2005年6月14日(火)「しんぶん赤旗」
主張
米州機構
中南米に吹く新しい自立の風
米国の「裏庭」といわれてきた中南米に、新しい自立の風が吹いています。米州機構(OAS、米州の三十五カ国が加盟)の事務総長選で米国が推した候補が敗れ、総会で米国の提案が通りませんでした。
ブッシュ米大統領は総会(六日)で演説し、「国民を代表する政府」「世界市場への統合」などの表現を使い米国流の「民主主義」を受け入れているかどうかで中南米の国々を二分して「援助」を決めると強調しました。米国はこの立場から、OAS各国の「民主主義」監視機構をつくる宣言草案を提案していました。
不干渉と自決の原則
米国の提案は八割の国から明確に拒否され、最終的に採択された宣言は「不干渉」「自決」の原則を強調し、新監視制度を退けました。
総会では、「OASを各国の内政に干渉する機関にすべきでない」(ベネズエラ外相)「民主主義を押し付けることはできない」(ブラジル外相)と米国批判があいつぎました。
ブッシュ政権の狙いは、ベネズエラのような対米自主性を発揮する国の「民主主義」に注文をつけ、米国寄り野党や反政府「市民組織」にてこいれして、米国の思惑に沿わない政権を転覆する足掛かりをつくろうということでした。OAS総会前にベネズエラの現政権と対立する人物にブッシュ大統領が会ったのに続き、総会中にライス国務長官が会うこともしています。
このもくろみはくじかれました。それでも、ノリエガ米国務次官補はOAS総会の結果に満足していると語っていますが、総会の成り行きがはっきりしてからは「米外交の敗北」(ニューヨーク・タイムズ紙)、「『米国の植民地庁』となってきた(OASの)恥ずべき歴史の転換点」(メキシコ紙ホルナダ)と報じられています。
米国はいまでも中南米諸国にとって、貿易の五割以上を占めるなど最大の取引相手国であり、軍事的にももっとも影響のある国です。OAS総会を通じてはっきりしたのは、その米国の力を使っても今日の中南米はもはや思い通りにできる「裏庭」ではない、という現実です。
中南米では、ベネズエラやブラジルに続いて最近二年間にもアルゼンチン、パラグアイ、パナマ、ウルグアイに新しい政権が生まれ、米国のイラク戦争支持国は二割程度にすぎず、南米共同体創設の動きなど自主的な地域協力が進んでいます。
ブッシュ大統領はOAS演説で、十九世紀末のキューバ独立運動指導者ホセ・マルティの言葉「自由は取引できない」を引き、「いつの日かキューバの海岸にも自由の波が到来する」と語りました。フロリダ海峡をはさんだ米国がキューバに自由をもたらしてやるといわんばかりですが、百年以上前にマルティたちの独立運動で手にしかかったキューバの民族的自由を踏みにじってきたのは米国です。一九五九年のキューバ革命以降の四十年以上も「経済制裁」を続け、キューバのグアンタナモ米軍基地に居座って軍事干渉を続け、政権転覆を策してきたのも米国です。
歴史的な流れは
民族の自由・自決なくして国民の自由はありません。米国の干渉を許さないことが自由に不可欠です。ホセ・マルティは「合衆国が典型的な自由の国になれるとは率直に信じられないでいる」と米紙に寄稿していました。米国の勢力圏に組み込まれてきた中南米諸国の変化は、先駆者の予見を生かして、国際的な自決と自由の歴史的な流れを強めています。