2005年10月9日(日)「しんぶん赤旗」

障害者「自立支援」法案

自立への努力台無しに

地方公聴会 播本裕子さんの公述


 障害者「自立支援」法案について、七日に大阪市で行われた地方公聴会での、大阪知的障害者育成会吹田支部事務局長の播本裕子さんの公述(要旨)を紹介します。

 私は、重度の知的障害と自閉症を併せ持つ二十三歳の息子を持つ母親です。息子にとって自立とはどういうものかをお話しします。

 彼と暮らすなかで、私自身がりがりにやせていました。夜も寝れませんでした。夜はパジャマを着たことがありませんでした。夜、突然起きて走りまわる彼を、いつ追いかけても大丈夫なように、普通の服を着て寝ているような毎日で、体もボロボロでした。

■親から離れて

 彼が高校生ぐらいになったとき、片言までもいかない言葉で、「おかあちゃんから離れたいんだ」ということを私に伝えてくれました。彼はトイレの後、私に始末をしてもらわなければならない。私に始末をしてもらうために近くに寄ってほしいんだけれども、「近くに寄らないで、うっとうしい」という。その矛盾を知的障害を持つ彼が頭で整理することは非常に難しいため、彼は私におしりを突き出しながら「ママないない。ママないない」と言いました。

 彼にとって「自立」とは、親から離れて暮らすということなんです。

 彼が十九歳のとき、入所施設に入れました。そして、予想もしなかった彼の成長を見せてもらいました。

 トイレはなんとか自分で始末できるようになりました。生活の中で、例えば、お茶を飲むか、水を飲むかというようなことですが、選択できるようになりました。

 彼はぜんそく発作を持っています。ぜんそく発作が起きたときには私が気がついて、病院に連れていきました。ところが、彼が親から離れて自立した生活をする中で、発作が起きそうになったら自分で起きて、事務所のドアをノックして知らせられるようになったんです。

 自分の体の主人公になれる。自己決定ができる。これは重度の知的障害を持つ若者たちにとっての自立ではないかと思います。

■プライド持ち

 施設では、いろんな作業を用意してくれます。最初は作業するのが大変でした。でも、今年からはのこぎりを使ったり、くぎを抜いたりして、まきを作れるようになりました。

 私が「たけちゃん頑張ったね」というと「おとななんだからあたりまえや」とパッと手をはねのけるようにする。「おれはおとなだ」という高いプライドを持てるようになったんです。

 彼がこうなれたのは、適切な介護があったからこそだと思っています。

 彼の作業工賃は一カ月千円くらいです。ほかに収入は八万二千七百五十八円の障害基礎年金(一級)だけです。法案が成立すると、利用料の一割負担(二万四千六百円)、食費(四万八千円)、光熱水費(一万円)あわせて約八万二千六百円の負担になります。これではなんのために彼が頑張って自立しようとしているのかわからない制度ではないでしょうか。

 負担できなければ、自立生活をしている彼を私が引き取らなければいけないと不安でいっぱいです。

 これは「自立支援」法とは言えず、「自立できない」法案といわざるを得ないと思います。

■こんな費用が…

 知的障害児をかかえる家庭では普通では考えられないような費用がかかります。七日の地方公聴会で、播本さんがその一端を紹介しました。

 ◇

 息子がずっと家にいることができないため、車を使う仕事をしているわけではないが、ガソリン代が一カ月二万―三万円。

 こだわりがあり、最初に病院に行くときにタクシーに乗った場合、ずっとタクシーに乗らなければいけない。

 通り道に自分の好きなロゴのある店があったら、そこで買い物をしなければいけない。

 水にこだわりを持っているころには、水を出しっぱなしにしてずっと見ていたりして、水道料金が月三万円はあたりまえ。月六万円というときも。

 衣服や靴が普通の人より早く破れる。すぐなくす。


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