2005年10月12日(水)「しんぶん赤旗」

ドイツ、大連立で合意

初の女性首相 メルケル氏選出へ


 【ベルリン=片岡正明】ドイツの二大政党、社会民主党(SPD)と保守のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は十日、大連立政権樹立へ向け「連立交渉の基礎」文書で合意し、二大政党の大連立がほぼ確実となりました。連立ではメルケルCDU党首が首相となり、初の女性、旧東独地域出身の首相となります。

 合意によると、CDU・CSUと社民党が閣僚級ポストを半数ずつ分け合うとしており、社民党は外相、財務相などの主要ポストを占めます。社民党から兼任で副首相が出ます。シュトイバーCSU党首が経済・技術相になることが決まっています。

 しかし、政策面での交渉は始まったばかりで、合意されたのは産業別労働協約の維持、所得税の簡素化と所得税免除の件数削減、日曜休日夜間勤務の非課税継続など四点のみ。十七日からの連立交渉第二段階で他の政策合意をはかります。

 メルケルCDU党首はベルリンでの十日の記者会見で、「新しい可能性の連立」になるとし、外交では「大西洋間関係を改善する」とのべ、対米重視の外交政策をとることを表明しました。

 一方、別に記者会見したミュンテフェリング社民党党首は「われわれは四年続く大連立に貢献し必要な妥協もする」が「刷新と社会的公正を貫く」とのべました。また同氏は「大連立がなったわけではなく、礎石が置かれただけだ」と語りました。

 CDUが選挙政策で掲げた解雇規制の緩和や、付加価値税の16%から18%への引き上げ、社民党の選挙公約の東西ドイツ間での失業扶助給付の格差是正、富裕者税の導入など両党で対立する問題については今後の連立交渉で話し合われます。

 連立交渉は十一月十二日に最終合意され、その後社民党、CDU、CSUの各党大会で承認される見込みです。

■解説

■負担増路線に国民警戒

 九月十八日に行われたドイツ連邦議会(下院)総選挙の結果を受けて、二大政治勢力の社会民主党(SPD)とキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、CDU党首のメルケル氏を首班とする大連立を組むことで合意に達しました。

 下院総選挙は、社民党のシュレーダー首相が相次ぐ州議会選挙での敗北で国会上院に当たる連邦参議院(各州代表で構成)での多数を失い、運営が困難となった政局を打開するための賭けに出たものでした。ドイツ国民の声は、社会保障・福祉の削減を進めてきた連立与党も、さらに国民負担を強いる政策を主張したCDU・CSUをともに得票率、議席で後退させるという形で総選挙結果に反映しました。シュレーダー首相が90年連合・緑の党との連立継続が不可能となったのはこのためです。またCDU・CSUもコール前政権時代の自由民主党(FDP)との連立の可能性がなくなりました。

 この選挙でシュレーダー政権の社会保障・福祉政策を批判し、二議席から五十四議席に躍進した左翼党連邦議会共同議長のギジ、ラフォンテーヌ両氏は声明で、今回の大連立を「選挙敗者の連合」と批判、社会保障解体の政策の継続に反対する「明確な野党としての活動」をあらためて表明しています。

 シュレーダー連立政権は、深刻化する失業問題の解決をめざし、ドイツの国際競争力を強化するため、社会経済改革政策「アジェンダ二〇一〇」、労働市場改革政策「ハルツ改革」を進めてきました。両改革とも本来の目的は達成できず、失業者手当制度や健康保険制度の改悪が国民への重圧となってきました。この政策はシュレーダー政権だけでなく、連邦参議院で多数を占めるCDU・CSUとの妥協の上で進められてきました。こういう経過から、今回の大連立合意も不思議ではありません。

 しかし、両党間には外交政策をはじめとして大きな不一致点も存在します。外交政策では、ともにイラク派兵を拒否していますが、独自の欧州防衛政策を主張する社民党と、ブッシュ米政権への協調を主張するCDU・CSUとには温度差があります。また、トルコの欧州連合(EU)加盟交渉についての推進を主張する社民党と交渉拒否を主張するCDU・CSUには大きな相違が存在します。

 左翼党は、大連立について「社会公正、平和外交政策、教育の機会均等、東西ドイツの生活条件の格差是正など政策転換を妨げるものだ」(ギジ、ラフォンテーヌ両氏の声明)との主張を強めています。

 社民党とCDU・CSUの今後の交渉のなかで具体化される連立政権の政策内容に、ドイツ国民の目が厳しく注がれています。(ベルリン=片岡正明)


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