事実の記憶は。
「その会合の事実をまったく覚えていない。会ったことは間違いなく記録に残っている」
――「口悦」で一億円の小切手を受け取った記憶は。
「その後臼田、滝川らの話で献金を知った。あったかもしれないと今、考える。記憶はない」
――滝川に小切手を渡した時、領収書を出せといっていないのか。
「滝川に渡す時は『はいこれ日歯から』という程度のことで、領収書どうこうはない」
【一千万円迂回献金】
――二〇〇〇年十二月、臼田は一千万円の現金を渡そうとしたら、あなたは受けとらず中年の秘書が受けとったと。記憶にないか。
「現職閣僚は警護官が離れていることはない。警察が見ている前でそういうことあるのか」
【平成研究会の繰越金・収支報告書不記載】
「綿貫から(平成研究会の会長を)交代して、当時の新里(庄四郎・会計責任者)に帳簿を見せられ、繰越金はこれだけ書いてあるけど、実際はそんなにないですよと言われた」
――氷代・もち代は領収書なしに出ていた。
「そういう慣例だったんでしょうね」
▼一億円ヤミ献金事件
日本歯科医師連盟(日歯連)が二○○一年七月二日、都内の料亭で、自民党旧橋本派(平成研究会)に小切手一億円を提供しました。橋本龍太郎元首相、青木幹雄同党参院議員会長、野中広務元同党幹事長が顔を見せ、元首相が直接受け取ったとされます。
○二年三月十三日、同派会長代行だった元官房長官村岡兼造被告が平成研幹部会で、収支報告書には記載しないことを取りまとめ、滝川俊行元会計責任者=有罪確定=と共謀したとして、政治資金規正法違反罪で起訴されました。
村岡被告は無罪を主張。東京地検は元首相と青木氏を不起訴、野中氏を起訴猶予としましたが、東京第二検察審査会が今年一月、不起訴不当を議決しました。青木氏は先月の村岡被告公判で「心当たりがない」と関与を否定しました。