2005年8月17日(水)「しんぶん赤旗」

解説 イラク

多宗派・多民族間の統治に困難さ


 イラク憲法起草が期限までに決着しなかったことは、イスラム教シーア派、スンニ派、クルド人、さらにはキリスト教徒やトルクメン人など、多様な宗教・宗派、民族で構成されている同国の統治の困難さをあらためて示しました。同時に、事態を混乱させた米国の占領政策と圧力の弊害も明白となりました。

 起草にあたっての最大の争点は、連邦制の導入とこれにともなう自治権確保の是非でした。北部を拠点にするクルド人が連邦制導入を強硬に主張、スンニ派は「占領下での導入はイラクの分裂をもたらす」として議論の先延ばしを要求しました。一方、この問題で態度を留保していたシーア派指導者は今月十一日、同派住民が多数の南部を中心にした自治政府の樹立を求め、スンニ派の態度が硬化しました。

 これは基本的には、旧サダム・フセイン体制のもとで弾圧されてきたクルド人とシーア派が、それぞれの拠点が豊富な石油資源を持つ地域であるということを背景に、独自の要求を掲げ、疎外感を強めたスンニ派が激しく反発するという構図となっています。

 他の主要な不一致点であるイスラム教と国家との関係では、同教を「主要な法源」としたいシーア派と、「法源の一つ」にとどめたいクルド人、スンニ派との溝が顕在化しました。

 連邦制、イスラム教の問題のいずれも、対立の根は深く、一週間の延期で合意に達するか微妙な情勢です。

 憲法起草をめぐる混乱はまた、治安情勢の悪化を背景に議論の開始そのものが重大な遅れをきたしたことにも起因しています。

 昨年十一月の米軍による中部ファルージャ攻撃で数千人の住民が殺害され、治安情勢も悪化したことをうけ、スンニ派住民の大多数は今年一月末の暫定国民議会選挙をボイコット。そのため、同派は当初、憲法起草作業から締め出されました。スンニ派代表も議論に加えよという世論の高まりもあり、同派のまとまった形での憲法起草委員会参加が決まったのは実に六月末でした。

 ブッシュ米政権が自らの占領を正当化するために、イラクの憲法起草に関し「期限までに合意されなければならない」(十一日、ブッシュ大統領)などと介入したことも重大です。米国のハリルザド駐イラク大使が、起草協議参加の政党代表に個別に圧力をかけたといわれています。

 バグダッド大学のサウサン・アルアサフ教授は本紙にたいし、「イラク国民が直面している真の問題は、憲法起草でより多くの対話と議論が必要な時に、米政権が自分勝手な意思を押し付けようとしていることです。国民は憲法の重要性を認識していますが、それが治安悪化や無秩序といった占領の失敗を合理化するためであってはならないと考えています」と語りました。

 (カイロ=小泉大介)


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp