2005年6月17日(金)「しんぶん赤旗」
主張
交通運輸の安全
命脅かす規制緩和は見直せ
「いま日本の交通がおかしい」。国民は不安を感じています。航空会社の相次ぐトラブル、JR西日本の電車脱線事故をはじめ、交通運輸の事故が多発しているからです。
事故の多発は偶然ではありません。その根っこに「市場原理で自由に競争させる、その障害になる規制は取り払え」という政策があります。
多発する輸送の事故
日本航空機の前輪タイヤ二本の脱落、全日空機の高度を誤認した飛行は、大事故につながりかねない事態です。原因の徹底究明が必要です。
なぜトラブルが続発するのか。そこには、競争の激化で安全よりコスト削減を優先し、整備部門は下請けや海外への委託を進めるなど、利益第一の航空会社の経営があります。
この背景にあるのが、政府の規制緩和です。航空事業への新規参入や運賃の規制を緩和し、点検整備の他社への委託も認めてきました。
JR西日本の脱線事故も、余裕時間のない過密ダイヤでスピード運転を強いてきたもうけ第一、効率優先の経営姿勢が問われています。
「効率的な経営体制」は国鉄民営化の目的でした。政府は効率優先で安全対策をゆるめる規制緩和を実行。大手私鉄に速度制限型の自動列車停止装置(ATS)の設置を義務付けていた通達をJR発足時(一九八七年)に廃止しました。これは、事故の背景の一つにもなっています。
安全を優先すべき公共交通の規制を緩和した政府の責任は重大です。
タクシー業界では、台数や運賃の規制緩和により、全国で約二十六万台の車両数が三年間に一万三千台以上増えました。大量増車と運賃値下げ競争の中で、タクシーの交通事故は十年間に五割も増えました。
トラック輸送ではこの数年、悲惨な多重衝突事故が続発しています。
九〇年から貨物運送の参入や運賃の規制緩和がされ、八九年度から二〇〇三年度に運送業者は一・五倍、交通事故は一・四倍に増えました。
交通運輸の分野での規制緩和の根本には、財界の厚かましい要求と政府の基本路線があります。
政府の行政改革委員会は九五年、規制緩和が「国全体のリストラの一環」であり「競争促進は、とりもなおさず弱肉強食」と強調しました。
財界は、大競争に勝ち抜くために「高コスト構造を是正することが急務」であり「人為的な需給調整条項を全廃する」べきだ(九七年、経済同友会「市場主義宣言」)と要求しました。そして「物流コストの低減」「市場原理に基づく競争促進」(経団連)を求めてきました。
政府は九六年、交通運輸の分野で、新規参入や運賃などを規制してきた需給調整規制を、期限を定めて原則廃止すると打ち出しました。
それまでの運輸行政の基本は、自由競争にまかせれば、過当競争で安全性とサービスの質が低下し、不採算路線からの撤退を招くので需給調整規制が必要だというものでした。これを転換しました。そして、各分野で規制緩和が徹底されました。
安全は公共交通の責任
国民の安全・サービスが削られる一方、公共交通を含めて大企業は大もうけです。無謀な規制緩和の破たんは明らかです。こんな規制緩和万能の政策は転換すべきです。
多くの人命を預かる大量輸送機関にとって安全は命です。輸送の安全を確保し、公共の福祉を増進する特別の社会的責任があります。
政府は国民の命と安全を守る規制を強めて、関係企業にその責任を果たさせることこそ必要です。